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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2017.07.18

みんなが幸せになるために会社は存在する:伊那食品工業 塚越 寛氏 × タナベ経営 若松 孝彦

 

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人生は一度きり。 経営者が1人でも幸せになる人を増やそうという気持ちでいることが大事です。そうすると日本は本当に良い国になる。

 

「価格競争をしない」という戦略を選択する

 

若松 1980年に発売した消費者向けの「かんてんぱぱ」シリーズは、この10箇条を実践されて多くの支持を獲得し、ブランド化されています。

 

塚越 年輪経営を実践する上でブランド化は非常に良い方法です。ブランドが確立していると安売りしなくてよくなる。昨今は安いことが庶民の味方だと思われていますが、経済はそんなに単純なものではありません。価格を下げるために仕入れを値切れば仕入れ先の社員の給料が安くなり、貧しい人が増えてしまう。それでは幸せな人は増えません。

 

若松 価格には理由があります。安さの背景にも目を向けることが大事ですね。消費者向けの販売においてはオンラインショップを活用されていますが、直接販売は消費者との接点になるほか、適正価格を維持できるという利点もあります。

 

塚越 もともと県内に限って販売しており、県外では販売していませんでした。そこに、たまたま商品を購入した県外のお客さまから、「どこに行っても商品が置いていない」と手紙をいただくようになりました。初めは1日2、3通でしたから、商品を箱詰めしてお送りしていたのですが、その数は増え続け、気が付けば控えた名前が3万5000人に到達していました。せっかくなので試しに手紙を出してみたところ、リピート率が非常に高い。だったらネット販売しようとスタートしたわけです。

 

若松 普通なら大手スーパーへ販路を広げようとすることが多いですが、それをしなかったのはなぜでしょう。

 

塚越 販売量は増えるでしょうが、競争が激しく価格の低下などを招くと考えたからです。

 

若松 先見の明ですね。適正利益を確保する上で、価格決定権を持つことは非常に重要です。売れるからといってつくり過ぎない、売り過ぎない姿勢を貫かれた。なかなかできる決断ではありません。100年、200年と続いている老舗企業ほど、こうした経営スタイルを貫かれる企業が多いようです。

 

遠きをはかる戦略で年輪経営を目指す

 

若松 年輪経営によって売上高は191億800万円(2016年12月期)、自己資本比率は8割に達しています。盤石な経営基盤を築かれましたが、今後の展開についてはどのようにお考えですか。

 

塚越 消費者向けはオンラインショップがメインですが、今は自社店舗での販売にも力を入れています。当社は伊那市の本社に加えて全国8カ所に支店・営業所があり、全てに店舗を併設。さらに、2014年に安曇野や軽井沢に「かんてんぱぱショップ」を出店しました。ネット販売は好調ですが、1分野だけに頼るのは良くないと思っています。

 

若松 食品メーカーの中でも、店舗販売とネット販売をつなげた戦略を採っている企業は伸びています。店舗で買ったことのある商品や、店舗で確認した商品をオンラインショップで購入するなど、実店舗とネットを行き来する消費行動が最近の特徴です。実店舗は、商品を実際に見たり試したりと、体験できるところにも魅力があります。

 

塚越 体験に対するニーズは高まっていると感じています。当社では勤続10年目の社員に10万円のご褒美を渡しているのですが、多くの社員は、そのお金を旅行に使っているようです。「モノは欲しくないけど、旅行はしたい」。ここに次のヒントが隠れているような気がします。企業経営にとどまらず、日本経済、地域経済がもっと「コトの価値」に投資すれば、世の中は良くなると思います。

 

松 同感です。私も、時代の変化を強く感じています。「モノ余りでコト不足の時代」であり、求められる価値が大きく変化しています。

 

塚越 現在の事業の延長線上で戦略を立てていては、時代を見誤るかもしれません。もっと大きな視点で事業戦略を立てる必要があります。二宮尊徳翁の言葉に「遠きをはかる者は富み、近くをはかるものは貧す」がありますが、まさにその通り。時代は変化するものですから、それを読んで手を打つことが肝要です。

 

若松 好調なうちに次の手を打っておくことが大事です。伊那食品工業は「いい会社をつくりましょう」という社是を掲げていらっしゃいます。塚越会長の経営哲学が社員にも浸透しており、事業展開とも一致していることが堅実な成長に表れています。

 

塚越 当社は一般的な経営論から外れているかもしれません。しかし、社員を大事にして、利益や成長を目標に掲げなくても経営できると証明したかった。これは私の野心でもあります。今後も、「いい会社だね」と言っていただける会社をつくっていきたい。だから社是の「つくりましょう」は進行形。いい会社の探求に終わりはありません。

 

若松 私を含め、全国の多くのリーダーに塚越会長のメッセージを参考にしていただけると思います。塚越会長の経営哲学を社員の皆さんが引き継がれ、ますますいい会社をつくっていかれることと確信しております。本日はありがとうございました。

 

 

伊那食品工業 取締役会長 塚越 寛(つかこし ひろし)氏
1937年、長野県駒ケ根市生まれ。病気により伊那北高校中退後、伊那食品工業株式会社入社、1983年同社社長就任。倒産寸前だった伊那食品工業を大きく成長させた。2005年同社会長就任。トヨタ自動車の豊田章男社長を始め、あらゆる業界のトップが経営のアドバイスを求める。主な著書に『いい会社をつくりましょう』(文屋)、『リストラなしの「年輪経営」』(光文社)など。 主な受賞歴に、科学技術庁長官賞(科学技術振興功績者表彰)、農林水産大臣賞(リサイクル推進協議会)、黄綬褒章、最優秀経営者賞(日刊工業新聞社)、旭日小綬章など。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

PROFILE

  • 伊那食品工業㈱
  • 所在地 :〒399-4498 長野県伊那市西春近5074
  • TEL : 0265-78-1121
  • 設立 : 1958年
  • 資本金 : 9680万円
  • 売上高 : 191億800万円(2016年12月期)
  • 従業員数 : 445名(2017年2月現在)

http://www.kantenpp.co.jp/

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