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【インタビュー】

変革への挑戦

独自の経営や独創のビジネスモデルで、業界と自社の変革に挑む企業とその施策を紹介します。
インタビュー2021.07.01

八百鮮:八百屋を、日本一かっこよく。 業界の常識を覆す「個店主義」で躍進

 

 

「八百屋を、日本一かっこよく。」を目指す八百鮮には、志あふれる仲間が集う

 

 

若者が集まる「日本一かっこいい八百屋」、八百鮮。創業10年で急成長を遂げた背景にあるのは、「当たり前を当たり前にやる」という至ってシンプルなビジネススタイルだ。常識に逆らいながら新しい八百屋像を打ち立てる、ベンチャー企業の秘密を探る。

 

 

ベンチャー×八百屋
業界に新風を送り込む

 

2021年3月某日、午前10時。まだ人通りもまばらな大阪・野田新橋筋商店街を歩くと、ひときわ活気に満ちた店が見えてくる。創業10年目のベンチャー企業・八百鮮の野田本店。野菜と鮮魚を中心に、肉や卵、その他食料品を扱っており、老若男女を問わず多くの常連客で連日にぎわっている。

 

開店直後にもかかわらず多くの買い物客が訪れる理由は、商品の圧倒的な鮮度と安さにある。それを支えているのが、毎朝市場で買い付けた商品をその日のうちに売り切るという、極めてシンプルなビジネスモデルだ。

 

「大手のスーパーマーケットの場合、スケールメリットを生かし、バイヤーが商談の場で商品を安く買い付けるのが一般的ですが、当社はそれを一切しません。毎朝、市場に出向いて実際に商品を見ながら、出荷状況に合わせて新鮮でお買い得な商品を買い付けています。それが、商品に対する安心感にもつながっています」

 

そう語るのは、創業者で代表取締役の市原敬久氏。28歳のときに仲間とともに15坪の店を立ち上げたのを皮切りに、現在までに大阪市内5店舗、名古屋市内1店舗の計6店舗を展開。2020年の売上高は32億円に達している。

 

急成長を遂げる同社のユニークな点は、店舗が増えても仕入れや店の運営はあくまで店単位で行う「個店主義」を貫いていること。各店舗のスタッフが、店に来る顧客の顔を思い浮かべながら市場を回り、野菜を手に取り、ときには試食しながら仕入れる商品と数量を決めていくスタイルだ。だから、同じ八百鮮でも店舗によって並ぶ商品や価格が異なる。

 

店ごとに仕入れをするメリットは販売や教育にも表れる。自ら仕入れた商品だから品質に自信を持って販売できるのはもちろん、値付けも行うため売り切ることへの責任感が高まる。仕入れ、運搬、陳列、値付け、販売と1人で何役もこなしながら、実地で商売を学んでいくため社員の成長も早い。商品選びから売り方まで、全てを店に委ねる徹底した個店主義だからこそ、人が育ち、組織が成長すると言っても過言ではないだろう。

 

 

感動ある人生を共に生きる

 

「当社は自主性を大事にしています。決められた商品を決められた値段で売るのと、自分たちで商品や値段を決めるのでは、商品や仕事に対する情熱が変わってきます。ですから、規模が拡大しても標準化しようとは全く考えていません。仕組みではなく、いかに属人的にやり切っていくかにこだわっています。属人的であるがゆえに、極めるほど自分にしかできない仕事になる。それが1人1人のモチベーションにつながっています」(市原氏)

 

業務効率を上げる標準化は、今やどの業種、業界においても非常に関心が高いテーマだ。それを「追わない」と市原氏が言い切る背景にあるのが、「感動ある人生を共に生きる。」という同社のバリュー。これは市原氏自身の体験から生まれた価値観でもある。

 

市原氏は経営者だった父親にあこがれ、小学生のころから「自分も経営者になる」と決めていた。だが25歳のとき、リーマン・ショックのあおりを受けて会社が倒産。人材系企業に勤務していた市原氏は実家に戻り事後手続きに当たったが、それまで「社長!」と父を慕っていた社員らは皆去ったという。

 

その苦い経験が「何のために経営者になるのか?」「何のために働くのか?」と自問自答するきっかけになった。真剣に考える中、しきりに頭に浮かんできたのは学生時代に夢中になったスポーツや音楽活動の記憶。仲間と一緒に目標を成し遂げ、肩を抱き合って泣いた瞬間だった。

 

「みんなが同じ方向を向いて、1つのことを成し遂げる。それが大事だと思いました。そうした感動を社員にも味わってもらいたい。その思いが個店主義の根底にあります」(市原氏)

 

標準化とは対極にある個店主義だが、数字からは優れた点も見えてくる。例えば、仕入れから商品が売れるまでに要する時間。同店の場合は平均8時間で、業界平均(124時間)と比べて圧倒的に短い。ジャガイモやタマネギなど日持ちする商品は2、3日かけて販売することもあるが、ほとんどの商品は夕方に値引きするなどして売り切ってしまう。

 

在庫がないから、毎日新鮮な商品が店頭に並ぶ。それが消費者の満足度を高め、「新鮮な商品が安く買える」という口コミが広がり顧客が増えていく。これは、個店主義が生み出すメリットと言えるだろう。その結果、1坪当たりの年間売上高も1000万円に上るなど、業界トップクラスの販売実績を達成している。

 

 

平日も多くの買い物客でにぎわう(八百鮮 野田本店、左)/ミッション、ビジョン、バリューなどをまとめたビジョンマップ(右)

 

 

八百鮮に画一的な社員教育はない。裁量を持って生き生きと働くうち、社員は自然に育つという

 

 

アナログを極めて突き抜ける

 

業界の常識が、顧客にとっての当たり前とは限らない。八百鮮の成長は、改めてその事実を教えてくれる。「標準化しない」「在庫を持たない」など、業界では“非常識”なやり方だが、それをメリットと感じる消費者は意外に多い。それは、ひっきりなしに店を訪れる買い物客を見れば明白だ。

 

また、同社は「チラシを打たない」「総菜をやらない」と決めている。チラシを打たないことで広告費を商品価格に還元できるほか、事前に何を仕入れるかをあえて決めないことで、毎日お買い得な商品だけ仕入れることができる。また、総菜をやらないと決めることで、仕入れた野菜を売り切ることへ意識が集中し、常に新鮮な商品だけが並ぶ店づくりにつながっていく。

 

「よく売るコツを聞かれますが、やっていることは至って普通のことばかりです。結局、当たり前のことをいかに当たり前にするか。それを一番大事にしています」(市原氏)

 

当たり前とは具体的に何を指すのか?それを分かりやすくまとめたのが、「八百屋『だから』【あたりまえ六カ条】」。「新鮮な商品」「妥協なき商品」「おもてなしの心」「清潔感のある店内」「お値打ち販売への努力」「活気ある売場と職場」の6つの項目だが、6つともどこかで聞いたことのある商売の基本ばかりだ。

 

「社長兼店長だったころに、お客さまから教えてもらったことを【あたりまえ六カ条】にまとめました。どこの店でもやっていることですが、どこまでやり切れるかにこだわっています」と市原氏は言う。さらに、「当たり前を続けることが、お客さまが欲しいと思う商品を仕入れるコツにもつながる」とも。

 

例えば、スタッフと買い物客が気さくに言葉を交わす。「昨日のトマトはおいしかった」など商品の感想を聞くうちに、どんな野菜が喜ばれるのかが見えてくる。一方、毎朝市場に通い、仲買人と顔を合わせるうちに、良い野菜やお買い得な商品を教えてもらえる関係性が築かれる。そうした「当たり前」を極めた先に、時代をリードするビジネスが誕生する。八百鮮は、まさにその好例と言えるだろう。

 

 

2024年に年商60億円へ

 

仲間3人と数名のアルバイトからスタートした八百鮮は、今やアルバイトを含めて130名の社員を抱える企業へと成長した。2020年からスタートした5カ年中期ビジョンには、2024年に年商60億円を目指し、8店舗まで拡大する計画が記されている。

 

「毎年6、7名の新卒採用に加え中途採用も行っているので、ここ数年で社員数が一気に増えています。人材も育っているので、社員に感動ある人生を生きてもらうためにも活躍の場を増やしていかないといけません。店舗を増やす目的は、自社の規模拡大というより、社員に新たな挑戦をしてもらいたいから。売上高はその結果として設定しています」(市原氏)

 

ここ数年、各地の商店街からの出店オファーが増えるなど、同社に寄せられる期待も大きくなっている。商店街の八百屋が、どこまで進化を遂げるのか――。異色のベンチャー・八百鮮から、これからも目が離せない。

 

 

八百鮮 代表取締役 市原 敬久氏

 

 

PROFILE

  • (株)八百鮮
  • 所在地:大阪府大阪市福島区吉野2-11-16
  • 創業:2010年
  • 代表者:代表取締役 市原 敬久
  • 売上高:32億円(2020年9月期)
  • 従業員数:130名(アルバイト含む、2021年3月現在)

 


COLUMN

業界を変えれば、未来は変わる

 

八百鮮が創業した2010年と言えば、ITベンチャーの急成長がマスメディアをにぎわせていた時期でもある。そうした中、市原氏はあえて八百屋という“超アナログ”の世界に飛び込んだ。それから10年。市原氏は「八百屋であることの使命感が出てきた」と話す。

 

「10年経営しましたが、この仕事はすごく面白い。また、コロナ禍を経験して、家の近くまで食材が届く環境は、ライフラインと言えるほど重要なものだと感じています。ですから、若い子にもっと挑戦してほしいと思いますが、旧態依然とした八百屋のイメージが強く業界全体に人気がない。そのイメージや概念を変えたいという思いが、年々強くなっています」(市原氏)

 

実際、同社のホームページは従来の八百屋のイメージを大きく覆す。洗練されたデザインはもちろん、映画の予告を彷彿とさせる採用動画や笑いを誘うコンテンツなど、遊び心が満載だ。ホームページや市原氏のSNSを見て「働きたい!」と手を上げる若者は増えており、「ここ数年は採用に困らない」状況という。

 

そうした経験から市原氏は、「『古い業界だから仕方がない』と考えるか、『業界のイメージを変えていこう』と考えるかで会社の未来は変わってきます。逆流することも大事」と話す。古い業界体質に甘んじるのではなく、逆流することで存在感を際立たせていく。ライフスタイルが大きく変化する今は、新しい価値を打ち出すチャンスなのかもしれない。

 

 

 

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