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【対談】

WORLD REPORT:ウィズコロナでアップデートする世界

コロナ禍によって世界が変容する中、海外のビジネス現場はどう変わろうとしているのか。米・英・独・中・印のビジネス専門家とタナベコンサルティンググループの社長・若松が対談しました。
対談2021.06.01

ウィズコロナでアップデートする世界:総括 前編【Vol.4】

【図表1】各国の新型コロナウイルス感染状況

出所:WHO(世界保健機関)新型コロナウイルス ダッシュボード(2021年4月19日現在)

 

 

リセット後にアップデートする世界へ

 

アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏の開発したスマートフォン「iPhone」が世界に普及して人類のコミュニケーションは一変しました。コロナ禍においてもスマホの果たした役割は計り知れません。また、松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏は、「生産者の使命は貴重なる生活物資を、水道の水のごとく無尽蔵たらしめることである」と考えて家電製品の普及に努めました。この経営哲学は「水道哲学」と呼ばれています。

 

しかし、今回のパンデミックでは、それらを上回る商品、世界中が切望する商品が登場しました。それが新型コロナの「ワクチン」です。世界70億人が生き残るために切望される商品であり、なくてはならない唯一無二の価値となりました。まさに、地理・人種・気候・宗教などの違いを乗り超える「究極のソリューション」となったのです。

 

このソリューションの出現によって、世界経済は歴史的な転換期を迎えることになります。それがリセット後の世界を決めるとも言えそうです。ポイントを3つ、指摘します。

 

 

1.一国主義から戦略的同盟強化の時代へ

 

米ファイザー社のワクチンは、結果的に米国の同盟国に優先して届いています。米国・英国・EU、そして日本などです。西側諸国と東側諸国のどちらを優先しているかと言えば、西側諸国の同盟国です。

 

これが現実であり、ビジネスベースの自由貿易協定(経済圏)とは別次元のパワーバランスです。貿易収支や関税問題とは別次元の交渉になっています。なぜなら西側諸国は、自由・民主主義・人権といった同じ価値観を共有する同盟国だからです。すなわち「自由経済圏<同盟国」という現実です。今後は、どの国との関係を強化するか、その中でどのようなポジションを確保できるかで日本の今後が決まるでしょう。

 

世界から見ると日本は感染者数が少ないため(【図表1】)、ワクチンの供給が遅れ、結果、接種も遅れています。しかし、ワクチンを自国で開発できない国でありながら、最終的に全国民の接種2回分のワクチンが届くことを確約されていること自体、「恵まれている」とも言えるのです。

 

今後は、日本が速やかにワクチンを独自開発できるようにすることが当然の取り組みであり、戦略投資です。なぜなら、世界で日本ほどの経済規模を持った国家(および企業)は、ワクチンというソリューションで世界に貢献できる国でなければならないからです。それは国家安全保障の問題でもあるのです。

 

 

2.社会課題を解決するESG投資と国際ワクチンファンドの創設

 

裏を返せば、WHO(世界保健機関)のような組織が有事には機能しにくいことを意味しています。今回のパンデミックでそれが露呈しました。すなわち、中立的な機関というものは、有事には機能しないということです。これはイデオロギーの問題ではなく、最終的な責任の所在が明確ではない組織だからです。平時には機能しても、残念ながら有事では機能しにくい組織なのです。今後、感染爆発が予測される国々に対しても、何もできない可能性があります。

 

もちろん、こうした機関や国の支援は必要なのですが、感染予防やワクチン接種などに対する支援活動は、民間企業や一部の富裕層(経営者)、各国政府が一体となったESG投資や、基金・ファンドの立ち上げによって担われていくことになります。

 

ESG投資とは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に対する企業の取り組みを重視して投資する活動のことです。それぞれの言葉の頭文字から「ESG投資」と呼ばれます。環境問題の解決や労働条件の改善へ主体的に取り組む企業が評価され、こうした企業が業容を拡大することで、社会全体の持続可能性(サステナビリティー)が高まることを期待する投資です。

 

現時点で、パンデミックという世界的な社会課題の解決者は、ファイザーという民間企業(経営者)であり、政府でもWHOでもなかったということです。

 

 

3.民間企業への世界的戦略投資を加速する

 

私は有事の際、過去のある出来事を思い出します。2011年3月11日に起きた東日本大震災の数カ月後。当社のファウンダー(創業者)故・田辺昇一から「若松さん、今こそ、経営者を元気にしてください。それがビジネスドクターの仕事であり、私たちの使命です。日本を復活させるのは政府ではなく、経営者・社長・企業家ですよ」と激励されたことです。

 

それから10年たった今年、その通りだという実感を持つに至りました。繰り返しますが、ファイザー社は民間企業です。一企業のCEOが、世界中の首脳と交渉する構図が出来上がっています。ワクチンの開発、それを運ぶ物流やサプライチェーン、患者を受け入れる病院とワクチンを注射する医師・看護師も、大半は民間企業とその人材です。民間企業の経営者リーダーシップや従業員のチームワークによって、世界が救われているのです。

 

今後は、このチームワークやサプライチェーンがESGマーケットの一部と捉えられ、戦略投資されるようになります。今の日本は、水・電気・通信、そしてiPhoneと同等の価値の商品(ワクチン)を自国で生産できない、危機的な状態であることを自覚し、他国からワクチンが届けられる国際関係を維持している間に、ワクチンの開発・生産・供給体制を民間主導で確立できるよう、政府が規制改革を含めてサポート、バックアップする必要があるのです。

 

 

 

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