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【特集】

サステナブル農業

離農や高齢化に伴う担い手不足、耕作放棄地の拡大、食料自給率の低下といった問題に直面する日本の農業。作業の効率化・省人化や面積当たりの収穫量アップなどの課題を最先端の技術で支えるアグリテック企業の取り組みに迫る。
2021.03.01

資源を最適化する「スマートマネジメント」:オプティム

 

 

 

「第4次産業革命」の中心的企業となるべく、自社の経営ビジョンを地域の基幹産業である農業でどう実現するか。付加価値を創り出す新たなソリューションは、生産者と消費者、環境にも優しい持続可能なモデルとして注目を集めている。

 

 

「ピンポイント農薬散布」で減農薬栽培を実現

 

自動飛行のドローンで空撮した農場のマッピング画像データを、AIで解析し病害虫の痕跡を発見。必要な場所だけに再びドローンで「ピンポイント農薬散布」する――。特許を取得したIoTテクノロジーで「スマート農業」を提供するのが、「ネットを空気に変える」をコンセプトに、最先端のテクノロジーを「当たり前のこと」に変えるためのシステムを開発・販売するオプティムだ。同社は創業以来、20期連続で過去最高の売上高を更新中で「第4次産業革命型産業」を目指し、農業ソリューションを推進している。

 

農業ソリューション事業の責任者・休坂健志氏は、「空撮データをクラウドにアップロードするだけで、ディープラーニングの自動解析で『この場所に散布を』と指示が届きます。散布用ドローンも、スマートフォン1つで自動でスポットスプレーを終えてあっという間に戻ってきます」と笑顔で語る。

 

テクノロジーとビッグデータの活用で、多様な産業分野と融合する「○○業×IT」を推進する同社は、さまざまな事業体が参画しAI・IoT・ロボットを使ってスマート農業を推進する「スマート農業アライアンス」を2017年12月に始動した。新しい農業ソリューションの2本柱は、付加価値の高い農作物の生産・販売・流通モデルをつくる「スマートアグリフードプロジェクト」と、農作業の負担軽減や技術伝承を支援する「スマートデバイスプロジェクト」だ。

 

ピンポイント農薬散布を含む同社のソリューションを用いて栽培した「スマート米」など独自ブランドの農産物は、田植え後の病害虫防除において慣行栽培に比べ最大90%の減農薬を実現し、健康や環境にやさしいという付加価値を創出した。さらに、生産された米を同社が買い取り、ふさわしい価格で、その価値を認める消費者にウェブ通販や百貨店などで販売し、得た利益を生産者と分配するレベニューシェアや、国の委託研究や企業との共同開発など、年間30超のプロジェクトが進行中である。

 

 

 

 

経営の質を高め農政業務も劇的に効率化

 

「少子高齢化で担い手が減少し、年収帯が向上せず技術の伝承も難しい。生産者の声を聞き、ITで省力化やコスト削減し儲かる仕組みをつくるスタートラインです。農業は地域の基幹産業。このまま衰退させるわけにはいかない」と休坂氏。目標に掲げたのは、「楽しく、かっこよく、稼げる」農業の実現だ。

 

誰でも参画できるスマート農業アライアンスのメンバーはいま、佐賀から全国へ広がり1900名(2020年12月現在)を超える。農業生産者としては若手の50~60歳代が中心で、最多は北海道。メンバーの総農地面積は約7860ha、甲子園球場のグラウンド6046個分に及ぶ。

 

「地域のリーダーとして、人も耕作面積も減り続ける課題を解決したい。そんな高い危機意識と使命感を持つ方ばかりです」(休坂氏)

 

スマート農業のキーテクノロジーは農薬散布だけではない。「ピンポイント施肥技術」は、食味が良いとされるタンパク質6%前後を目指すための施肥量を、ほ場内の生育むらを解析することでコントロールし、「おいしさ」をつくる特許技術だ。上空から田んぼに種もみを打ち込む「播種ドローン」も、稲作の常識を変えるイノベーションである。土中の一定深度へ一気に直播きすることで、育苗や田植えの人手不足を補う。種もみが鳥に食べられず、稲立ちも良くなる。

 

「どちらも地域や土壌の違いを超えて、品質や収量を均一化することが可能になりました」(休坂氏)

 

露地栽培だけでなくハウス栽培にもITを活用。個数カウントや熟度判定など、収穫高を予測できる仕組みを構築した。海外では、2万haの大規模な屋外プランテーション(単一作物の栽培を行う大規模農園)で収量予測を実現し、予測が1%違うと収益が1000万円変わるともいわれる課題を解決して経営の質を高めている。

 

国や自治体とも連携が進む。その1つが「農政業務の効率化プロジェクト」だ。同社は、「コメの減反政策(コメの生産調整を行うための農業政策)による豆や小麦への転作奨励補助金の交付のために担当職員が行う農地調査を、ドローン空撮でデジタルスキャンしてAIで判断しましょう」と提案した。

 

「1件ずつ確認して回るには、膨大な手間と時間がかかります。佐賀県白石町では、約8500haの農地をスキャンし、生産者が提出する営農計画書の情報とAIが解析した小麦の生育データの整合性を確認しました。結果、120時間かかっていた農地調査が5時間で終わったのです」(休坂氏)

 

さらに、農林水産省と連動してITの農業活用を進める法律づくりにも参画。農業分野では、国内初「ドローンの補助者なし目視外飛行」の活用実証実験も行った。

 

「どこでも自由に空を飛べる完全自立な状況が『空の産業革命レベル4』。その一歩手前、人口密集地以外なら飛行可能な『レベル3』の運用を実現しています」(休坂氏)

 

一方で同氏は、生産者や研究者など専門家の栽培技術と融合し、「使えるテクノロジー」に仕上げることも重要と指摘する。都道府県の試験場との共同研究を通して、地域それぞれの農業技術向上も目指している。

 

 

99兆円の食品市場にプラスアルファを創り出す

 

「農薬に肥料、農機具、土地、人、フードロス。農業分野における『資源の最適化』が大事で、それはSDGsやESG(環境・社会・ガバナンス)にもつながります。安価にシェアし、必要なリソースを必要なところに必要なだけ活用できる技術要素が当社にはそろっています」(休坂氏)

 

スマート農業は、消費者にも「目に見える価値」を提供している。残留農薬不検出のコメや玄米を食べたい健康志向の消費者ニーズが高まる中、スマート米は一般的な流通米の約1.5~3倍の価格にもかかわらず需要が伸びている。

 

「誰がどうやって作った米か、減農薬などの情報をオープンにしフィードバックもできます。生産者に消費者の顔が見えず、価格を決められない農業をなくすためにも必要な仕組みです」(休坂氏)

 

生産者と消費者を近づけ、さらにその先に見据えるのは生産農業所得3兆5000億円、農業総産出額9兆円よりも大きな約99兆9000億円の食品産業だ。利益の奪い合いではなく、付加価値を付けることで99兆円プラスアルファの新市場を創り出そうとしている。

 

地元食品メーカーの商流や地域経済のハブとなる地方銀行とも協業プロジェクトを推進する。青森では、スマート農業の大豆を購入する加工メーカー、原料の集荷選別を行うJAとともに、地域の農業高校に新しい農業への教育・指導を開始。みちのく銀行(青森県青森市)とは、共通課題である農業の活性化へ向け、生産者と販売者のマッチング支援や資金提供を担う国内初のスマート農業地域商社を設立した。さらに海外展開では、2019年11月にベトナム最大手の国営通信企業であるVNPTグループとスマート農業分野での業務提携がキックオフしている。

 

「1年で成果が出ても、翌年以降に再現できるかの検証は欠かせません。年間の収穫回数が限られる農業ならではの難しさがありますし、長期的な視点で投資する『育てる経営』でなければ続かないでしょう」と休坂氏。そして、最も難しさを実感するのは「稼げる」の実現だ。

 

「日本は大規模農業が少数派です。水稲栽培では稼働率が向上し、費用対効果のペイラインに導く指標は15ha、安定経営には50ha以上が必要です。スマート農業は最新テクノロジーではなく、マネジメントなのです」(休坂氏)

 

そのマネジメント力を生かす舞台が地域農業だ。複数の生産者がスマート農業をシェアすれば“バーチャル50ha”を超える規模も可能になる。同社の農業ソリューション事業も利益ベースに乗り、手応えを強める休坂氏は、共に挑戦を続けるパートナー生産者の共通点についてこう語る。

 

「未来志向であることですね。新しいことに前向きなチャレンジ精神と、失敗を恐れずにチャレンジしないと生き残れないという危機感。どちらも持っていますから」(休坂氏)

 

2つのチャレンジを併せ持つ本物の未来志向。それは社名の由来である「optimal(最適・最善)」な未来の実現に欠かせない、世界共通の「普遍的なもの」と言えるだろう。

 

 

オプティム 取締役 ビジネス統轄本部 本部長 休坂 健志氏

 

 

PROFILE

  • (株)オプティム
  • 所在地:東京都港区海岸1-2-20 汐留ビルディング21F
  • 設立:2000年
  • 代表者:代表取締役社長 菅谷 俊二
  • 売上高:67億2800万円(2020年3月期)
  • 従業員数:275名(2020年4月現在)
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