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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

WORLD REPORT:ウィズコロナでアップデートする世界

コロナ禍によって世界が変容する中、海外のビジネス現場はどう変わろうとしているのか。米・英・独・中・印のビジネス専門家とタナベコンサルティンググループの社長・若松が対談しました。
対談2021.07.01

ウィズコロナでアップデートする世界:総括 後編【Vol.5】

【図表】ワールドレポートで紹介した注目企業・ビジネス

 

 

世界中が“コロナ敗戦国”という現実
――「ビジネス・ワクチン」開発の決断を

 

冒頭で述べたように、ワクチン接種前のパンデミックは、「戦時下」とも言えるような危機的状況の中で、どの国も、どの業界もDXを実装できなければ生きていけない状態でした。世界で約1億6800万人が新型コロナウイルスに感染し、約349万人の死者を出しているのですから、短期的とはいえ、コロナショックは人類(国家)VSパンデミック(新型コロナ感染症)の戦いであり、現時点でほぼ世界中が“敗戦国”となっているのが現実なのです。

 

そして、世界の一部の国や地域では、アフターコロナの「染後復興フェーズ」を迎えようとしています。私は自著『戦略をつくる力』(ダイヤモンド社)の中で、企業組織のポジショニング論について、マキャヴェッリの言葉を引用して次のように紹介しました。

 

イタリア・ルネサンス期の政治思想家であったマキャヴェッリは、『君主論』で「敗戦国と戦勝国は交代する」とし、その理由を3つ挙げた。

 

①敗戦国は反省し、すべての面において革新を図るが、戦勝国は「勝ったのだからこれでいい」として現状維持に甘んじる。

 

②敗戦国は戦争の被害や賠償などによって、兵器や生産設備を失ってしまうので、どんなことをしても新しくつくらねばならず、既存のものよりも進歩したものをつくろうとする意欲がある。一方、戦勝国は戦争の被害が少なく、兵器や設備は十分に間に合っており、それを捨てて新しいものをつくるほどの意欲を持たない。

 

③敗戦国の国民は亡国の危機に直面してすべてを革新し、復讐の念に燃えて必死になって働くが、戦勝国民は勝利に陶酔し、当面の繁栄に満足して働くことを忘れる。

 

私は、この論理が今回のコロナショックやアフターコロナ時代の経営戦略にも適合すると考えています。日本を含め、世界で比較したときに感染者数が少ない国や企業では、「被害が少なかったので、大きく変えなくても良い。変革まではしなくとも良い」と、現状を維持してしまう可能性が高いのです。それが将来、取り返しのつかない格差になります。

 

日本経済が最も成長したのは終戦後から高度経済成長期まででした。その後、高度経済成長への陶酔とおごりからイノベーションを忘れ、本質的な課題を先送りし、今の低成長から衰退期へと迷走してきた歴史があります。

 

したがって、日本よりもコロナ被害の大きい国々では、DXや制度・規制の改革が進むでしょう。そして、コロナショックを乗り越えた後、強烈なイノベーションが起きるであろうことは容易に想像できます。先に述べたように、すでにその芽が出てきています。

 

前回(6月号)で論じたように、私たち民間企業の経営者・リーダーは、政府や自治体に頼るだけでなく、新しい世界の現実を再認識し、そのイメージをアップデートする必要があるのです。本誌「ワールドレポート」が正しい危機感を醸成する一助になれば幸いです。

 

社会や顧客のピンチ(課題)をチャンス(機会)に変える技術が「マネジメント」。私たちは正しい危機感を持ってイノベーションへ挑み、世界に向けた「ビジネス・ワクチン」の開発を急ぐ必要があるのです。「世界同時リセット」の結果、「新しいマーケット(共通の社会課題)」が一斉に出現している今、社会への貢献価値を広く深く開発していきましょう。

 

――今こそ経営者リーダーシップを発揮し、100年先も一番に選ばれる会社へ、決断を。

 

 

ワールドレポートに協力を頂いたジョナサン・シャーフ氏(米・ニューヨーク)、皆木寛樹氏(米・シリコンバレー)、スシャマ・R・カネットカール氏(インド)、アナベル・ロン氏(中国)、ニコラ・ピンダー氏(英国)、ステファン・ペイカート氏(ドイツ)に感謝いたします。

 

 

 

 

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