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タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
メソッド2019.12.27

サステナブル戦略 令和を駆け抜ける、未来経営モデル:若松 孝彦

2020年 年頭指針

 

東京オリンピック・パラリンピック開催を控える2020年は、「ポスト2020」への戦略転換のタイミングとなる1年でもある。
しかし、ポスト2020問題の本質は景気動向ではなく、国や企業、個人にとってオリンピックに匹敵するメルクマール(指針)がなくなることだ。社会の持続性と企業の持続性が共存する未来経営モデル「サステナブル戦略」に挑み、2030年に向けた新たなメルクマールをつくろう。それは私たちリーダーの役割であり、責任なのである。

 

 

 

 

 

「ポスト2020」、“祭りの後”は例外なき業界再編が起きる

 

2020年が始まります。今年、開催される東京オリンピック・パラリンピックは、日本が56年ぶりに招致した一大イベントであり、心待ちにされている方も多いのではないでしょうか。思い返せば2013年9月に東京での開催が決定し、その瞬間から「2020年」にはメルクマール(指針)としての特別な意味が与えられました。つまり、2020年をターゲットとするメルクマール経済が始まったのです。

 

そして、ついにオリンピックイヤーを迎えました。しかし、これは同時に「ポスト2020」、すなわち“祭りの後”の日本経済の始まりを意味しています。つまり、メルクマールなき日本経済の始まりであり、まさにポスト2020へ向けた新たな戦略を構築、推進するタイミングに差し掛かっているのです。

 

平成の時代を一言で表現すれば、「昭和の栄光の再来を期待し続けた時代」でした。その思考が多くの変革を遅らせました。令和の時代――ポスト2020は、「新しい時代」の幕開けであると認識すべきです。この時代は、日本の企業経営者に「例外なき業界再編」という厳しい現実を突き付けるでしょう。超少子高齢化と人口減少、記録更新を続ける国の債務残高、アベノミクスの終焉など、国・地域・企業・個人の全てにおいて、かつてないほどの再編が起こります。加えて、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される巨大デジタルプラットフォーマーが、5Gインフラを使って業界の垣根なき市場再編を仕掛け、支配していこうとします。

 

2020年にタナベ経営が提言する「サステナブル戦略」は、その一つの道筋を示すものです。サステナブルとは、簡単に言えば「持続可能性の追求」。今、世界は環境問題や貧困、格差拡大をはじめ、多くの深刻な課題を抱えています。そうした社会課題の解決に貢献するサステナブル経営への関心が、グローバルに高まっています。最近よく聞かれるESG投資※1やSDGs経営※2は、その代表的な取り組みと言えるでしょう。

 

サステナブル経営は欧米を中心に広がっていますが、実は日本では昔から理念と利益を両立させる経営が実践されてきました。日本の資本主義の父と呼ばれた渋沢栄一は、著書『論語と算盤』に「道徳と経営は合一すべき」と記しています。大事なことは、「『理念と利益』『社会性と収益性』の両者を同時に追求する戦略、経営とは何か」を問うことです。それがサステナブル戦略であり、2030年に向けた新しいメルクマールになると私は考えています。

 

 

※1 ESG 投資:財務諸表だけでは測りきれない企業価値(環境・社会・企業統治への配慮など)を重視する投資
※2 SDGs 経営:企業理念や経営戦略にSDGs(持続可能な開発目標)を関連付けた経営

 

 

世界経済は停滞日本経済はジリ貧

 

サステナブル戦略を解説する前に、世界経済について確認しておきます。タナベ経営はここ数年、ポスト2020を見据えて海外視察に力を入れてきました。そこから得た知見や各経済指標を踏まえて世界経済を評するならば、「世界経済は停滞基調、日本経済はジリ貧基調」。最大の要因は、2020年の米中の成長率予測が共に減速していることです。

 

IMF(国際通貨基金)は、世界の実質GDP(国内総生産)成長率が2019年は3.0%、2020年は3.4%になると見込んでいます。2019年の見通しが5回連続で下方修正された理由は、米中貿易摩擦の深刻化にあります。2009年7月から続く米国の景気拡大は過去最長を更新中。さらに、トランプ政権の大型減税の効果もあって失業率は過去50年で最低となる3.5%を記録しました。

 

米中貿易摩擦の長期化が両国の経済成長に水を差していることは否めません。IMFは米国の実質GDP成長率について、2019年は2.4%、2020年を2.1%と予測しています。

 

一方、中国の予測は2019年が6.1%、2020年は5.8%。いよいよ6%を割り込みました。米中貿易摩擦の影響を受けて、2019年1~9月の米国の中国製品輸入は前年同期比で13%減少する半面、ベトナムや台湾、バングラデシュ、韓国などからの輸入が大幅に増加しており、東南アジア諸国への「サプライチェーンシフト」が顕著になっています。

 

そうした中国の景気減速は新興国の景気落ち込みにつながり、世界経済へダイレクトに影響を及ぼしています。ちなみに、日本については2019年が0.8%、2020年はオリンピックイヤーであるにもかかわらず0.5%と減速が見込まれています。

 

ただ、世界経済を中長期的に見ると成長要素はあります。①人口増加と中間所得層の増加の加速、②雇用情勢の安定化、③旺盛なインフラ投資とスタートアップ投資、④ESG/SDGs市場の拡大、⑤自由貿易の伸展、⑥クロスボーダー経営など、成長につながる六つの変化を押さえておくことが重要です。

 

まず、世界の人口は2030年に85億人、2050年には97億人に達すると予測されており、特に中間所得層の拡大は新たなマーケットの誕生につながると期待されています。また、世界各地でインフラ投資が活発化しています。特に、通信速度、容量が飛躍的に高まる5Gの普及は、多くの産業にビジネスモデルの転換を促す可能性があります。

 

そして、自由貿易圏の拡大や外資系企業の台頭がもたらす世界的な連結経済の拡大。アフリカ連合55カ国中、54カ国が合意した「アフリカ大陸自由貿易圏」(AfCFTA)がスタートしたほか、中国や日本、韓国などが参加する「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP)も、インドは離脱を表明したものの、妥結に向けた交渉が進んでいます。実現すれば、TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)に続き、世界のGDPの約3割を占める自由貿易圏が誕生することになります。

 

また、この20年間で外資系企業は急速に規模を拡大しています(【図表1】)。成長スピードは世界の実質GDP成長率を大きく上回っており、グローバル企業が世界経済をけん引していると言っても過言ではありません。そして、大規模化したグローバル企業は日本独特のサプライチェーンを壊し、日本の業界再編にも影響を与え始めています。あらゆる産業を巻き込んだ例外なき業界再編の波は、すぐ近くまで来ているのです。

 

 

【図表1】クロスボーダー経済活動の成長スピード

出典:経済産業省「世界の構造変化と日本の対応」(2018年5月)

 

 

 

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Profile
若松 孝彦Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
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