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【対談】

チームブランディング:新しい“モノ語”をつくろう

タナベコンサルティンググループのコンサルチームがクライアントのブランディングやプロモーションを支援。プロジェクトの施策と成果を紹介します。
対談2019.07.31

イトーキ:「未来の働き方」を具現化する新本社オフィス

 

国を挙げた「働き方改革」の取り組みが進む中、イトーキでは“ 明日の「働く」を、デザインする。” をミッションステートメントに掲げ、自社の働き方の変革に取り組んでいる。中でも、2018年に開設した新本社オフィス「ITOKI TOKYO XORK」では「自由」と「自律」をキーワードに、一人一人の働き方の自律的なデザインに挑戦している。

 

新しい働き方の提案でSDGsに貢献

現在、先進国のみならず途上国における経済活動が急速に活発化しており、国際社会では「持続可能な開発」が喫緊の課題となっている。国連は2015年に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として、17のゴールと169のターゲットを設定。それらは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」、通称「SDGs」と呼ばれ、普及が進んでいる。すでにSDGsへの取り組み姿勢を投資の判断基準とする考え方も広まっており、国家レベルだけでなく、今や企業にとっても戦略的に取り組むべき経営課題となっている。

こうした中、「人も活き活き、地球も生き生き」を掲げ、持続可能な社会の実現を目指すイトーキグループは、オフィス環境や空間デザインの改革により新しい働き方を提案。同社の取り組みは、働きがいのある仕事と持続可能な経済成長を目指すSDGsの目標にも合致している。同社の考えを体現するのが、2018年に開設された新本社オフィス「XORK」である。

 

デザイナーのためのワークスペース(上)オフィスの中央に、オープンなカフェスペースを配置(左)オフィスの一室に「座禅スペース」を完備(右)SDGsへの取り組みを社内外に周知し、啓発を図るためのバッジ(下)

デザイナーのためのワークスペース(上)
オフィスの中央に、オープンなカフェスペースを配置(左)
オフィスの一室に「座禅スペース」を完備(右)
SDGsへの取り組みを社内外に周知し、啓発を図るためのバッジ(下)

 

働き方の進化系「XORK」

東京・日本橋に位置するイトーキの本社は「XORK」というコンセプトでつくられた最先端のオフィス。XORKとは、アルファベット順でWの次に来る“X”とWORKをかけ合わせた、「働き方の進化形」を示す造語だ。

XORKは、オフィスにおける働き方を「高集中」「コワーク」「対話」「アイデア出し」など10のタイプに分類し、仕事の目的に沿って自己裁量で適切な場所を選ぶというABW(Activity Based Working=仕事の内容に合わせて働く場所を選ぶ働き方)の考え方を推進した構成である。

ワークスペースはフリーアドレス。社員には個人ロッカーが割り当てられており、どこで仕事をしても構わない。集中したいときは集中ブースや個室、相談するときは対話スペースといった具合に、仕事内容に合わせて最適な場所を選択できる。

長方形のオフィスでは、中央にコミュニケーションスペース、両端に行くほど集中度を高めるスペースが配置されている。また、各フロアにカフェスペースが設けられ、座禅が組める空間や休憩・仮眠できるリラックススペースもある。

XORKの設計に携わった中野健司氏(FMデザイン設計部部長)は「居心地の良さを追求し、より家庭のリビングに近づける発想で設計しました。リラックスしながらパフォーマンスをいかに向上させるかに着目したのです。現在の働き方改革は、『時短』がキーワードとなっていますが、次はオフィスの環境が注目されると考えています」と話す。

同社が東京に分散したオフィスを集約移転し、XORKがオープンしたのは、2018年秋。移転に先駆けて、まず経営幹部が目指すべき働き方・オフィスのコンセプトを提示。次にどういったオフィスにするかを社員がワークショップ形式で検討しながら、具体策へと落とし込んだ。

働き方を変えることに社内の抵抗もあったが、「まずはやってみようと思いました。うまくいかなければ、変えていけばいい。失敗も貴重な経験値となりますから」とCSR推進部部長の原孝章氏。確かに、新しいオフィス空間を提案する同社にとって、自社での取り組みという経験値は失敗も含め、大きな財産になる。

XORKの取り組みは、社内外で大きな反響を呼んだ。広報IR部部長の川島紗恵子氏は「1日20組ほどの見学があり、メディアの取材も数多く依頼があります。実際に来られると、その規模と取り組みの徹底ぶりに驚かれます」と話す。

3フロアに跨るオフィスは中階段で移動でき、全フロアを見学することができる。役員スペースも例外でなく、社長・会長がガラス張りの自室で執務中でも見学できる徹底ぶりだ。

原氏は「最先端のオフィスなので、そのままお客さまのオフィスに当てはめるのは難しい。XORKからヒントを得て、お客さまのオフィスにどのように落とし込むかが重要」と指摘する。

 

ABWの考え方に基づく「10の活動」

c2018 Veldhoen+Company All Right Reserved.※「10の活動」はオランダのワークスタイルコンサルティング企業VELDHOEN+COMPANY社の研究により作られた考え方。イトーキは同企業とABW(Activity Based Working)のビジネス展開について業務提携を結んでいる

c2018 Veldhoen+Company All Right Reserved.
※「10の活動」はオランダのワークスタイルコンサルティング企業VELDHOEN+COMPANY社の研究により作られた考え方。イトーキは同企業とABW(Activity Based Working)のビジネス展開について業務提携を結んでいる

 

 

「人を優先させる」ポリシーの具現化

XORKは、働く人の健康・快適性に焦点を当てた建物・室内環境評価システム「WELL認証」に基づいている。WELL認証は、①空気、②水、③食物、④光、⑤フィットネス、⑥快適性、⑦こころの7カテゴリー、約100項目の基準で評価される。イトーキは予備認証(ゴールドレベル)を達成しており、2019年度中に本認証を取得する見通しだ。

中野氏は「WELL認証の取得により社員の健康と生産性を向上させるという観点だけでなく、認証を取得したオフィスであることが新たな付加価値になります」と話す。オフィス環境の整備により、「人を優先させる」という企業のポリシーを伝えられるのである。実際、こうした働き方改革への取り組みは、人材採用にもプラス効果をもたらしている。

「働き方の改革に際し、最初は社内の抵抗もありましたが、例えば『書類ってそんなに必要ない』など、社員の価値観も徐々に変わり始めています。次の段階として、こうした自社の取り組みによる成果を、お客さまへ還元していきたい」(川島氏)

 

社会課題の解決が事業の持続性を生む

XORKやWELL認証の取り組みは、いずれも「社会課題を解決する」という経営方針に基づくものだ。「お客さまの課題は、社会の課題でもある。お客さまの課題に対してイトーキができることは何かを考えることが、社会課題の解決につながるのです」と原氏。さらに、「お客さまの課題を解決するパートナーであり、社会課題を解決できる企業として、私たち自身がCSRの最先端を行き、ESGの評価を上げられる会社になることが大事」と原氏は続ける。SDGsの全項目を一企業が解決するのは難しいが、オフィスで働く人のマインドを持続的に高める環境とは何かを考えることは可能だ。

タナベ経営では、働き方改革をはじめとする同社のSDGsへの取り組みを対外的に周知し、社内への啓発を図るため、胸につけるバッジの製作などでサポートをしている。今後も多方面へのネットワークを活用しながら、同社のオフィス改革への取り組みや、次号で紹介する工場におけるオフィス改革を広くアピールするサポート役を担う考えである。

働きやすいオフィスを提供することを事業領域としてきたイトーキ。今後は、「働くこととは何か」を追求し、付加価値を探ることに重点を置くと言う。原氏は「新卒採用においても、『社会に役立つ仕事』が評価基準となっています。社会の価値観が変わっており、顧客満足(CS)や従業員満足(ES)という経営課題に取り組まない企業は持続しないと考えられています」と指摘する。

※米国で開発された居住環境評価システム。第三者審査機関のGBCIが評価し、レベルに応じてプラチナ、ゴールド、シルバーの認証が付与される

 

イトーキ 管理本部 CSR推進部 部長 原 孝章氏(左)
イトーキ 営業本部FMデザイン統括部 FMデザイン設計部 部長 中野 健司氏(中央)
イトーキ 管理本部 広報IR部 部長 川島 紗恵子氏(右)

 

PROFILE

  • ㈱イトーキ
  • 所在地:東京都中央区日本橋2-5-1 日本橋髙島屋三井ビルディング
  • 創業 : 1890年
  • 代表者:代表取締役社長 平井 嘉朗
  • 売上高:1187億円?(連結、2018年12月期)
  • 従業員数:2007名(2018年12月末現在)
  • 問い合わせ先 : itk-ir@itoki.jp

 


多くの企業が取り組んでいる「働き方改革」には、さまざまなアプローチが見られる。イトーキの場合、「働き手の能力を最大限に発揮できる環境をつくる」というアプローチを行っている。特筆すべき点は、自社の現場を改善した上で、成功体験や失敗談を、知見としてクライアントに提供する姿勢である。

知見が各社に広がることで、多くの企業の働き手は能力を最大限に発揮できる環境で、「働きがい」を感じながら働く。それこそが、SDGs に対する同社の貢献の形と考えられる。これからも企業や働き手に価値を提供し続けるイトーキの活動に注目したい。

戦略総合研究所
デザインラボ 副本部長
貞弘 羊子

 

 

 

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