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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2021.01.29

2030ビジョン「Next Calbee」食の未来をアップデート:カルビー 代表取締役社長兼CEO 伊藤 秀二氏 × タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

 

 

創業の精神を基盤に数多くの画期的な商品で新しい価値を創造し続けてきたカルビーは、2030年に向けた長期ビジョン「Next Calbee」を策定。食の未来を見据えた先進的かつ独自の取り組みについて、代表取締役社長兼CEOの伊藤秀二氏に伺った。

 

 

コロナ禍が会社の“根っこ”を明らかにした

 

若松 先般は、タナベ経営主催のセミナー「社長教室」ゲストスピーカーとしてのご出講、ありがとうございます。その際、伊藤社長からカルビーの2030年に向けた長期ビジョンについてお聞きし、コロナ禍で大変革を迫られている今だからこそ、全国の経営者の方々にもその意志をお伝えしたいと考えました。

 

ウィズコロナ・ポストコロナ時代に向けたカルビーの「2030ビジョン」について、トップとしてどのような思いで策定されたのでしょうか。

 

伊藤 私は入社から約40年の間、常に企業の本質的な目的を考えてきました。同時に「当社の真の“根っこ”は何だろう」と考えることも多く、「創業者(故松尾孝氏)は何を思って事業を展開してきたのか」「それを引き継ぎ、次の社会のためにカルビーはどうあるべきか」を考え併せながら長期ビジョンを描きました。その後すぐにコロナ禍がやってきて、その“根っこ”が一気に明らかになった感じです。

 

若松 「会社の根っこが明らかになった」という表現に、とても共感します。
私は、「『決定』と『決断』は違う。『決定』は情報がそろった中で決める行為。『決断』は情報不足でも決めなければならない行為。トップの究極の仕事は『決断』にある」と言っています。未曽有のパンデミック影響下において、伊藤社長を含め、多くのトップの方々が「決断」という経営者リーダーシップを発揮されました。カルビーではどのような変化があり、どう対応されたのでしょうか。

 

伊藤 生活様式が変わったことで、プラスとマイナス両方の影響がありました。マイナス面は、インバウンド向け、国内旅行者向けの土産商品がまったく売れなくなったことです。これまでの常識を打破しようと、eコマースへの出品や催事への積極的な参加を決断し、新しい需要を掘り起こしました。

 

一方、プラス面は、「巣ごもり消費」によって、ポテトチップスが爆発的に売れたことです。自社の強みでもあるブランド商品の注文が重なり、フル生産でも出荷しきれないほどでした。こうした瞬間的な需要アップに対応することも、今後の大切な戦略になりました。2024年に稼働予定の広島新工場の竣工と、生産体制強化のスピードを上げなければいけないと痛感しました。

 

 

 

出所:カルビー「カルビーグループ統合報告書2020」

 

 

人材の力を最大化するしなやかな経営を実践

 

若松 カルビーは2019年5月に「2030ビジョン」を発表されました。その基軸を教えていただけますか。

 

伊藤 時代の変化に柔軟に対応するため、ビジネスをシンプルかつ強い体質に変えるという考えを軸に改革を進めています。

 

今後は従業員個人が、より能動的に新しい仕事を見つけていく必要があります。そこで、人事部が全てをお膳立てするのではなく、各部門の上司・部下間でマネジメントを行うようにして、人の力の最大化を図りました。部門長が強いリーダーとなって率いるのではなく、個人の成長を後押しすることで、総合的に組織を強くし、付加価値を生もうという発想です。オフィス勤務者はモバイルワークを標準とし、工場勤務を含む全社員にスマートフォンを貸与しました。

 

また、朝5時から夜10時の間に1時間でも出勤すれば出社扱いとする勤務体制(フルフレックス制)を導入。時短勤務で働く女性従業員などの子どもの送迎や通院をしやすくしました。有給休暇を取得して役所に行くといった非合理的な部分をなくし、「正しい公私混同で仕事をしてください」と従業員に伝えています。

 

若松 以前から実行されていたことがコロナ禍の環境下で加速し、仕事の本質が浮き彫りになったわけですね。持続的な経営には、シンプルさだけではなく「しなやかさ」が必要です。

 

伊藤 経営のシンプル化にはメリットとデメリットがあります。集中して無駄を省けば収益性は高まりますが、従業員がチャレンジしなくなる。成果主義も同様に、業績を上げる人が正しいという単純な構図になります。成長のために権限を持たせた従業員が結果を出せないと、すぐ役職を交代させねばならず、人材が育たないのです。シンプルさだけでは持続性がなくなるように思います。

 

若松 私はよく「明日を犠牲にした利益ではいけない」という表現を使います。短期志向だけでは人が育たず、結果として人の入れ替えが激しくなる。これも「明日を犠牲にしない経営」という意味に通じますね。

 

伊藤 チャレンジせずに未来が消えていくのは、今日の利益のために未来の利益を食べている感覚です。

 

例えば、ポテトチップスはすぐにできるものではなく、日本にジャガイモの生産者がいて、品質の良いジャガイモが育ち、適切に運ばれ、安全・安心に配慮しながら加工・販売されて、初めてビジネスにつながります。単純にモノを作って売るだけではなく、原料から始めなければ事業は成り立たない。これこそが企業の強みです。カルビーにしかできないという理由がないと、ヒット商品を生み出しても次につながりません。

 

若松 食品メーカーの大半は「命あるもの」を扱っています。原材料が生物である場合、一定以上のスピードでは育ちませんから、時間がかかります。そこを含んでの長期目線ですね。時代が変わる中、根底にあるカルビー・スピリッツを伊藤社長が伝え続けていかれることが大切なのだと思います。

 

伊藤 創業の精神をリニューアルしつつ、社会全体が良くなることをやっていこうと思えることが、カルビーの“根っこ”です。ビジネスは、世の中に役立つものであれば持続性がありますから。時代によって役立つものは変わりますが、本業でどのように社会と関わっていくかというビジネスモデルのデザインは、経営者の役割です。

 

 

 

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