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Vol.13 経営者の自己勇気づけ2

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2020年11月号

 

 

「経営者の自己勇気づけ」シリーズの第2回目、かつ本連載の最終回です。経営者が自らを勇気づけるポイントの続きをお伝えします。

 

 

経営者が自らを勇気づける四つのポイント

 

❶生活そのものを勇気づけで彩る
❷勇気づけてくれる人と関わりを持つ
❸言葉・イメージ・行動を味方に付ける
❹勇気づけの技法を駆使する

 

前回(2020年10月号)は、経営者が自分自身を勇気づける方法の❶だけお伝えしました。今回は❷以降について説明していきます。

 

❷勇気づけてくれる人と関わりを持る

 

私が経営者と接していて「この人は底が浅いな」と感じるときと、「この人は奥深いものを持っているな」と深く感銘を受けるときの違いをひと言で表現すると、「その経営者が良き師を持っているかどうか」に尽きると思います。

 

「良き師」と言っても、現実に指導を受ける師匠格の人とは限らず、書物などで接する人でも歴史上の誰かでも構いません。経営に関係する人でなくとも、宗教家でも哲学者でもジャーナリストでもけっこうです。ただ、その人の大部分を吸収してしまうように傾倒しなければなりません。そうすることにより、その人の教えを自分の軸として取り込めるのです。


❸言葉・イメージ・行動を味方に付ける

 

これは以前、本田技研工業に勤めていた研修業の大先輩からの伝聞です。

 

創業者である本田宗一郎氏は、同社と欧米の技術力の格差が大きく、給料遅配も続いていた1955(昭和30)年ごろ、みかん箱の上に乗り、オートバイ競技の最高峰「マン島TTレースで優勝しよう!」と演説を繰り返していました。

 

先輩は初め「この人は正気でない」と思ったそうですが、何度も何度も聞かされているうちにだんだんその気になってきて、給料の遅配も、夢の実現のためにはやむを得ない通り道に思えたのだそうです。「マン島TTレースで優勝しよう!」というビジョンは従業員の発奮材料になり、約5年で実現しました。

 

ここでの教訓は、ポジティブな言葉を反復していると、それがありありとしたイメージとして脳に刻まれ、イメージでしかなかったものがまるで現実のように思われて、抵抗の少ない形で自分自身を行動へ駆り立てるということです。

 

これは、アドラー心理学の世界では「As if(アズ・イフ)テクニック」として、「すでに実現したかのように行動せよ!」の言葉で伝承されている技法です。「言葉」「イメージ」「行動」の3点セットによるモチベーション法でもあります。

 

ここでの大敵は、言葉の上での「イエス・バット(Yes, but)」です。「~をする」とポジティブに断言調で言ったとしても、「だけど、現実には……」「でもね、このコロナ禍では……」と、「だけど」「でも」という「バット」に相当する言葉を口にすると、イメージは後半の言葉に支配されてしまいます。行動も気迫に欠けたものになります。「バット」が入り込む余地のないよう、ポジティブな断言調に、すでに実現したかのように言い切ることが肝要です。

 

❹勇気づけの技法を駆使する

 

他者を勇気づける技法として、連載11回目(2020年9月号)で「①ヨイ出し」「②心を込めての感謝」「③進歩・成長を認めること」「④失敗をも勇気づける」の四つについて述べていますので、関心のある方はそちらをお読みください。

 

この四つの技法を自分自身の勇気づけとして使うならば、①自分のダメなところではなく、ヨイ点を折節に見つめ直すこと、②自分自身に心を込めて感謝すること、③自分自身の進歩・成長をしっかりと凝視すること、④自分の失敗をもチャレンジの証し、学習のチャンスとして勇気づけることです。

 

特にこの1年を振り返ってみると、コロナ禍の影響によって売り上げが低迷したり、原材料の確保が困難であったり、従業員を休業させなければならなかったりと、思わぬことの連続であったはずです。その意味では、私たちを取り囲む環境は「勇気づけ」の対極にある「勇気くじき」そのもので、活力が失われ、自尊心が損なわれることの連続だったでしょう。

 

しかし、今までお伝えしてきた「尊敬(リスペクト)」「信頼(トラスト)」を基に顧客や相手の立場に立ち、現場・現実を直視し、状況を俯瞰する「共感」をもとに、企業としてあるべき「目的/目標」に向かって従業員の「協力」が図れる企業環境を確立できれば、必ずや困難を克服する活力あふれる「勇気づけ」の雰囲気に満ちた組織が実現できるはずです。

 

そのゴールを実現できるか否かは、経営者であるあなたが、日々刻々と迫ってくる問題の解決のために「勇気くじき」を選ぶか、「勇気づけ」を選ぶかという判断に極めて大きく左右されます。今後のあなたの判断基準として「勇気づけ」を強くお勧めします。

 

本連載「経営者に贈るアドラー心理学の知恵」は、本稿が最終回です。タナベ経営の若松孝彦社長との対談(2019年11月号「100年経営対談」)の機会にも恵まれ、全13回、皆さまとのご縁を賜れたことに心から感謝申し上げます。長らくのお付き合いありがとうございました。

 

 

「アドラー心理学」とは201912_adler_02
ウィーン郊外に生まれ、オーストリアで著名になり、晩年には米国を中心に活躍したアルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)が築き上げた心理学のこと。従来のフロイトに代表される心理学は、人間の行動の原因を探り、人間を要素に分けて考え、環境の影響を免れることができない存在と見なす。このような心理学は、デカルトやニュートン以来の科学思想をそのまま心理学に当てはめる考えに基づく。一方、アドラーは伝統的な科学思想を離れ、人間にこそふさわしい理論構築をした最初の心理学者である。

 

 

 


 

 

筆者プロフィール


ヒューマン・ギルド 代表取締役
岩井 俊憲 (いわい としのり)
1947年栃木県生まれ。早稲田大学卒業後、外資系企業に13年間勤務。1985年ヒューマン・ギルドを設立、代表取締役に就任。アドラー心理学カウンセリング指導者。中小企業診断士。著書は『「勇気づけ」でやる気を引き出す!アドラー流リーダーの伝え方』(秀和システム)、『経営者を育てるアドラーの教え』(致知出版社)、『アドラーに学ぶ70歳からの人生の流儀』(毎日新聞出版)ほか50冊超。