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中小企業における新卒採用戦略
内田 佑

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学生の確保に悩む採用担当者
 
「採用戦略」という言葉を聞いて、読者の皆さんはどんなことを思い浮かべるだろうか?
 
筆者が経営者や採用担当者と採用について話をすると、ほとんどの方が「母集団の集め方」の話をされる。しかし、中小企業は「母集団の形成」よりも「歩留まりの向上」に力を入れるべきだ。本稿では、その理由と手法について述べたいと思う。
 
2016年の新卒採用においては、政府の要請により経団連が採用活動のスケジュールを大幅に変更した。採用広報解禁は大学3 年生の12 月から3 月へ、選考開始時期は4 年生の4 月から8 月へとそれぞれ後ろ倒しとなり、対応に苦労した企業も多い。実際、「どこにいけば学生がいるのか分からない」といった言葉を経営者・採用担当者から聞く機会が多かった。
 
歩留まり率の向上に目を向ける
 
母集団の形成は、企業の規模・知名度・就職活動ナビサイトや合同企業説明会への投資額に比例しやすく、中小企業が母集団を増やそうと思っても、すぐに達成することは難しい。それに加えて、2016 年卒の採用活動では、先に述べたように学生と大企業が例年と違う動きをしたため、今まで以上に母集団を集めにくくなってしまった。
 
そこで今後、採用活動において重要になるのが「歩留まり」である。例年よりも少ない母集団から、例年並みもしくはそれ以上の人数の学生を採用するには、歩留まりを向上させなければならない。そのためには、どのような対策をとるべきなのか? 次に例を挙げながら紹介していきたい。
 
1.現状認識
 
まずは自社の歩留まりがどの程度なのかをチェックしていただきたい。ここではA 社の例(【図表】参照)を紹介する。
 
A 社では、2015 年の新卒採用では400 名のエントリー、2016 年の新卒採用では300 名のエントリーがそれぞれあったが、初めのステップである企業説明会への参加者数はそれぞれ79 名、51 名と歩留まり率が20%以下であった。エントリーをした後、企業説明会に参加したいと思う学生の数が少なかったことが分かる。つまり、企業説明会の事前情報が不十分であったこと、または学生にとって魅力的な情報を発信できなかったことや、エントリーした学生のA 社への志望度が高くなかったことなどが考えられるため、来年に向けて手立てを講じたい。
 
また、企業説明会に参加した学生のうち1 次面接を受けた学生の歩留まりは2015 年卒では88.6%と高いが、2016 年卒では58.8% にとどまった。大手企業と面接の日程が重なったと考えられるため、日程をずらすなどの工夫が求められる。自社の現状を正しく把握し、その上で対策を考えていくことだ。
 

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【図表】A 社の歩留まりの現状分析例


 
2.歩留まり向上のための大前提
 
歩留まり向上の対策を考える上で、最大のポイントは「人」である。
 
筆者はさまざまな企業の採用活動を支援したが、同じ対策を講じても、「誰が」採用に携わったかによって、成果は大きく異なった。例えば、人事部の社員のみではなく、年齢が学生に近く、学生にとって魅力のある若手社員も部署の壁を越えて携わるべきだ。
 
また、他社との差別化も検討する必要がある。差別化ポイントはどこなのかが明確になっていない企業は、就職活動サイト、自社ホームページ、説明会などで発信する内容が毎回異なり、自社のアピールがピンボケしているケースが目立つ。担当者によって話すことが違うと、学生に不信感を与えてしまうことにつながる。このようなことのないよう、自社の差別化のポイントは採用に携わる社員全員で共有しておかなければならない。
 
次に、実際のタイミングごとの対策事例を挙げていく。
 
(1)単独企業説明会への誘導
 
就職活動サイトへのエントリー、ホームページへの訪問者、合同企業説明会への参加者を、できる限り自社の説明会へ誘導する必要がある。そのためのポイントは、自社の単独企業説明会に学生が参加する理由をつくることである。
 
ある製造業の採用活動として実際に行った事例を紹介する。同社は、自社の差別化ポイントを「工場メンバーも気さくで明るく仲の良い企業であること」とした。就職活動サイトのページやホームページも一新し、単独企業説明会では若手社員との質問会の時間が多くあること、就職活動そのものの相談にも乗ることをアピールした。その結果、例年以上に学生が集まり、アンケートでも先輩社員との座談会が一番評価が高かった。
 
(2)選考への誘導
 
自社の強みをどのように伝えるかがポイントとなり、そのための演出、スケジュールなどをしっかりと組むことが重要である。
 
ここでも一つ事例を取り上げる。ある企業では差別化のポイントを「若い社長のもとで活気ある社風が醸成されている」と設定した。このポイントを訴求するため、企業説明会の最後に社長がサプライズで現れ、全員と握手をして終わるという演出を入れた。
 
若く、勢いがあって爽やかな社長だからこそできる演出ではあるが、集まった多くの学生が感動しながら、積極的に握手をして帰っていった。実際、その回の説明会に参加した学生は、ほとんどが面接まで参加した。
 
(3)次の面接への誘導
 
この段階においても自社のアピールを忘れないことがポイントとなる。
 
面接は「企業が学生を選抜する場だ」と考えている企業は非常に多いが、学生が企業を判断する場でもある。
 
機械的に質問を繰り返すのでなく、「わが社では、君の言っている〇〇をこんなふうに実現できる」といったように、自社のアピールを含んだ返し方をするなどの工夫が必要だ。
 
(4)内定辞退防止
 
学生の状況を把握し、その都度、対応することが必要である。そのためには学生との接触機会を増やさなければならない。内定者懇親会の開催や、自社でのインターシップやアルバイト体験を提供するなどが一般的だが、他にも工夫の余地はある。
 
例えば、ある製造業の採用担当者は、選考途中からやりとりを全てLINE での連絡に変えた。すると、内定後も学生たちと密に連絡が取れ、学生一人一人との距離が縮まり、他社の選考状況の詳細や自社への志望度などを詳しく聞き出すことに成功したという。
 
 
 
タイミングごとで歩留まり向上に向けて実施した事例を紹介した。これらは一例であり、最適な対策内容は各社の社風、採用担当者の性格によって大きく変わる。まずは現状認識を行った上で、自社に最適な歩留まり向上対策を考えていただきたい。