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【対談】

チームブランディング:新しい“モノ語”をつくろう

タナベコンサルティンググループのコンサルチームがクライアントのブランディングやプロモーションを支援。プロジェクトの施策と成果を紹介します。
対談2019.09.30

アオバサイエンス:ホームページのリニューアルで訴求力を改善。オリジナル色を強めて販促&採用効果を向上

東北地方を営業地盤とする分析・計測機器の専門商社アオバサイエンスが、2019年春に自社ホームページを大幅にリニューアルした。同業他社と一線を画したアイキャッチ効果の高いデザイン、事業内容の分かりやすさなどからユーザーの評判は上々という。精密測定機器や分析装置を扱う“堅い理系”のイメージが強いBtoB企業が、なぜ、従来と大きく異なる方針でホームページの刷新に踏み切ったのか。その経緯と狙いを伺った。

 

東北地方を代表する分析・計測機器の専門商社

東北地方といえば、のどかな田園風景や活気あふれる漁港、極寒の雪国を思い浮かべる人は多い。だが、一方で“先端技術産業(ハイテク)の集積地”という顔も併せ持つ。高機能素材・部品工場が広域的にクラスターを形成、世界への供給拠点(マザーエリア)となっている。

2011年の東日本大震災の際、日本国内はおろか世界各地の工場が操業停止・減産に追い込まれた。東北で作られる素材や部品は代えがきかず、サプライチェーン(供給網)が寸断されたためだ。東北の災害が世界にも大きな影響を及ぼす現実に、驚いた人は多かった。

東北地方には現在、食料品製造や電子部品・デバイス、情報通信機器、自動車関連などの工場が集積する。いずれも安心・安全で高精度が求められる分野だ。そのマーケットで「はかる」(計測・計量・測定)ノウハウをもとに、積極的な提案活動を展開しているのがアオバサイエンスである。

同社は宮城県仙台市に本社を構え、東北各県に事業所を置く、分析・計測機器の専門商社。あらゆる業界の企業(開発部、品質管理部)や大学の研究室で必要な分析装置や計測機器を、技術サポートとともに提供している。それ故に「東日本大震災が一つの大きな契機となった」と代表取締役社長の関本満則氏は語る。

「津波で社屋や機器類が破損、流出したお客さまも多くありました。測定機器は1000万円を超える高価なものが多く、お客さまも被災したばかりで購入は難しい状況。一方、社内には測定機器の在庫があったので、それを困っているお客さまに無料で使ってもらおうと『測定室』を開設しました。高性能な機器のレンタル利用目的や、機器導入を検討する際に複数の機器を使い比べる“お試し”目的でご利用いただけます」(関本氏)

この「測定室」は東北6県で唯一、同社だけが提供している高付加価値サービスだ。分析・計測機器の導入は高額投資となるため、機器の選定においては慎重さが求められる。同社の測定室は、メーカーさながらの手厚いサポートを受けながら実機を操作でき、カタログ上では分からない使い勝手や“相性”をチェックできるとして、多くの顧客から支持を集めている。

このように、同社は顧客の立場から考えた各種サービスを提供することで、多数の企業や大学から信頼を勝ち取ってきた。

 

トップページには「計って、量って、測ったら――」のコピーとともに、キャラクターの「アオバくん」が。数秒後、測定機器の画像に切り替わる“文理融合”の訴求スタイルで、企業イメージの向上を図った。(左上)「測定室」利用案内のページ(一部)。「計測プログラムの作成依頼」は、今回のリニューアルで訴求を開始した測定室の新サービスの一つ(右下)

トップページには「計って、量って、測ったら――」のコピーとともに、キャラクターの「アオバくん」が。数秒後、測定機器の画像に切り替わる“文理融合”の訴求スタイルで、企業イメージの向上を図った。(左上)
「測定室」利用案内のページ(一部)。「計測プログラムの作成依頼」は、今回のリニューアルで訴求を開始した測定室の新サービスの一つ(右下)

 

営業機能を備えた「見込み客を開拓するHP」を目指す

 

ただ、アオバサイエンスに課題がないわけではなかった。例えば、かつて大学の研究室では測定機器導入の決裁権を教授が持っていた。そのため営業活動では、足しげく研究室を訪問して教授との信頼関係を築くことが不可欠だった。だが最近は、准教授や助教など若手研究者に決裁権を委譲するケースが増えてきた。若手研究者はインターネットで情報を集め、機器購入を決めることが多い。そこでWebによる情報発信が不可欠となっていた。

「ところが当社のホームページ(以降、HP)は、トップページに社屋の写真を掲載するといった旧態依然の構成でした。計測機器の専門商社だということが分かりづらく、会社の情報を総花的に並べているだけで、見る側の心を捉える内容ではありませんでした。そこで“営業ツール”として機能するHPにしたいという思いが、ここ数年は強くなるばかりでした」(関本氏)

いまやスマートフォンで買い物を楽しみ、就職先まで決める時代。それだけに若い人の心に響き、ビジネス内容もひと目で分かるHPでなければ意味がない。そう考えた関本氏は、自社HPのリニューアルを決意した。それが2018年10月のこと。早速、ITチームを立ち上げてプロジェクトを始動させた。

同社ではHPリニューアルに際し、アイデア制作の提案を2社に依頼した。そのうちの1社が、かねてから付き合いのあったタナベ経営だった。関本氏はHPへの思いを、タナベ経営のSPコンサルティング担当者に自ら伝えた。その思いをくみ取ってくれたタナベ経営の提案を採用することとし、新しいHPの制作プロジェクトが2018年12月にスタートした。

 

簡潔で分かりやすいコピー&キャラクターが好評を呼ぶ

 

2019年3月27日、アオバサイエンスの新しいHPがついにオープンした。トップページを開くと、「計って、量って、測ったら ついに出会えた 新たな発見。」というコピーがまず目に飛び込んでくる。同社が提供するサービス価値を、簡潔なコピーワークで表現した。その隣には、同社の頭文字である“a”をモチーフにしたキャラクター「アオバくん」がコーポレートカラーのグリーンで配置され、親しみやすい印象をさらに際立たせる。

これらは従来の“理系”イメージを大きく覆すものだったが、関本氏はタナベ経営のリニューアル案をほぼその通りに採用したという。

「私はもともと言葉遊びが好きで、“コピーを工夫したい”との思いを伝えたのですが、こちらが考えていた方向性を的確に捉えて、完成度の高い表現をしていただいたと感謝しています。計測機器の専門商社ということがコピーだけですぐに分かりますし、業界の堅いイメージを柔らかく伝え、とっつきやすい。今の時代、HPは“営業担当”と考えていますが、まさにその役割を果たせる個性的なHPになったと満足しています」(関本氏)

もっとも、新しいHPをアピールしたい相手は取引先だけではない。もう一つのターゲットは「大学生」だ。同社では毎年、複数人の新卒者を採用しているが、以前より大学関係者から同社のHPが「分かりにくい」という指摘を受けていた。同社はHPリニューアルによってブランドイメージを一新し、学生の注目度を引き上げ、新卒採用者の確保につなげたい考えだ。

ちょうどHPの公開前後に採用面接期間中だった応募者がいたため、HPの新旧比較の感想について尋ねたところ、「新しいHPの方が格段に分かりやすく、印象的」との評価を受けた。滑り出しは上々のようだ。

アオバサイエンス 代表取締役社長 関本 満則氏(左)アオバサイエンス 営業部技術グループ兼 IT部門担当リーダー(係長) 佐藤 潤一氏(右)

アオバサイエンス 代表取締役社長 関本 満則氏(左)
アオバサイエンス 営業部技術グループ兼 IT部門担当リーダー(係長) 佐藤 潤一氏(右)

 

リニューアルは「スタート」
“生きているHP”を目指して

 

アオバサイエンスの新HPは、随所に工夫が凝らされている。例えば、トップページでは同社の提供する機器がどのようなシーンで利用できるか、フロー図を用いながら分かりやすく説明している。

さらに、同社で機器を購入した場合のメリットも提示。メンテナンスなど手厚いサポートやスピーディーな相談対応、ニーズに合わせて複数メーカーから最適な機器が選べることなど、同社の強みが視認性の高いレイアウトでまとめられている。

また、同社のソリューションをイメージできるように、これまで同社が行った計測機器診断の好事例を掲載。どのような相談に対し、同社がどのようなアドバイスを行ったか、イラストを用いながらストーリー仕立てで紹介している。

そして「測定室」の販促効果を向上させるため、新たに専用ページも立ち上げた。タナベ経営がリニューアル後の経過を観察・分析し、今後もさらなる改善提案を行っていく予定だ。

その他、講座やニュースリリースなどのインフォメーション機能も充実。同社が東北各地で開催している「スキルアップ講座」(セミナーを兼ねた展示会)の応募フォームを用意し、HPから参加申し込みができるようにした。過去に開催した講座内容なども時系列で掲載している。

リニューアルを担当した営業部技術グループ兼IT部門担当リーダー(係長)の佐藤潤一氏は、今後の課題についてこう話す。

「講座の開催リポートについては、もっと当日の様子が分かるように画像なども掲載しながら、充実したコンテンツにする予定です。タナベ経営と打ち合わせをしながら、お客さまが知りたい情報を発信し、興味を持っていただけるように改善していきたいと考えています」

アオバサイエンスの新しい顔となったHPは、顧客をはじめ社外からの評価が日増しに高まっている。だが、同社はそれに満足することなく、次のステージへと歩み始めている。

「当社が目指すのは生きているHPです。今回のリニューアルは、あくまでもスタート。社内からの感想や意見を取り入れて、改善点や付加価値をつけて育てていきたいと考えています」(関本氏)

現在、同社は本社近接地に新社屋を建設中で、2020年5月に本社を移転する予定という。新しく生まれ変わるアオバサイエンスが、これからどのような情報をHPで発信し、ユーザーや学生との距離を縮めるツールとして機能させていくのか、興味は尽きない。

中央左が関本社長、同右が佐藤氏(アオバサイエンス本社内「測定室」にて)

中央左が関本社長、同右が佐藤氏(アオバサイエンス本社内「測定室」にて)

PROFILE

  • ㈱アオバサイエンス
  • 所在地:宮城県仙台市太白区富沢1-5-30
  • 創業 : 1947年年
  • 代表者:代表取締役社長 関本 満則
  • 売上高:45億円(2018年9月期)
  • 従業員数:61名(2018年9月現在)

 


今回のきっかけは、アオバサイエンスの営業強化を支援させていただいていたタナベ経営のコンサルタントからの紹介でした。「営業支援、採用対策ができるHPを作りたい」との関本社長の想いを受け、なんとしても社内に眠る財産情報を集め、“訴求用の武器情報”への変換を成功させたいと感じていました。

どの企業にも、その企業にしかない魅力や財産があります。それをターゲットの心へ訴え掛け、そこから何かを感じ取ったターゲットに行動を起こしてもらうことが私たちの仕事です。今回の取り組みは、まさに始まりの第一歩。今後も共に「HPを成長」(関本氏)させるべく、並走していきたいと思います。

 

SPコンサルティング本部 SPコンサルタント 藤島 安衣

SPコンサルティング本部
SPコンサルタント
藤島 安衣

 

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