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Vol.10 組織と個人に働き掛ける勇気づけ2

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2020年8月号

 

 

今回は「勇気づけ」の実践編です。個人と組織に活力を与える「勇気づけ四つの心得」を伝授します。

 

 

2020年7月号の特別編を間に挟みましたが、6月号Vol.8に続く「勇気づけ」シリーズの2回目です。1回目では 「勇気づけ」を「困難を克服する活力を与えること」と定義し、「尊敬(リスペクト)」「信頼」「共感」「協力」の態度が欠かせないと述べて、「ヨイ出し」と「ダメ出し」を対比しました。

 

今回は、「どのように勇気づけを展開すれば、個人と組織に活力を与えることができるか」に絞って、勇気づけの実践の心得をお伝えします。

 

 

勇気づけのリーダーシップの展開

 

あなたのリーダーシップに勇気づけのスパイスを加えるため、「四つの心得」をお伝えします。これを3カ月続けると、やる気に満ちた人たちが続々誕生します。6カ月続けると、組織風土に活力が生まれます。

 

❶ヨイ出し

 

人の1日は、ほとんどが適切な行動によって成立しています。行動全体のうちで不適切な行動(遅刻をする、あいさつをしない、失敗するなど)の頻度は5%程度です。

 

ここでいう「適切な行動」とは、身支度を整える、後片付けをする、業務連絡をする、業務を遂行する(電話に出る、書類を作成する、メールの返信など全ての業務に含む)など、当たり前のことばかりです。これらの全てが適切な行動です。

 

適切な行動の頻度は全体の95%くらいを占めると推測されますが、適切な行動は「当たり前」「目立たない」ため、注目の度合いは低くなってしまいます。

 

「人はある行動に注目されると、その頻度が上がる」傾向があります。ヨイことの頻度を増やしたければ、ヨイことを探し出し、それらを積極的に言語化していく必要があります。

 

歯が浮くような嘘やお世辞ではありません。また、「悪事を見逃せ」という意図でもありません。ダメ出しをするのと同様に、あくまでも事実としてその人の適切な行動に言及するヨイ出しを行うことにより、言われた側は「粗探しばかりされているわけではない」「経営者は公平に自分を見てくれている」という気持ちを持つことができます。ひいては自己肯定感を高め、セルフモチベーションを上げ、組織が活性化していくことにつながるのです。

 

❷心を込めての感謝

 

あなたは今まで支えてくれた人たちに感謝の気持ちを「言葉に出して」表明していますか?

 

「そんなこと今さら恥ずかしくて言えない」という方がいるかもしれません。あなたが大切に思っている、感謝をしたいと思っている人に対し、どんなに心の中で感謝したとしても、言葉に出さなかったら伝わらないに等しいのです。上司・部下の関係でも、夫婦でも、心の中で思っていることのほとんどは実際に伝わっていないのです。

 

本当に伝えたいことがあるとき、照れるから、恥ずかしいからと言って口に出さないことから卒業して、心からの感謝を言葉にして、相手に「伝わるように」する習慣を身に付けてください。最もコストが安く、最も効果が高い勇気づけは感謝なのです。

 

ちなみに、ヨイ出しと感謝は、勇気づけを展開する場合の入門編です。入門編ができるようになったら、中級編として❸と❹に進みます。

 

❸進歩・成長を認めること

 

中長期的に成果を出し続けたいのであれば、「人間性の原理」に基づき人を育成することが大切です。花を毎年咲かせ続けるばかりか、もっと長期的に考えれば、実のなる木で林や森を作る。そのためには、苗を育てるところから始めなければなりません。その苗が実のなる木へと育つためには、水や養分が必要です。

 

経営者であるあなたは、目先の収穫も考慮に入れなければなりません。しかし、中長期的な収穫増を望むのであれば、彼・彼女らを根気強く育成する必要があります。ヨイ出しや感謝を用いてモチベーションを上げるような対応が求められます。

 

「結果」だけを見るのではなく、一人一人の過去から現在にかけて成し得た成長・進歩に注目し、それを言葉にして彼・彼女らに伝える必要があります。数字上は成果が出ていない場合でも、成長・進歩に注目されれば、一歩前へ踏み出す勇気につながっていくことでしょう。

 

❹失敗をも勇気づける

 

あなたの半生を振り返っても、入社してから現在までのビジネス人生を振り返っても、いくつかの失敗が思い当たることでしょう。あなたはなぜそんな失敗をしたのでしょうか?

 

失敗には共通した答えがあります。なぜ失敗をしたかというと、「チャレンジしたから」なのです。失敗の記録は、あなたが目標を持ち、積極的に取り組んだ証し(チャレンジの証し)と言えます。

 

勇気づけが根付いている職場では、失敗から教訓を引き出し、同じことが起こりそうなときにその教訓を生かして同じ轍を踏まないようにすることができます。失敗を悪と受け止めないので、その経験を共有することができ、仲間の失敗も未然に防げます。失敗を失敗だけに終わらせず、「学習のチャンス」と捉えることができるのです。

 

失敗の経験は尊く、勲章に値します(大きな目標へ取り組んだ勲章)。「何も見つからない」「これをやるのは時間の無駄だった」という悔しい思いが、もう一度頑張ろうとする燃料になり(再出発の原動力)、失敗を客観的に検証することが成功につながることもあるでしょう(次の成功のタネ)。

 

本当に勇気のある人は失敗をきちんと受容し、責任転嫁をすることなく、卑屈になることもなく、失敗から教訓をつかんで再度立ち上がり、歩き始められる人です。あなたが尊敬する人に失敗談を聞いてみてください。おそらくその方は、失敗を次の成功の糧としていることでしょう。

 

 

 

 

「アドラー心理学」とは201912_adler_02
ウィーン郊外に生まれ、オーストリアで著名になり、晩年には米国を中心に活躍したアルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)が築き上げた心理学のこと。従来のフロイトに代表される心理学は、人間の行動の原因を探り、人間を要素に分けて考え、環境の影響を免れることができない存在と見なす。このような心理学は、デカルトやニュートン以来の科学思想をそのまま心理学に当てはめる考えに基づく。一方、アドラーは伝統的な科学思想を離れ、人間にこそふさわしい理論構築をした最初の心理学者である。

 

 

 


 

 

筆者プロフィール


ヒューマン・ギルド 代表取締役
岩井 俊憲 (いわい としのり)
1947年栃木県生まれ。早稲田大学卒業後、外資系企業に13年間勤務。1985年ヒューマン・ギルドを設立、代表取締役に就任。アドラー心理学カウンセリング指導者。中小企業診断士。著書は『「勇気づけ」でやる気を引き出す!アドラー流リーダーの伝え方』(秀和システム)、『経営者を育てるアドラーの教え』(致知出版社)、『アドラーに学ぶ70歳からの人生の流儀』(毎日新聞出版)ほか50冊超。