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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【インタビュー】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループ タナベ経営の社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
インタビュー2020.05.29

緊急提言 Vol.2 We are Business Doctors――
今こそ、経営者リーダーシップの発揮を
タナベ経営 若松 孝彦


2020年6月号

 

 

2.有事の経営者リーダーシップ
――8つの流儀

 

今回は、「有事の経営者リーダーシップ」とは何か、皆さんとご一緒にリーダーシップの「内面」を考察していきます。

 

「空気」を読むより「理念」「志」を問え

 

「日本人は、その時代、時代において論理的根拠よりも得体の知れない『空気』を生み出し、その『空気』を理解し、『空気』に動かされる特性を持つ」。1977年、評論家・作家の山本七平氏は『「空気」の研究』(文藝春秋)を世に出しました。時代は違えど、今の日本に当てはまります。政府とマスコミは経済を休業せざるを得ないという「世論」「空気」をつくり出しました。私たち経営者には、この「世論」「空気」に流されず、しっかりと事実を押さえ、時に「空気に水を差す」思考が求められます。そのためには「創業の精神」「得意先」「社員」と徹底的に寄り添うことです。

 

元来、会社とは、創業した一人の意志から生まれた「生き物」。その生き物を時々のリーダーが環境へ適応させてきた進化の歴史、それが会社です。今こそ経営者が行うべきは「理念」「志」を強く問うことです。理念なき経営は滅び、哲学なき経営は浅薄を免れません。「空気」を読む行為と、「理念」「志」を問う行為は相いれないのです。

 

「新しい事実」を創り出せ
ゼロベースで未見に挑む

 

「答えのない有事の世界」では、過去の事実や常識は通じません。「新しい事実」だけが未来を創ります。

 

例えば、テレワーク(在宅勤務)。新しい働き方が突如、広まりました。タナベ経営も皆さんと同様に、社員を守りながら経営を止めない対策として、全社員がテレワークに挑んでいます。仕事の物理的距離や生産性に対する概念が一変する新しい事実を体感しています。有事の経営では、過去の事実(前例)から導いた「もっともらしい」回答が一番危険なのです。

 

将棋棋士の羽生善治氏は著書『決断力』(角川書店)で、「複雑な局面では、私は、局面を何度も整理し直す。複雑になればなるほど整理したいという気持ちになる」「プロ棋士は何手ぐらい先を読みますか、と質問をされる。一時間ぐらい考えれば五百手か千手、二千手と読むことができる」と述べています。経営者のリーダーシップも同様です。点検すべき経営要素を全て洗い出し、財務、営業、生産、購買、開発などの現状認識を冷静に繰り返す。そして先を読んで仮説、実行、検証のサイクルを倍速で回し、その中から「新しい事実」を創り出さなくてはなりません。

 

答えのない有事の際は、実行しながら新しい答えを創るしかないのです。ゼロベース発想で「未見」に挑んだ結果として生まれた新しい事実だけが正解となるのです。

 

「価値観」を180度転換せよ
変幻自在に貢献できる会社だけが生き残る

 

「会社として貢献できる価値とは何か」。有事のリーダーは、そのことを自らに強く問い掛ける必要があります。私はそれを「貢献価値」と呼んでいます。自社の「存在価値」を「能動的価値」へと昇華させる必要があるのです。

 

過去において強みだった存在価値も180度転換し、社会や顧客から求められなくなれば消失してしまいます。自社の「存在価値」を「貢献価値」へとリ・デザインしましょう。

 

想定外の有事によって、私たちは「人が移動しない」「県境をまたげない」「国境を越えられない」「店を開けられない」「家から出られない」「人が集まれない」という社会を、今まさに体感しています。

 

破綻を招くマイナス経済は必然となり、補償金をいくら積んでも穴埋めできるはずがありません。戦後ならぬ「染後(感染の後)経済」が始まります。新しい事実から新しい未来を創るしかないのです。

 

人が移動しない社会は自動車を買わない社会。テレワークが常態化した社会は公共交通機関を使わない社会、オフィスビルが要らない社会。もしかすると、そうした社会が到来するかもしれません。すでに、企業が発揮する強みも規格外になり始めています。自動車メーカーが人工呼吸器を作り、家電メーカーがマスクを作り、ホテルが病床を提供し、タクシー会社が患者を送迎し、社会に貢献しています。

 

有事の際、経営者は引き算や間引きのリーダーシップに陥りがちですが、できるだけ柔軟に新しい事実と社会を受け入れる必要があります。能動的に貢献価値を追求できる「変幻自在な会社」が生き残るのです。

 

チームワークで真の強み(長所)を連結せよ
戦略の起点は強みである

 

「再生企業の経営陣はおしなべてチームワークが悪い」。これは、300社以上の企業再生に携わって導き出した一つのコンサルティング法則です。

 

チームワークが悪いから会社が悪くなるのか、会社が悪くなるとチームワークが悪くなるのか。急激に外部環境が悪化すると、どんなに優秀な会社でも後者のパターンに陥りやすいと自覚してコミュニケーションを取るべきです。

 

そして、「チームワークの悪い会社は救われない」というのが二つ目のコンサルティング法則です。これは国家や地域も同じです。チームワークが悪く、一丸となれないチームは試合に勝てないのです。昨年、ラクビーワールドカップの試合を観戦してそのように感じたのに、自分たちの組織がピンチになるとチームワークが悪くなるようではいけません。

 

いつの時代も戦略の起点は「真の強み(長所)」。真の強み(長所)はチームワークが良い組織にしか見つかりません。経営者の強み、経営幹部の強み、製品・サービスの強み、仕入れ先などパートナーの強み。今こそ、経営者リーダーシップでそれらを力強くつなぐ「有事のチームワーク」が求められています。

 

スピード・説明責任・現場対応力を強化せよ
重点・集中・徹底のリーダーシップ

 

まず、スピードを高めるために「緊急対応チーム」を組成することです。緊急対応チームは社長直轄にして権限を集中させます。手続きや調整をなくすのが狙いです。「船頭多くして船山に登る」ではいけません。「衆知独裁」。権限を集中させ、スピーディーに決断、一気呵成に実行に移します。兵法書『孫子』に「激水の疾くして石を漂わすに至るは勢なり」とあります。重点・集中・徹底のリーダーシップが大切です。

 

二つ目は「説明責任」。「経営は一人で始めなければ何も始まらない。しかし、一人では何もできない」。ステークホルダー(顧客、社員、地域社会、株主など)へ説明責任を果たすことです。SNSやコーポレートサイトの活用が有効です。

 

答えのない有事、何をやっても反対者や批判者は出てきます。提案なのか、評論なのか、現場の意見を見極め、組織活動における「いいね」を探し、拡散させるコミュニケーションもチームワークには大切です。良い施策でも、組織に不安や疑心暗鬼がまん延すると機能不全に陥ります。

 

最後は「現場対応力」です。まずは権限委譲(エンパワーメント)の実施。緊急以外の現場のことは現場に任せる。おのずと意思決定が速くなります。加えて、従来の稟議や決裁手順をできるだけシンプルに改善することです。現場対応力を阻害する障害物は全て取り除くことも大事な経営者リーダーシップなのです。

 

デジタルリーダーシップを発揮せよ
逃げ遅れる人をつくらない

 

ここ数年、私たちが力強く提言してきたデジタル戦略投資(DX:デジタルトランスフォーメーション)。今、これに取り組んでこなかった会社は例外なく困っています。例えば、モバイルパソコン(PC)とスマートフォンの全社員支給、業務データのクラウドデータベース移行と全PCのシンクライアント化(ハードディスクにデータが残らないシステム)、グループウエア上でのスケジュール登録や電子決裁、人材育成の企業内大学クラウド化、経費精算のクラウド化、デジタルマーケティングの実施、Webセミナー(ウェビナー)開催、ERP(経営統合クラウド)システムの導入、ビデオ会議ツールによる取締役会や経営会議、幹部会議の実施――。

 

これらはタナベ経営が「We are Business Doctors」であり続けるために実施してきたDX戦略の一部です。グループ社員約430名の全員が、いつでもどこでも仕事をできる環境づくりに挑んでいます。

 

現代の有事では、経営者がデジタルリーダーシップを発揮できなければ、自然災害と同様に「逃げ遅れる社員」が出てきます。それは絶対に防ぐ必要があります。今からでも遅くはありません。顧客のため、社員のためになるデジタル戦略投資は、躊躇なく実行していくべきです。

 

決断力と実行力を高めよ
逡巡の罪を犯さない

 

「決定と決断は違う。決定は情報がそろった中で決めること。決断は情報不足の中で決める行為」。したがって、今日の昼食や夕食のメニューを決めることを決断とは言いません。選択肢がそろっているからです。

 

正解がない有事に、経営者が決める行為は「決断」です。経営者のリーダーシップは決断そのものであると言っても過言ではありません。どのような時でも「社長とは自分自身を客観的に見つめ、その客観性で自分自身を変えることのできる人」でなければなりません。社長は決断から逃れることはできないのです。

 

「逡巡の罪」という言葉があります。「打席に立たずしてチャンスを逃す罪は何よりも大きい」「リスクを恐れて何もしない方が罪だ」「決断の先送りの罪は大きい」という意味です。「分からなくても、やるのが決断」「間違っていても、やるのが決断」「遅いより、早い方が良いのが決断」「退くこと、撤退も立派な決断」。あなたの後ろには誰もいない行為、それが社長の決断です。

 

社長が孤独なのは、この決断をする仕事だからです。決断力を高めるためには、創業の精神で経営理念を問い、歴史から学び、その上で明るい未来をつくる意志を強く持つことです。世の中で絶対変わらないことがあるとすれば、「世の中は絶対に変わる」ということ。走りながら考え、環境が変われば決断も変えて良いのです。最も危険な行為は決断しないこと、先延ばし、先送りです。

 

悲観的に準備して楽観的に行動せよ
さあ、反転攻勢のリーダーシップを

 

企業の危急存亡の秋、社員は経営者のリーダーシップに注目します。経営者は常に見られています。経営者は明るく冷静な言動を取り、社員の信望を集め、その“志気”を奮い起こすように努めなければなりません。

 

タナベ経営は、リーダーの資質として「六つのション」が必要だと提言しています。それは「ビジョン」「パッション」「デシジョン」「アクション」「コミュニケーション」、そして「ミッション」の六つです。

 

・明確な夢を持つ⇒Vision
・燃えるような情熱と何としてもやり抜く強い意志⇒Passion
・スピーディーで的確な決断力⇒Decision
・リーダーが自ら始める行動力⇒Action
・ステークホルダーへ説明責任を果たす⇒Communication
・組織に経営理念を浸透させる⇒Mission

 

未来は予測するためではなく、創るためにあります。危機に直面したとき、「条件反射的対応」や「経験則的対応」といった対症療法ではなく、「未来先取りの創造対応」をすることこそが経営者リーダーシップです。

 

「経営は悲観的に準備して楽観的に行動すること」。予定調和を払拭し、経営者が預かっている経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報、パートナー企業)の強みを見つけ、つなぎ、ポストコロナの「反転攻勢」へ、リーダーシップを発揮していきましょう。それを可能にするのは、経営者であるあなただけなのです。

 

 

人生、ニッコリ笑って命がけ
――――――田辺 昇一(タナベ経営 創業者)

 

 

 

 

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

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