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土木イノベーター

建設後50年以上が経過する道路橋は2033年に6割以上、トンネルは4割以上。「インフラ老朽化」という課題を抱える日本において、新たな技術開発や仕組みの構築で人々の生活と産業を支える「インフラ革新企業」の取り組みと、インフラ・イノベーションの在り方に迫る。
2021.01.29

新しい風を起こすオープンなIoTプラットフォーム:ランドログ

 

 

建築・土木業界にDXを起こし、施工現場のあらゆるシーンに新しい風を吹き込みたい――。自社が「時代のスイッチ」になる決意を示す企業ロゴを掲げ、建設生産プロセスの変革を加速するIoTプラットフォームを構築したランドログ。地域に根差す建築・土木企業を「持続可能な未来」へ導くマルチソリューションを創り出している。

 

 

施工現場のデータを価値ある「コト」へ変える

 

建設業界では、労働力不足の解消を目的として、ICT建機やドローン3D測量といった建設生産プロセスのICT化が進められている。だが、施工には複数の専門業者が携わることや利用建機の違いから、現場のデータは事業者ごとに管理され、現場の生産性は局所的にしか向上されていないのが現状だ。そんな建設生産プロセスに関わる諸問題を解決するサービスがある。各データの連携で建設業の安全と生産性の向上を目指すIoTプラットフォーム「Landlog」だ。

 

Landlogは、建設生産プロセスに関わる地形・建設機械・資材・車両などのさまざまなデータを集め、現場の効率化に活用できる形式へと加工した上で提供するオープンプラットフォームである。生産性や安全性、ITリテラシーの向上、情報漏えいを防ぐサイバーリスク対策など、施工現場のあらゆるシーンに多様な価値を創出し、その機能を発展させるコンソーシアム(共同事業体)として、ICT施工の現場に立つ建築・土木企業とともに、「協働」「協創」によるイノベーションを実現してきた。

 

「生産プロセスのイノベーションを加速させ、建築・土木業界の現場と未来にどう貢献するか。当社とパートナーが共有する思いが、全ての出発点です」

 

そう語るのはランドログでセールスプロモーションを担う和田将宏氏である。事業連携の舞台となるコンソーシアムは、情報収集だけを目的に参加する企業も多いが、Landlogは「具体性のある貢献」にこだわる。「ギブ・アンド・テークで言えば、自社のビジネスやテクノロジーで、まずギブできる企業ばかりです」と和田氏。企業数よりも、同じ思いで主体的に参画することを重視している。また、枠組みで情報や活動を囲い込む他のコンソーシアムとの最大の違いは、全てオープンであることだ。

 

「プラットフォームだけでなく、パートナーとの関係性もオープンでありたい。同じ業界からも複数の企業が参画でき、最も良いものをみんなで考えていけるのが強みです」(和田氏)

 

収益源はパートナーからの年会費だが、創業時の3倍(30万円、税抜き)に増額したのも、当事者意識を持つパートナーを抽出するためだ。

 

「何かしてくれると見返りを求める投資ではなく、自らの手で何かを起こそうと汗をかくことをいとわない出資です。そのマインドセットの違いがとても大きい」と和田氏は語る。

 

ブレない志向性は、同社の成り立ちに由来する。建設業界のDXを目指す建機メーカーの小松製作所(東京都港区、以降コマツ)が、「建設現場の全てのモノデータをつなぐプラットフォーム」をコンセプトに、NTTドコモ(東京都千代田区)・SAPジャパン(同)・オプティム(東京都港区)との4社合弁で創業。建設生産プロセスのデータ収集・蓄積・解析機能をコマツから独立させ、オープン化したのが同社だ。他社開発のシステムやアプリをLandlogで運用することによって、多様なサービスの開発・提供が可能になった。

 

Landlogは今、3つの価値創造の取り組みを推進する。1つ目は「見える化IoTソリューション」。現場の建機や資材、作業者、環境・地形などの「モノデータ」を収集・解析し、アプリで可視化して利用価値の高い「コトデータ」として活用する。

 

「APIデータ連携でつながれば便利になると、テクノロジーだけを声高に叫んでも現場のユーザーは動いてくれません。手作業で抜き出して別のアプリに入れ直したデータは、手間がかかりミスも起きやすい。生産性が上がらずコストも減りません。複雑に絡まった現場の動きを見える化し、シンプルにしてみませんかと訴求しています」(和田氏)

 

現場ユーザーが本当に求める機能へと導くのが、2つ目の「アプリプロバイダー向けサービス」である。現場の声に耳を傾け、思いがつながるアプリ開発・実装をサポートする。参入しやすいオープンな環境で、各プロバイダーが得意分野を生かし、価値あるアプリ開発を進める。

 

3つ目の「ランドログパートナー活動」は、具体的なソリューションにアプローチする個別ミーティングやワーキンググループを運営。パートナーが一堂に集う年2回の総会は、Landlogのコンセプトをどう実現するかなど、大きな方向性を共有する舞台にもなっている。

 

「他にないオープンな関係性。そして、国が旗を振る前に、いち早く民間のベンチャー企業同士の連携で立ち上げた斬新な座組み。2019年度の『i-Construction大賞・国土交通大臣賞』の受賞理由として高く評価されたことを、着実に結果につなげていくのが私たちのミッションです」(和田氏)

 

 

※Application Programming Interface:アプリケーション・ソフトウエアを構築および統合するために使われるツール

 

 

 

 

 

 

建機を従来型からICT型に変身させる切り札

 

オールインワンパッケージで、いつでもどこでも高精度な現場測量が可能になる「Rover(ローバー)」、建機やダンプトラックの位置・稼働情報が分かる「Fleet Device(フリートデバイス)」、ICT施工データをLandlogに集めたIoTソリューションサービスに、2020年、新たに加わったのが「Retrofit(レトロフィット)」だ。

 

新サービスが誕生した背景には、現場工事に必要な建機をレンタル契約し、コマツやコベルコ建機(東京都品川区)、日立建機(東京都台東区)といった異なるメーカーの製品を併用する、建築・土木業界ならではの事情があった。

 

「現場施工のさまざまなデータをプラットフォームにつなげて一元化したくても、コマツ製以外の建機データが集まりにくいことが最大の悩みでした」(和田氏)

 

Landlogの根幹を揺るがすデータ収集の課題解決に向け、従来型建機にICT機能を付加する後付けキットを実装し、ICT建機に変身させるのが、自社開発したRetrofitである。全メーカーの建機に取り付け可能で、同様の後付けキットが1000万円を超える中、100万円を切る低コストを実現した。生産供給が追い付かないほど需要が増え続けているという。

 

全国各地の建築・土木企業へICT化施工の提案やRetrofitの取り付け支援に行くのが、和田氏のチームメイトである関川祐市氏と大野淳司氏だ。

 

「価格のメリットとともに、ICT施工の3Dマシンガイダンス※1機能への関心が高いですね。重機の刃先確認が不要で測量の手間が減り、省人化できて安全性も高まります。ICT建機が高価な新車とすれば、3Dマシンガイダンス機能は安価で高性能なナビゲーションです」と関川氏。Retrofitは現場ユーザーの心に響き、ICT施工の世界へ参入する入り口に立つ切り札となっている。

 

その他の新サービスもパートナーとのマッチングから生まれている。大林組(東京都港区)とトライポッドワークス(宮城県仙台市)による「生コンの見える化」も、その1つである。生コン打設の進捗を把握・分析し、無駄をなくすために河川測定技術を応用。最後に必要な生コン量の計測に成功した。

 

また、P2P※2ネットワークデバイスメーカーであるSkeed(スキード、東京都目黒区)は、地場土木企業の要請をヒントに、熱中症対策システム「LLスタッフログ」を開発。猛暑の施工現場で、作業員の体温データなどをヘルメット内に装着したセンサーで取得し、異常・危険リスクの予防を可能にした。現場支援にとどまらずLandlogの施工データとアプリを活用し、建機の時間貸し料金制度の課金請求システムを構築するパートナーも現れている。

 

いずれも、独自開発の時間とコストを軽減し、生産性や顧客満足度の向上につながるものだ。Landlogから次々と「Win-Winなマッチング」が誕生し始めている。

 

 

※1…3次元データを活用し、建機の位置を知らせるシステム
※2…Peer to Peer:複数のコンピューター間で通信を行う際のシステム

 

 

メーカーを問わず後付けキットで建機をICT化する「Retrofit」。3Dマシンガイダンス機能や施工履歴データ取得機能など、ICT施工対応の諸機能を搭載

 

 

 

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