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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2019.06.28

シリコンバレーのスタートアップ企業と共に日本でイノベーションを起こそう:プラグ・アンド・プレイ ジャパン 代表取締役社長 フィリップ・ヴィンセント氏 × タナベコンサルティング 若松 孝彦

 

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スタートアップと大企業をつなぐ、イノベーションプラットフォームを提供するPlug and Play。世界12カ国27拠点を構え(2019年5月末時点)、支援先企業は2000社以上、資金調達総額は70億ドル(約7770億円、1ドル= 111円換算)を超える。イノベーションが起こりにくいといわれる日本企業に必要なものは何か。日本法人の代表を務めるフィリップ・ヴィンセント氏に、スタートアップ企業とのオープンイノベーションを成功させる要諦を伺った。

 

PayPalやDropboxの誕生も支援した
スタートアップ・エコシステム

 

若松 2006年に米シリコンバレーで創業したPlug and Play(プラグ・アンド・プレイ、以降PnP) は、革新的な技術やアイデアを持つスタートアップを支援するグローバル・ベンチャーキャピタルであり、世界トップレベルのアクセラレーターです。日本支社の設立は2017年7月。フィリップ代表は当初から運営に関わっておられます。

 

まずはPnPがどのように設立されたのか、また具体的にどのような支援を行っているのかをお聞かせください。

 

フィリップ PnPの創業者であるサイード・アミディは、米シリコンバレーでさまざまな事業を立ち上げた事業家です。その一つが不動産業で、スタンフォード大学の近くのビルを購入したことがPnP設立のきっかけになりました。

 

もともとビルがあったパロアルトという地域には、多くのベンチャーキャピタルが拠点を置いていました。その資金を目的にスタートアップ企業が集まっており、サイードが所有するビルにも、GoogleやLogitech、Danger(Microsoftが買収)といった企業がスタートアップとして入居していました。

 

若松 いずれも優れたビジネスモデルを持つ企業ですね。そうした企業が集まっているのであれば、投資家は放っておきません。

 

フィリップ その通りです。有望なスタートアップが集まったことで投資家はますます増え、資金調達を目的にスタートアップがさらに集まってくる善循環が生まれました。この動きに注目した大企業が次々と同じビルに拠点を置くようになると、スタートアップに関わるキープレーヤーが集積するエコシステムが出来上がっていきました。

 

こうした流れの中、サイードは2006年にPnPを設立。現在、シリコンバレーの拠点には、スタートアップが500社以上入居し、同じビルに大企業や政府機関、大学など100社以上が集まっています。

 

若松 スタートアップにはスピード感が大事です。同じビルにキープレーヤーが集まるメリットは大きいですね。そうした場所を提供されるだけでなく、PnPは大企業と共にスタートアップの早期ビジネス化を支援するアクセラレーターとしても積極的に活動されています。

 

フィリップ PnPでは、2013年からスタートアップに対する短期集中型の支援プログラム「アクセラレーションプログラム」を提供しています。スタートアップを15~20社ほど集めてプログラムをつくり、大企業がグループになって支援する仕組みで、実施期間は3カ月。最初にスタートしたBrand and Retail(ブランド・アンド・リテール)をきっかけに世界中へ拠点が拡大し、各拠点でさまざまなプログラムが誕生しています。現在、東京では5テーマ、海外では27拠点で50以上のテーマを回しています。

 

若松 シリコンバレーを訪れた際、私はこのアクセラレーションプログラムに共感し、日本でも必要になると直観しました。シリコンバレーらしいビジネス支援モデルだと思います。このプログラムに参加するメリットはどこにあるのでしょうか。

 

フィリップ スタートアップ側は、パートナー企業からアドバイスを受けて事業をブラッシュアップできますし、不足する経営資源やノウハウを短期間で補うことができます。

 

一方、パートナー企業は有望なスタートアップと出合うことができ、新規事業やオープンイノベーションにつなげるチャンスになります。

 

 

技術・人材がそろっている
日本企業の可能性は大きい

 

若松 このたび、私たちタナベ経営もPnP Japanとパートナーシップを結びました。現時点では、日本においてどのような活動をされているのでしょうか。

 

フィリップ アクセラレーションプログラム事業と投資事業、大手企業を対象とするオープンイノベーション戦略の支援事業をメインに活動しています。グローバルにビジネスを展開していますが、プログラムなどは拠点を置く地域に合わせてアレンジしています。

 

例えば、日本の場合は、スタートアップに対してワークアップやコーチングを行うだけでなく、パートナー企業に対しても実証実験に至るプロセスやチームづくりのコーチングを実施しています。サポート企業側にコーチングを行うのは日本独自の特長です。

 

若松 フィリップ代表が日本支社の開設をPnPに提案されたとお聞きしました。スタートアップや日本市場に興味を持たれたきっかけは何ですか。

 

フィリップ 私は米国生まれの日本育ちです。大学入学を機に米国へ戻りましたが、卒業後は日系商社のシリコンバレー事務所に採用されて、現地のセールスマーケティングに関する新技術を日本の企業に紹介する仕事をしていました。そこでPnPに出入りするようになりましたが、現地のスタートアップと日本企業がうまく連携できないケースが続きました。

 

こうした状況をどうにか変えたいと思い、PnPに入社。ちょうどIoTのアクセラレーションプログラムを立ち上げるタイミングだったので、IoTのプログラムと、そこからスピンアウトしたモビリティーのプログラムの責任者を務めていました。

 

若松 私も、日本企業がスタートアップとうまく連携できないように感じます。大企業との連携もよいのですが、私たちのクライアントである中堅オーナー企業は、投資や意思決定の面で有利だと考えます。

 

フィリップ 連携がまだうまくいっていないのは、構造的な問題の方が大きいように感じています。シリコンバレーのPnPにおいても、私は日本企業とスタートアップの連携を支援していましたが、現地のスタートアップ側から「日本企業は準備ができていない」「日本企業との連携が進まない」といったフィードバックが寄せられることがありました。

 

日本企業は非常に保守的で、リスクを取ってコミットメントすることをためらいます。また、事業部制をとっているため、全社的なコミットメントを交わすことが難しいといった問題がありました。

 

若松 早期のビジネス化を目指すスタートアップは、そうした日本企業にあまり魅力を感じないでしょう。ただ日本人としては、この状況は悲しいですね。日本支社の開設を心から歓迎します。

 

フィリップ ありがとうございます。方法さえ変えれば日本企業には大きな可能性があると感じていたので、PnPに「日本に拠点をつくりたい」と提案しました。もともと日本と米国を橋渡しするような仕事がしたいと思っていたことも、日本進出を目指した理由です。

 

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