vol.44 「その日まで、ともにがんばろう」
アフターコロナを見据え、九州のサステナブルなインフラに貢献し続ける
九州旅客鉄道 代表取締役社長執行役員 青柳 俊彦 氏 × タナベ経営 若松 孝彦
2020年10月号
「ともにがんばろう」のメッセージを発信
若松 コロナショックは、鉄道事業を主体とするJR九州グループにも大きな影響を与えていると思います。あらためてコロナショックの影響と実施した対策についてお聞かせください。
青柳 新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出の自粛などの影響により、国内外のお客さまの移動需要が急速に減少しました。また、お客さまや従業員への感染拡大を防ぐため、一部列車や高速船の運休、駅ビルやホテル、飲食店などの一部施設の臨時休業や営業短縮などを実施して対応しました。
4月には全国で緊急事態宣言が発出され、先行きが不安視される中、「その日まで、ともにがんばろう」をテーマに、九州の名所の様子を、各地からのメッセージとともに動画にまとめて配信しました。地域を元気にするために、JR九州グループができることは何かを考えた結果の取り組みです。
また、8月からは福岡市を拠点に活躍するアイドルグループ「HKT48」とのコラボによる、九州の観光地応援企画「みんなの九州プロジェクト」を進めています。
若松 「九州のみんなでがんばろう」という、JR九州らしいメッセージがユーザーに伝わるコンテンツだと思います。ウィズコロナ時代におけるJR九州グループの位置付けや役割について、お考えをお聞かせいただけますか。
青柳 ウィズコロナ、アフターコロナと社会が変化する中ではありますが、当グループとしては、事業の根幹である「安全」と「サービス」は揺るぎないもの、何ら変わることのないものと位置付けています。
その考え方の下、九州のモビリティーサービス企業としての社会的な役割を担い、九州の持続的な発展に貢献する企業グループとして、当グループも変化し、新しい社会における新しい交通の形を作っていかなければならないと思っています。
列車を移動手段からエンターテインメントへ
若松 仕事柄、全国各地を鉄道で回っていますが、JR九州が運行する特急列車には人をワクワクさせる魅力があります。
青柳 そう言っていただけるとうれしいですね。国鉄の民営化によってJR九州が誕生したのは1987年4月1日でしたが、翌88年には当時最速となる時速130kmを実現した「ハイパーサルーン」をデビューさせ、特急「有明」(博多-西鹿児島駅間)の運行をスタートさせるなど、新車両の開発に関しては全国に先駆けて取り組んできたと自負しています。
列車づくりにおいては、列車本来の目的である高速大量輸送の向上に取り組む一方、お客さまが乗りたくなるような車両の開発にも重点を置いてきました。その代表例が九州の旅をより楽しんでいただけるよう、個性あふれる洗練されたデザインとユニークな仕掛けやストーリーを盛り込んだD&S(デザイン&ストーリー)列車です。今では九州各地を11種のD&S列車が走っています。
若松 今でこそ、全国各地で特長ある鉄道が運行していますが、30年前は列車そのものを楽しむといった概念はなかったように思います。民営化して1年後には熊本-宮地駅間を結ぶSL(蒸気機関車)「あそBOY」、その翌年(89年)には特急「ゆふいんの森」を投入されていますね。早い時期からエンターテインメント性に着目された理由はどこにあるのでしょうか。
青柳 九州における鉄道事業は石炭を運搬する貨物輸送で拡大しましたが、石油が石炭に取って代わるエネルギー革命やモータリゼーションによって、民営化当時、鉄道需要は大幅に減少していました。赤字が続く中、何とか1人でも多くの方に列車に乗っていただきたい。乗車機会を増やしたいと考えて取り組んだのが、お客さまが乗りたくなるような列車の開発でした。
また、D&S列車の開発にはもう一つ大事な目的がありました。社名にもある通り、当社は旅客鉄道です。貨物中心の時代を引きずっていた社内の意識を、旅客中心へと変えることも列車づくりに力を注いだ理由でした。
若松 ワクワクするような列車を生み出す背景に、旺盛なチャレンジ精神が見て取れます。同時に、旅客に集中せざるを得なかった切迫した背景が、新しい領域を切り開く原動力になっていたことが分かります。

「その日まで、ともにがんばろう」をテーマに、九州各地からのメッセージを動画にまとめてホームページやツイッターで配信

2020年8月からアイドルグループHKT48とのコラボによる「みんなの九州プロジェクト」を推進