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選ばれる会社へ、「決断」を。
【メソッド】

トップメッセージ

タナベコンサルティンググループ、タナベ経営の社長・若松が、現在の経営環境を踏まえ、企業の経営戦略に関する提言や今後の展望を発信します。
メソッド2018.12.27

トランスフォーメーション戦略。変わる未来へ、1ページから始めよう:若松 孝彦

 

日本経済は世界自由貿易圏とデジタル経済への対応が鍵

 

日本経済は、2012年11月を底に緩やかな景気回復が続いています。2017年度は実質GDP成長率が1.6%と2013年度以来の高い伸びとなるなど、内外需が共に回復するバランスの取れた成長を続けています。2018年度初めには、天候不順などの影響もあり成長率が鈍化したものの、海外の経済回復、情報化をはじめとする技術革新の進展、雇用・所得環境の改善に支えられた回復基調は継続することが見込まれています。

 

また、さまざまな産業や業種などでデジタル技術や新たなICTを活用するトレンドが進展。このトレンドは、「〇〇×Technology(技術)」と表現され、「X-Tech」(クロステック)と呼ばれています。これは産業や業種を超えて、テクノロジーを活用したソリューションを提供することで、新しい価値や仕組みを提供する動きと捉えることができます。

 

「X-Tech」により、「シェアリングエコノミー」が強烈な勢いで成長しています。タナベ経営は以前から「使用すれども所有せず」の経営を提言してきましたが、まさにその時代が到来するのです。「自分たちの提供している価値をいかにシェアするか」はビジネスモデルを着想する上でヒントになります。これに適応する組織には、CIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)と呼ばれる人材の配置も必要です。会社の意思決定に組み込み、組織として取り組むのです。これを「デジタルリーダーシップ」と呼びますが、デジタルリーダーシップがとれないリーダーは今後の戦略が構築できなくなっていきます。

 

日本経済の循環的変化について見ていきましょう。1999年以降、日本経済は約20年もの間デフレの状態にあると考えられてきました。デフレ状態の要因として、多くの人々が物価や賃金の上昇を長らく経験していないため、物価や賃金が「上がる」という感覚自体が希薄化していることも経済動向に影響しているという見方が出ています。

 

米中貿易摩擦による影響も無視できません。トランプ?大統領は、中国からの約2000億ドル相当の輸入品目に対して追加関税を課すことを発表しました。これに対して、中国側も?国からの約600億ドル相当の輸入品目へ報復関税の発動を発表。両国とも、自国に対して有利な条件で決着をつけようとする戦略であるとも考えられるため、先行きはいまだつかみにくい現状となっています。

 

また、今後発動される可能性のある通商政策が、日本経済、および日本企業の収益に与える影響はどうでしょうか。大和総研のマクロモデルを用いて日?中の経済に与える影響を試算すると、?国が中国からの約2000億ドル相当の輸入品目に対する追加関税率を25%に引き上げられるケースの試算値によると、GDPの下押し効果はそれぞれ中国がマイナス0.22%、?国が同0.28%となり、日本が同0.02%となります。

 

他方、これに対抗すべく、TPP11(イレブン)、EUとのEPA(経済連携協定)によるGDPの押し上げ効果が期待されています。日本とEU貿易圏を足すと、世界人口の約1割、貿易額の約3割、GDPの約3割を占めますし、東アジア地域包括的経済連携、RCEP(アールセップ)が実現すると世界全体の人口の約5割、GDPの約3割を占める経済圏が生まれます。

 

働き方改革はこれからが本番
社会課題の解決で持続的成長

 

「働き方改革関連法」が成立し、2019年4月から順次施行されます。非正規雇用労働者の処遇改善や長時間労働の是正など、労働制度の抜本的な改革を行うものです。その他、子育てや介護などとの両立、副業・兼業など働き方の多様化に伴うさまざまな課題や、労働生産性の向上を阻む多くの問題を解決するための法案として掲げられました。

 

働き方改革の主要項目は残業時間の上限規制、有休取得の義務化、勤務時間インターバル制度、割増賃金率の猶予措置廃止、産業医の機能強化、同一労働同一賃金、高度プロフェッショナル制度の創設です。同一労働同一賃金は、正社員やパートなどの立場、勤続年数にとらわれず、同じ仕事であれば同じ賃金が発生するという賃金設定。つまり、賃金の安い労働者を集めるようなビジネスモデルは存続が難しくなる可能性があります。人件費を下げることで会社を経営する形から脱却しなければなりません。働き方改革関連法は、これまでの就労観だけでなく国民の生活の形も変容させる可能性があります。

 

2015年9月の国連総会で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。2016年から2030年までの国際目標である「SDGs」の実現に取り組んでいる会社が増えています。SDGsの日本版モデルの中には、日本政府の提唱するこれからの社会像「Society(ソサエティー)5.0」(超スマート社会)が示されています。

 

これまでの社会では、経済や組織といったシステムが優先され、個々の能力などに応じて個人が受けるモノやサービスに格差が生じている面がありました。Society5.0では、今まで人間が行っていた作業や調整をAIやロボットが代行・支援するため、日々の煩雑で不得手な作業などから解放され、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができるようになることを目指します。テクノロジーが切り拓く新しい未来像としてSociety5.0を見てみると、これから企業が何に取り組んでいくべきか、その方向性の一端が見えてきます。

 

 

未来が変わるならば、
会社の未来の形を変える必要がある。

 

「フューチャービジョン2030」
未来の顧客価値を再定義せよ

 

未来が変わるならば、会社の未来の形を変える必要がある。それは、古いものを復活させることではなく、新しい形を描くことで未来の期待に応えることです。つまり、事業・収益・組織・人材・生産性のトランスフォーメーションを実現していくことが大切なのです。

 

これらを生み出すのは、「競争戦略」ではありません。変化する未来において競争は逆効果を生みます。今、求められているのは、より遠くから今を見つめるバックキャスティング視点の戦略であり、未来において私たちはどのような使命や役割を果たすのか、そのミッションを追求する新しいストーリーの構築です。それを「フューチャービジョン2030」と呼んでいます。先のSDGsもそうなのですが、3年、5年先よりも10年先の「2030年」をターゲットに戦略を練ることがポイントです。

 

私たちは、会社をまるごと変身させるトランスフォーメーション戦略を「変わる未来に向けた、ビジネスモデルとコーポレートモデルの改革的転換」と定義します。「ビジネスモデル」とは、自社の事業価値を決定付けるビジネスプロセスであり、「コーポレートモデル」は社内における企業価値を高める要素です。この2つを転換することで、会社全体の変身につながります。トランスフォーメーション戦略において求められる「革新」と「改革」の複合化とは、次の通り。

 

トランスフォーメーション戦略=ビジネスモデル革新×生産性カイカク

 

ビジネスモデルの「革新」によってもたらされる収益力とは、売上高経常利益率の向上であり、目指すべき数値は「売上高経常利益率10%以上」の生産性カイカクなのです。生産性とは「生産活動に対する(労働・資本などの)生産要素の寄与度」、つまりインプットに対してアウトプットを最大化することであり、「1人当たり経常利益」を高めることが求められます。目指すべき数値は「1人当たり年間経常利益300万円以上」です。すなわち、「粗利益率40%、経常利益率10%、連続10年で実質無借金のFCCブランド企業」を目指さなければ、「トランスフォーメーション戦略」の価値は半減します。

 

トランスフォーメーション戦略に共通している項目は次の6項目です。

 

トランスフォーメーションに必要な6つの戦略指針

  • □ 10年先からのバックキャスティングを行う
  • □ 成功体験を捨て未来の顧客価値を再定義する
  • □ 本業と向き合いポートフォリオを最適化する
  • □ 売り上げ・利益のセグメンテーションを変えきる
  • □ マネジメントよりもリーダーシップを重視する
  • □ 会社の変身ストーリーをブランディングする

 

私の経験科学では、トランスフォーメーションの実行は20年から30年に一度は直面する戦略なのです。多くの場合は事業承継期ですが、うまく取り組めた会社とそうでない会社があります。うまく取り組めない会社は「成功体験」が邪魔をします。実行のタイミングを逃すと、結果的に大きな病気にかかって手遅れになるケースが多いのです。従って、この戦略実現の難しさは会社存続の難しさと一致します。その意味からも、トップマネジメントのリーダーシップが非常に大切な戦略と言えます。

 

+ブランディングでトランスフォーメーション戦略を加速

 

プル型社会へのシフトで重要なことは、「+(プラス)ブランディング」という発想を持つことです。企業のブランドを確立すれば、他の企業とは明確な違いを示すことができます。プル型企業としてのブランドを構築すれば、企業イメージの向上につながり、顧客拡大・ファン拡大につながります。また、社内で働く人たちにも誇りとやりがいをもたらすため、顧客へ提供する商品・サービスのロイヤルティーや品質の向上につながります。

 

従って、トランスフォーメーション戦略を可視化し、社内外に発信するブランディング活動を忘れないことです。そのためには①2030年までのロードマップ、②新たな価値を生むバリューチェーン、③ビジョンブックへの展開、④ダイバーシティー&インクルージョンの推進、⑤事業ポートフォリオの最適化、⑥SDGsの全社戦略展開のような要素を含む「ブランディングMAP」を作成しながら、戦略ストーリーに一貫性を持たせ、ステークホルダーの「共感」を得ながら推進していくことが大切です。

 

最後に、会社を変身させる挑戦には「決断」というリーダーシップが不可欠です。「決断」と「決定」は違います。決定は情報がそろった中で決める行為ですが、決断とは、情報不足の中にあって決めなければならない経営行動です。

 

未来は不確実な情報だらけです。ただし、未来は創るためにあります。今日は昨日の続きであっても、明日という未来は今日の続きではないのです。だからこそ「決断」が必要になるのです。今、決断しなければ手遅れになり「ゆでガエル」になる可能性があります。「未来のあるべき姿」「その時は何を果たすべきか」を示すべきなのです。2019年は、皆さんの「決断」と「実行」のリーダーシップで「まるごと変身」に挑戦しましょう。

 

 

 

 

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Profile
若松 孝彦Takahiko Wakamatsu
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。
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