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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2022.04.28

ソーシャルビジネスで未来を変える:ボーダレス・ジャパン 鈴木 雅剛氏×タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

 

商品・サービスそのものが評価されるビジネスモデルが重要

 

若松 恩送りのエコシステムを使えば、より早く、より多くの事業を生み出すことができ、社会に与えるインパクトも大きくなります。その中で、バリューチェーンをどう構築するかが、ビジネスモデル化には重要ですね。

 

鈴木 その通りです。例えば、当社の革製のビジネスバッグや名刺入れなどを製造・販売する「ビジネスレザーファクトリー」の商品は、バングラデシュの職人が作っています。職人たちの9割は、中学校を出ていないため仕事に就けないという都市型の貧困問題を抱えていましたが、優先的に採用して一流の職人に育成した結果、今では周辺工場の約1.2倍の給与水準になりました。このケースは、バリューチェーンに雇用関係を入れることでチャンスを提供しています。ほかにも、生産者として提携する形や当社のお客さまになるパターンもありますが、ここで大事なことは、みんなが幸せになれるバリューチェーンを組むことです。

 

ビジネスレザーファクトリーが国内16店舗まで広がったのは、日本のお客さまに「素敵なバッグ」「すごい技術」と喜んでいただける魅力的なプロダクトがあるからです。お客さまに喜んでいただけないビジネスは絶対に成功しません。

 

若松 「貧困に苦しむ人が作ったから買ってください」では長続きしません。そこをしっかりとデザインするから、事業が広がっていくのですね。これまで多様な分野で事業を成功させていますが、先述いただいた以外の経営技術はありますか。

 

鈴木 社会課題から入ると障壁や制約条件がいくつもあります。それらを超えて収益モデルをつくるには、社会考察と社会哲学のようなものが必要だと思います。事業収益率は15%以上を目標としています。

 

もう1つは、収益モデルを組むアイディエーション(課題と解決方法の発想)です。常識にとらわれない姿勢やチャレンジ精神が大事です。

 

当社の事業は全てビジネスの素人のアイデアから始まっていますが、業界の常識を知らないが故に、自由な視点でビジネスをつくることができます。もちろん、必要な要素や技術を持っている人と協業しますが、入り口で常識や慣習に引っ張られない点は大切だと思います。

 

 

強い思いを持った“普通の人”がチャレンジできる仕組み

 

若松 ボーダレス・ジャパンは起業家の集まりですね。優れた起業家を発掘するポイントはありますか。

 

鈴木 優れた起業家を発掘するというより、当社には強い思いを持った“普通の人”がチャレンジできる仕組みがあります。例えば、先述した恩送りのエコシステムは、起業家を生み出す中心となる仕組みです。また、事業化に当たっては、ビジネスプランの策定やマーケティング、デザイン・システム・広報・採用については社内で支援し、一緒につくっていきます。こうした仕組みを整えることで社会課題にチャレンジしやすくなります。

 

若松 起業家にとっては非常に心強いですし、社会課題を解決するスピードアップにもつながります。「共創」がポイントですね。

 

鈴木 ただ、反省も込めて、ここで気を付けているのは、当社と起業家が「先生と生徒」の関係にならないこと。親ぶってはいけないと自戒しています。私たちは、創業時を含めて、これまでに大変な思いをしてきたからこそ、同じような苦労をしてほしくないと思って、つい口を出してしまう。しかし、それが起業家の成長の妨げになっていると気付きました。新しい事業の立ち上げの主役は、あくまで起業家。ボーダレス・ジャパンはサポーターのような存在です。私たちは一度通った道なので、事業についてもある程度、うまくいく方法が分かるものの、あえて言わないようにしています。枠組みの中に収まってしまっては、本物の事業家に成長しないからです。

 

若松 タナベ経営には「1・3・5の壁」という成長理論があります。年商規模が10億・30億・50億円、100億・300億・500億円というように、「1・3・5」が付く年商を安定的に突破するには経営戦略を変える必要があるという考え方で、成長段階に応じて取るべき経営戦略を明確にしたメソッドです。ボーダレス・ジャパンでも、事業が一定の規模に成長したら支援の方法が変わるのでしょうか。

 

鈴木 黒字が3カ月続くと支援が変わります。赤字が続いているうちは「プレMM」という組織体の中に属します。MMは、マンスリーマネジメントの略。この段階では、マーケティングチームの担当と各社の社長が月次で経営会議を行い伴走している状態です。

 

2カ月連続で黒字を達成した起業家は、次のステップである「MM会議」に入ります。MM会議では、自立した社長が4人1組となり、知見や共有資産をシェアしながらソーシャルインパクトの拡大を目指します。

 

若松 経験値や分野の異なる起業家が集まることで、互いに刺激やアイデアをシェアできます。社長の集まりであることに意味があります。社長は孤独になりやすい立場ですから、仲間や相談相手、サポーターがいるのは大事な仕組みです。4人1組なのも良いですね。

 

鈴木 MM会議はバディーのような関係性です。もともと当社には管理という概念がなく、自立自走する人の集合体。ですが、プレMMやMM会議など、互いに学び合い助け合う場がたくさんあり、事業は自立しても社長が孤立しないよう仕組み化しています。

 

 

不確実な時代こそ社会貢献のチャンス

 

若松 コロナ禍によって、社会の在り方に変化の兆しが見えたように思います。アフターコロナの社会とボーダレス・ジャパンのビジネスモデルはどのように変化すると考えていますか。

 

若松 コロナ禍によって、社会の在り方に変化の兆しが見えたように思います。アフターコロナの社会とボーダレス・ジャパンのビジネスモデルはどのように変化すると考えていますか。

 

鈴木 コロナ禍は社会課題の誘発要因になっただけでなく、隠れていた社会の問題が露見するきっかけになりました。多くの人が命を落とされたことや、大変な思いをされていることに心が痛みます。一方で、これまで目を向けなかったものに目を向けるようになりました。その意味では、より良い社会に切り替わるタイミングにもなり得ると思います。

 

若松 コロナ禍では、ワクチンメーカーをはじめ各方面の民間企業の努力が希望につながりました。社会課題の解決についても、ボーダレス・ジャパンのような民間企業が牽引していることに大きな意味を感じます。「2019年度グッドデザイン賞」の「ビジネスモデル部門」受賞をはじめ、多数のアワードを受賞されているのも理解できます。

 

鈴木 素晴らしい会社が世の中にたくさんある中で選ばれたのは、本当にありがたいことです。今も社会課題は山積していますが、受賞をきっかけに1人でも多くの方に活動を知っていただき、「そのやり方なら当社も課題を解決できるな」とまねしてもらえたらうれしいですね。当社にはボーダレスアカデミーという社会起業家を養成する仕組みもあります。その中で公開しているノウハウも活用してもらいながら、みんなで良い社会づくりを広げていければと考えています。

 

若松 国内でもSDGsに取り組む起業が増えています。SDGsという言葉が流行していくことよりも、「価値観の転換」が本質なのだと感じます。自然災害や感染症拡大のリスクだけでなく地政学的リスクも含め、ますます本質的な価値が問われていると考えます。

 

鈴木 SDGsという言葉が広がり、多くの人が社会課題に意識を向け始めたのは素晴らしいことです。その中で、先行企業の知見から学んだり、取り組みの輪が広がったりするのは良い機運だと思います。

 

会社はバリューチェーンや地域社会などステークホルダーとの関係性の上に成り立っており、社長は社会のプロデューサーのような存在だと言えます。すでにヨーロッパでは、サステナブルに続くキーワードとして「リジェネラティブ(環境再生)」「サーキュラエコノミー(循環型経済)」という言葉が広がりつつあります。プロデューサー(社長)は、そうした考え方を学びながら「事業を通してどのような社会をつくっていくのか」「どう社会に貢献していくか」に思いを巡らせて経営することも大事だと考えています。

 

若松 「社長は社会のプロデューサー」、良い表現です。「社会課題を解決するビジネス」と「ビジネスで社会を良くする」の違いを踏まえて、会社と社会の関係性にどうフォーカスして、いかに社会を良くしていくのか。今こそ、本領発揮ですね。ボーダレス・ジャパンの活動や組織から多くの学びがありました。本日はありがとうございました。

 

 

ボーダレス・ジャパン 代表取締役副社長 鈴木 雅剛(すずき まさよし)氏

1979年山口県生まれ。大学時代にやる気なくつまらなさそうに働くバイト先の人々や、働きたくても働けない人々を目の当たりにし、「世界で一番働きたい会社をつくる」ことを志す。2007年にボーダレス・ジャパンを同社代表取締役社長・田口一成と共同創業し、社会課題の解決と同時に、仲間やその家族の幸せを実現するための経営手法や共同体の仕組みづくりに取り組み、15カ国45のソーシャルビジネスを展開。2019年、丸井グループサステナビリティアドバイザーメンバー(社会分野)に就任。2020年、環境省事業「アフターコロナ・ウィズコロナ時代のサステナブルな社会の在り方に係る研究会」委員に就任。

 

 

タナベコンサルティンググループ タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)

タナベコンサルティンググループのトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種・地域を問わず、大企業から中堅・中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

 

 

タナベコンサルティンググループ(TCG)

日本の経営コンサルティングファームのパイオニア。東証プライム上場企業。1957年の創業以来、We are Business Doctorsを掲げて日本全国はもとより世界でも活動。現在は、グループ4社で総員580名のプロフェッショナルを有し、ビジョン・戦略の策定からM&A、DX・デジタル、HR、ファイナンス、クリエイティブ、デザイン経営などの実装までを一気通貫で提供できるチームコンサルティング、そのバリューチェーンで企業繁栄に貢献する。

 

PROFILE

  • (株)ボーダレス・ジャパン
  • 所在地:東京都新宿区市谷田町2-17 八重洲市谷ビル6F
  • 設立:2007年
  • 代表者:代表取締役社長 田口 一成
  • 売上高:55億4000万円(グループ計、2021年2月期)
  • 従業員数:1483名(グループ計、役員含む、2021年3月現在)
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