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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2019.12.16

商品と店舗の“質”を極める魚屋のファーストコールカンパニー:角上魚類ホールディングス 代表取締役会長兼社長 栁下 浩三氏 × タナベコンサルティング 若松 孝彦

新卒社員を定期採用して人材でも“質”の日本一を目指す

 

若松 「お客さまに喜んでいただきたい」という、栁下会長の強い思いが感じられます。

 

栁下 既存店の売り上げが伸びるのは、お客さまがしっかりとリピートしてくださるからです。関東に進出した時に、私は「日本一の魚屋になる」と宣言しました。それは売上高や店舗数といった規模を膨らますのではなく、魚屋としての“質”を磨くこと。つまり、商品と店舗の質を究極まで高め、日本で最もお客さまの役に立つ魚屋になり、お客さまから「魚を買うなら角上魚類」と言われる存在になることを指します。

 

若松 タナベ経営は100年先も一番に選ばれる会社、「ファーストコールカンパニー」を目指そうと提唱しています。角上魚類はまさに一番に選ばれる“魚屋”ですね。

さて、日本一を実現するには、優れた人材も不可欠です。角上魚類も新卒採用に意欲的に取り組んでおられますが、人材に対するお考えをお聞かせください。

 

栁下 1993年に川口店(埼玉県川口市)を構えた際、関東で本格的に店舗展開を図るなら、若い人材を集めなければならないと思いました。それで大卒の新入社員を採用するためにいくつもの大学に足しげく通い、3名を入社させることができました。それから次第に採用数を増やし、10年ほどたつと高卒、専門学校卒を加えて毎年30名前後の新卒を定期採用するようになりました。今年(2019年)も大卒10名、専門学校卒1名、高卒17名の計28名が入社しました。

 

若松 積極的に採用に取り組まれてきたのですね。人材育成にはどのように取り組まれていますか。

 

栁下 新入社員は配属された店でのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が育成の中心になっています。「指導パートナー」と呼ばれる先輩が、接客方法や心得、魚のさばき方などをマンツーマンで段階的に教えることで、包丁の持ち方すらおぼつかない新人でも、数年のうちにベテランの技を習得できます。

 

さらには営業部に「育成指導課」を設置して、各店舗の若手社員に仕事の進め方を教示し、悩み事や要望を聞きながらモチベーションを高めてもらう活動を始めました。また、各月ごとの習熟度を測り、スキルアップを可視化できるよう取り組んでいます。

 

また、私の指導語録をまとめた『角上魚塾』という冊子を作って、新入社員と入社4、5年目の社員へ向けた講義に使っています。

 

既存店の売り上げが順調に伸びていますから、
無理して出店することはないと考えています

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角上魚類ブランドを浸透させ「魚離れ」を防ぐ

 

若松 2016年、売上高が300億円を超えたのを機に持ち株会社「角上魚類ホールディングス」を設立されました。グループの未来についてどのようにお考えですか。

 

栁下 現在、私は角上魚類ホールディングスの会長兼社長を務め、事業会社3社の社長は、息子(栁下浩伸氏)が務めています。将来的には息子が持ち株会社の社長になり、事業会社はそれぞれの社員の中から社長を選んだ方がよいと考えています。

 

若松 私も同感ですね。事業センスは遺伝しませんが、経営センスは後天的に学べます。経営者をたくさんつくると、会社が強くなると私は考えています。

 

栁下 朝の仕入れが、その日の売り上げに直結する世界で、よく45年近くも売り上げを落とさずにやってこられたなと不思議に思います。これも社員が頑張ってくれたおかげです。そんな社員への感謝の気持ちを込めて、2019年5月に「令和記念」としてパート社員も含めた全社員へ、金一封を支給しました。何の告知もしなかったので、皆、驚いたようです。

 

若松 角上魚類というブランドがもっと広く知れ渡り、多くの家庭の食卓においしい魚料理が並ぶようになると、「魚離れ」も収束するでしょうし、むしろ「魚好き」の人が増えそうです。

 

栁下 最近、「お客さまファースト」などと言われますが、私はお客さまに喜んでいただくことがうれしくて、当たり前のように努力してきました。これからも、お客さまへの感謝の気持ちがこもった小さな魚屋を精いっぱいやっていきます。

 

若松 小さな魚屋と謙遜なさいますが、1店舗でどれくらい売り上げるのですか。

 

栁下 小平店(東京都東久留米市)が最多で年商約30億円、最も少ない店で年商約9億円です。

 

若松 業界の常識では考えられない見事な経営です。ぜひ、これからも“一番に選ばれる魚屋”としての「質」を極めてください。本日はありがとうございました。

 

 

角上魚類ホールディングス㈱ 代表取締役会長兼社長
栁下 浩三(やぎした こうぞう)氏
1940年4月25日寺泊(新潟県長岡市)に生まれる。実家は、江戸時代からの網元兼卸問屋。県立新潟商業高校卒業後、実家を継ぐものの、沿岸漁業の縮小、スーパーマーケットの台頭により小売業に転換。現在は角上魚類ホールディングス代表取締役会長兼社長として、関東、信越に22店舗を展開している。

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

PROFILE

  • 角上魚類ホールディングス㈱
  • 所在地 : 新潟県長岡市寺泊下荒町9772-20(寺泊本社)
  •       埼玉県さいたま市岩槻区美園東2-16-5(美園本社)
  • 創業 : 1974年
  • 代表者 : 代表取締役会長兼社長 栁下 浩三
  • 売上高 : 341億4521万円(2019年3月期)
  • 従業員数 : 977名(2019年3月末現在)

 

 

 

 

 

 

 

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