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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2017.04.27

地域密着の“グローカルモデル戦略”で沖縄の流通ビジネスを牽引:リウボウホールディングス 糸数 剛一氏 × タナベ経営 若松 孝彦

 

リウボウ本社にて。代表取締役会長 糸数 剛一氏 (左)と、タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(右)

 

グループ売上高1000億円、従業員1000名。沖縄という限られた市場で百貨店、スーパーマーケット、コンビニエンスストアを主軸に事業を展開するリウボウグループ。観光ツーリズムや海外市場を取り込む沖縄経済と共に流通サービスビジネスを拡大してきた。一層の成長と競争激化が予想される中、グループのビジョンを代表取締役会長の糸数剛一氏に伺った。

 

常識破りの独自性を追求し地元顧客の価値を創造

 

若松 沖縄を訪れるたびに、「沖縄は景気がよい、元気だ」と感じます。その沖縄において、独自の流通ビジネスを展開されているリウボウグループの糸数会長に経営戦略についてお聞きしたいと思います。

 

琉球貿易商事(1948年設立)を前身とするリウボウグループは、那覇市のゆいレール・県庁前駅のそばに建つ百貨店「リウボウ」を運営するリウボウインダストリー、スーパーマーケット(県内14店舗)を運営するリウボウストア、コンビニエンスストア(同317店)を展開する沖縄ファミリーマートなど11社から構成されます。直近の年商はどれくらいですか。

 

糸数 2016年度の連結売上高は1000億円です。主軸となる小売業が好調で、17年度連結決算では百貨店、スーパー、コンビニの合計だけで1000億円に達するとみています。特にコンビニは、2015年にファミリーマート(以降、FM)が「ココストア」を傘下に収めたことで県内で新たに約50店舗が加わり、業績を大きく伸ばしています。17年度の沖縄FMの売上高は、約650億円を見込んでいます。

 

若松 糸数会長は1988年に沖縄FMに入社。FM本部へ出向して米国法人社長も経験された後、沖縄FM社長に就任されました。これまでの幅広い経験や、まいた事業の種が実を結んでいますね。

 

糸数 大きな要因は、沖縄の経済全体が伸びていることです。しかし、「好機に浮かれることなく、さまざまな改革を速やかに行わねば、経営は相当に厳しくなる」と常に言い続けています。それは、百貨店もスーパーも同じです。改革の軸になるのは「独自性」と「差別化」。ライバルと競合しないような独自性を持ち、同じ土俵で戦わない。それが確実に生き残る術なのです。

 

若松 FMは、沖縄県のコンビニ業界でトップポジションを堅持しています。

 

糸数 ところがライバルのコンビニや商業施設の進出が目白押しなのです。私たちの流通ビジネスがどのように勝ち残っていくのか、全国を巻き込んだ戦略を実行せねばなりません。

 

若松 「ローカライゼーションモデル」の再構築が求められますね。分かりやすく言うと、顧客一人一人の名前を知っているくらいの地域密着型の店づくりが理想です。

 

糸数 優秀な店舗では、すでにそれができています。お客さまが来ると名前を聞いてメモし、それをカウンターの裏に貼り付けて覚えているといいます。

 

若松 工夫されていますね。今の小売業にはライバルとの戦いはもちろん、顧客価値競争が求められる時代でもあります。つまり、真の顧客価値を見つけて、モノからコトまでをデザインできるビジネスモデルが勝つ時代なのです。名前を覚えるというのは「顧客の中へ入る」ことの1つになるので、その次の戦術につながります。

 

糸数 ライバルの強みだけをベンチマークにして並ぼう、越えようとするより、強くない要素を見つけ出して、そこの差別化を徹底すべきです。最近の小売業や流通業は、効率を最優先にしてきましたが、そこから脱却し、面倒くさくて効率的ではないことも、お客さまが喜ぶと判断したら積極的に行います。それをやらないと生き残れなくなっていると確信しています。

 

若松 「効率の非効率」であり「非効率の効率」ですね。矛盾を解決しようとするところに新たなビジネスモデルのチャンスと意義があるのです。大変、共感します。

 

糸数 小売事業の真っただ中にいると、消費動向のステージが確実に上がっていると感じます。消費者は店に対して「いつでも自分が欲しい商品がある」という利便性を求めてきました。しかし、それが当たり前になると「どの店も同じ」と興味が薄れてしまいます。沖縄FMが全国でも有数の売り上げを上げているのは、地元の人が支持する商品を充実させているからです。テレビCMも、沖縄の人が喜びそうな独自性のあるものを中心に流しています。消費者参画型のCMも多く、「あのCMに自分も出たい」という声がよく届きます。

 

若松 沖縄の観光ツーリズムビジネスは全国的にも断トツに好調です。2016年の沖縄への国内外の観光客数は816万3100人と、前年比11%増で推移し、4年連続で国内客・外国客とも過去最高を更新しています(沖縄県「平成28年(暦年)沖縄県入域観光客統計概況」)。

 

糸数 インバウンド(訪日外国人旅行)だけでなく、国内からの観光客が多いのも沖縄ならでは。今後は、観光客も本土にないものを欲しがる傾向が強まり、沖縄県の消費者と、日本人観光客の欲しいものが一致すると考えます。さらに、インバウンド客も急増し、沖縄で訪れた場所のトップ5にスーパーとコンビニが入っています。インバウンド客が欲しがるのは、日本の最新の菓子類。箱ごと購入するケースも多いため、効率性を重視してストックをあまり持たないコンビニの特性が弱点になりかねません。

 

 

ウチナームンを育てながら、本土のモノや世界のモノとチャンプルーにする。それが沖縄の強みです。

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最高に幸せを感じられる百貨店づくりに挑む

 

若松 那覇市の一等地に立つ沖縄唯一の百貨店リウボウも、店内を拝見するとだいぶ様変わりしました。

 

糸数 今まで県内になかった新しいテナントの誘致に力を入れています。沖縄に拠点を持つと多大な物流費がかかりますが、沖縄経済の好調さと今後の伸びしろを話し、実際に市場を視察してもらうと進出を決定してくれるケースが増えました。沖縄への情報発信源は東京なので、沖縄の人が欲するのは、東京の商品。それがリウボウで買えるようになったので「東京に行くことが少なくなった」という声をよく聞きます。
これはゴールではなく、激しい戦いの前の「ステップ1」のようなものです。今後は大型の商業施設が次々にオープンし、顧客の争奪戦は激化の一途をたどります。それを勝ち抜くためには、百貨店業態はコンビニ以上の独自性が必要になります。着目すべきは、年間六百数十万人に達する日本人観光客の多くがリウボウに来店しないこと。彼らは伊勢丹や高島屋、大丸など何でもそろう大型百貨店を知っているから、沖縄の百貨店には興味がないわけです。売り場自体はこれ以上広げられないので、規模の勝負はできませんから、沖縄に行ったら必ず寄りたくなるような「リウボウにしか置いていなくて、国内からの観光客がすごく気に入る商品」をそろえたいと考えています。沖縄産の商品に限る必要は全くありません。2018年、2019年を中心に大改装を行い、それに伴うテナントの入れ替えでどれだけの独自性が出せるかが、ポイントの1つです。

 

さらに、顧客が百貨店に求めるのは「癒されるような居心地のよさ」と「わくわく感」に満ちた、幸せを感じられる雰囲気です。東京ディズニーランドもユニバーサル・スタジオ・ジャパンも同様の雰囲気を醸し出すことで、売上高の半分を占めるほどの物販と飲食の収入へつなげています。このような魅力的な空間づくりの提案をさまざまな業界の企業に呼び掛けており、優れたアイデアはリウボウが投資して実現させる計画です。

 

若松 業態という言葉は後付けの言葉であり、「何をどのような場で提供するか」ということに小売業の使命があります。旧態依然とした観のある百貨店業界も、果敢にチャレンジしなければならない節目に来ています。リウボウも速やかに次のステージに進まねばならない。着目すべきは、「モノ余りのコト不足」の現代は、コトを充足させることがモノの売り上げにつながるということです。

 

糸数 沖縄の強みは“チャンプルー”(ごちゃ混ぜ)。ウチナームン(沖縄のモノ)を育てながら、本土のモノや世界のモノと一緒にしてごちゃ混ぜにするのが沖縄流ともいえます。したたかに世界中を駆け巡り、素晴らしいものを仕入れてくる。東京にもないユニークなものはWeb 上で紹介して、「沖縄に来たらリウボウに必ず寄る」というムーブメントを作る。そのような方向に持っていきたいと思います。

 

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