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【対談】

BRAND PROMOTION:ブランド価値を見つけ、磨き、発信する

ブランディングやプロモーションに優れた注目企業の施策を紹介します。
対談2021.07.01

ワークマンのブランディング戦略: 「ワークマンプラス」

 

ワークマンの主要ブランド

 

 

現場作業者向けの「ワークマン」から一般向けの「ワークマンプラス」、そして女性を重視した「#ワークマン女子」と、次々に新業態を展開するワークマン。客層拡大を続ける背景には、独自の経営と商品開発、マーケティング、そしてブランディング戦略があった。

 

 

“思わぬ発見”が客層拡大のヒントに

 

ロードサイドでよく見かける「ワークマン」店舗の看板が今、急速に「ワークマンプラス」に置き換わっている。看板には「プラス」という言葉が加わっただけだが、店内を見ると客層は大きく異なる。厳密に言えば、昔からのコアな客層である現場の作業者に加えて、一般の女性客が足を運んでいるのだ。わずか数年で大きな変化が起きたワークマンに、いったい何があったのだろうか。

 

発端は2008年のリーマン・ショックにさかのぼる。ワークマンは、群馬を拠点にスーパーマーケットやホームセンターなどを運営するベイシアグループの一業態として、1980年に1号店を開店。その後はテレビCMに演歌歌手の吉幾三を起用するなどして、知名度を高めながら、「職人の店」として全国へ展開していった。

 

同社は、「しない経営」を徹底してきたことで知られる。仕入れメーカーには「売れ残りの返品をしない」、フランチャイズ加盟店には「対面販売しない」「ノルマもない」、そして社員は「残業をしない」「仕事の期限を設けない」。こうした「しない経営」により、社員・加盟店・メーカー・自社の「四方良し」の経営で成長を遂げてきたのである。

 

ところが、リーマン・ショックを境に、それまで右肩上がりを続けてきた業績はストップしてしまう。売り上げ拡大策として始めたのが、オリジナル製品の開発だった。

 

「基本的にワークマンは常連の職人が来店する店です。そんな常連の方々の購入機会を増やすことで売り上げの増加を図りたいと考え、PB(プライベートブランド)製品を手掛けるようになりました。

 

その1つが、防水・防寒機能に優れた『イージス』というブランドです。北海道や東北など寒い地域での屋外作業や、雨の日の作業を想定したウエアを開発して購入機会の増大を図りました」

 

ワークマン広報部チーフの鈴木悠耶氏は、PB製品の開発を始めた背景をそう説明する。イージスは過酷な気象条件で作業する人を想定して開発した防寒服だったが、すぐに予期せぬ反響が生まれた。バイクに乗るライダーから、大きな支持を得たのだった。実際にイージスを愛用するライダーが、ブログなどで優れた防寒性を紹介し、運転時のウエアとしての利用が広がっていったという。ライダーとワークマンの双方にとって、まさに“思わぬ発見”であった。

 

この発見で、ワークマンは「職人」だけでなく「一般向け」としてもビジネスが成り立つことを知る。それが、一般向けの店舗である「ワークマンプラス」へと発展することになっていった。

 

 

アウトドア市場のブルーオーシャンを開拓

 

イージスで新たな客層を発見したワークマンは、その後、異なるカテゴリーのPBを立ち上げる。防水・防寒機能に優れたイージスのほか、アウトドアウエアの「フィールドコア」、スポーツウエアの「ファインドアウト」という3ブランドである。こうしたブランド展開により、ワークマンは職人だけの店舗ではなくなっていった。

 

「当社の経営戦略は『顧客拡大』です。同時に、他社と競合しないという経営方針もあります。職人に限定してきた市場で圧倒的なシェアを占めていた当社は、PB製品の開発・販売によりアウトドアウエア市場に参入することになったわけですが、そこは既存の有名ブランドがひしめく激戦区。ですが、徹底的に市場をリサーチした結果、ブルーオーシャンを見つけることができました」(鈴木氏)

 

空白だったのは「高機能」かつ「低価格」の市場だ。有名アウトドアウエアは高機能だが高価格。逆に廉価なアウトドアウエアは低機能なものがほとんど。そこでワークマンは、高機能でありながら低価格のPB製品開発に乗り出し、アイテム数を増やしていった。そして2018年9月、大型商業施設・ららぽーと立川立飛(東京都立川市)に初出店したのが、一般向け高機能ウエアを充実させた新業態「ワークマンプラス」である。

 

「当初はアンテナショップの位置付けでしたが、ふたを開けてみると、開店初日から行列ができるほどの盛況ぶり。まさしく予想外の反響で、社員も驚いたほどですが、同時に手応えをつかんだ瞬間でした」(鈴木氏)

 

ワークマンプラス専用の製品は一切なく、ワークマンでも扱うPBの3ブランドを中心に一般受けする製品に絞り込んでいる。この製品戦略も「高機能」「低価格」の秘訣と言えるだろう。実際、ワークマン店舗で1700アイテムを扱うのに対し、ワークマンプラスで扱うのは320アイテム前後。客層を比較すると、ワークマンは男女比が8:2だが、ワークマンプラスは5:5と一般女性の支持を得ている。

 

1号店の出店以降、積極的にワークマン店舗をワークマンプラス店舗へと業態変更してきたワークマン。その結果、3年足らずでワークマンプラスは272店舗(2021年4月現在)に増加し、アウトドアウエア市場に独自の地位を築いた。

 

 

一般向けの新業態「ワークマンプラス」が快進撃を続けている(左はワークマンプラス店内、右はららぽーと沼津店)

一般向けの新業態「ワークマンプラス」が快進撃を続けている(左はワークマンプラス店内、右はららぽーと沼津店)

 

 

アンバサダーを巻き込んだ情報発信と製品開発

 

ワークマンプラスが一般消費者、特に女性の心を捉えた要因はいくつか考えられる。まずは製品が高機能、低価格であること。加えてデザイン性も重視され、ファッションに敏感な人々のニーズを満たした。また、アンバサダーを巻き込んだ製品開発や情報発信が功を奏していることも、大きな要因だろう。

 

現在、同社には約44名のアンバサダーがいる。全員が各分野の専門家だ。猟師、キャンパー、マラソンランナー、ユーチューバー、ファッションアナリストなど、それぞれの分野で影響力を持つオピニオンリーダーをアンバサダーに任命し、ワークマンプラスの製品について、自身のブログやインスタグラム、ユーチューブなどで情報発信してもらう。

 

「アンバサダーの方々には、無報酬で情報を発信していただいています。年2回の展示会や店舗開店時の内覧会に来ていただき、素直な感想を発信していただきます。時には厳しい意見もありますが、自然体で中立的な姿勢が消費者の信頼を得ているのだと感じています」(鈴木氏)

 

さらに、アンバサダーに製品開発へ参加してもらい、アドバイスを得ることも。ちょっとしたデザイン変更など、リアルなユーザー目線を取り入れることで、販売数が飛躍的に変化することもあるという。

 

ワークマンはアンバサダーに製品開発や情報発信を手伝ってもらい、ワークマンの“ネタ”を知ってもらう。アンバサダーはその情報を発信し、チャンネル登録者数やページビュー数を増やして収入につなげるという、win-winの関係を築いているのだ。

 

 

「#ワークマン女子」の出店を加速

 

ワークマンプラスでアウトドアウエア市場を開拓したワークマンだが、新たな課題も浮上している。現場作業者と一般客という、異なる客層が同じ店に来店する中、すみ分けが必要になってきているのだ。

 

将来的には、作業服だけを取り扱うワークマンを現在の631店舗から200店舗程度に減らし、両カテゴリーが買えるワークマンプラスを900店舗まで増加させる計画。その上で、女性用アウトドアウエアを充実させた一般客向け新業態「#ワークマン女子」の展開にも力を注ぐ。

 

「2020年10月、#ワークマン女子1号店を横浜市のショッピングモール内にオープンしました。その後、路面店も含めて出店を進めています。将来的には2030年までに400店舗まで増やしたいと考えています。

 

また、当社の女性客は30~40歳代の主婦層の方々が中心ですが、30歳以下の女性にも“ワークマンはおしゃれ”とご認識いただき、ファンになっていただけるように、2021年には東京ガールズコレクションにも参加しました」(鈴木氏)

 

#ワークマン女子は現在、駅チカの出店を進めている。同社のECサイトで購入した顧客に商品受け取り場所として、店舗を利用してもらうとともに、実店舗への誘客を図る狙いもある。

 

一般客、女性という客層拡大のために、新しい製品の開発、新業態へのチャレンジなど、次々に新機軸を打ち出してきたワークマン。その歩みはさらに加速しそうな気配だ。

 

 

※取材時点(2021年4月)ではコロナの影響を受け、中止または縮小されている

 

 

広報部 チーフ 鈴木 悠耶氏

広報部 チーフ 鈴木 悠耶氏

 

 

PROFILE

  • (株)ワークマン
  • 所在地:東京都台東区東上野4-8-1 TIXTOWER UENO(東京本部)
  • 設立:1982年
  • 代表者:代表取締役社長 小濱 英之
  • 売上高:1466億円(チェーン全店、2021年3月期)
  • 従業員数:332名(2021年3月現在)

 


分 析

ワークマンの「売れる仕組みづくり」に学ぶ

 

「売ろうとせずに、売れる仕組みをつくること」。P.F.ドラッカーはマーケティングをそう定義する。今回の取材企業は、対面販売もノルマもなしといった「しない経営」をして右肩上がりであったが、リーマン・ショックを境に売れ行きが鈍化したものの、マーケティング戦略の見直しでさらなる飛躍を遂げたワークマンである。

 

売り上げを上げるには、基本的に「新規獲得・既存リピート×客単価アップ」を狙っていく。しかし、ワークマンの戦略は「既存客のリピート率を上げる×客単価維持(低単価)」だった。既存顧客への高機能なPB展開を狙ったものだったが、実際は新規顧客が飛びついた。この想定外の幸運により、同社は大きくマーケティング戦略のかじを切った。

 

これまで職人向けに、地方エリアにおいてリアル店舗で販売していたが、一般客や女性をターゲットに設定し、アウトドアブランドが展開しているようなデザイン性と機能性を兼ね備えた商品を開発。低価格で駅チカや都心、ECで展開し始めた。

 

チャネルやプロダクトの変更に加え、差別化を際立たせるプロモーション施策も行った。トレンドに敏感な10~20歳代女子が集まるアパレルブランドのお披露目の場「東京ガールズコレクション」では、土屋アンナなど著名人が身にまとい商品を絶賛した。

 

これまでの職人作業着のイメージを、高機能で動きやすいおしゃれ服へと転換して新規獲得を行い、またしても売らずして売れる商品・仕組みづくりに成功している。

 

タナベ経営
マーケティングコンサルティング本部

 

 

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