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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2019.01.31

リユースビジネスのリーディングカンパニー:ハードオフコーポレーション 代表取締役会長兼社長 山本 善政氏 × タナベ経営 若松 孝彦

 

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家電からファッション、趣味用品、酒類まで、生活用品全般にわたってリユース事業を展開するハードオフコーポレーション。倒産の危機を乗り越え、売上高536億円(チェーン店合計)の東証1部上場企業へと成長を遂げた軌跡を、代表取締役会長兼社長の山本善政氏に伺った。

 

スーパーマーケットで経営のイロハを学ぶ

 

若松 ハードオフコーポレーションはリユース業として初めて株式上場(2000年、ジャスダック市場)を果たすなど、業界をけん引するリーディングカンパニーです。テレビやオーディオなど黒物家電のリユース業から始まり、現在は生活用品全般へ事業を拡大。店舗数はFC(フランチャイズチェーン)を含めて900店舗に迫る勢いです。創業者ならではの優れたビジネスセンスが感じられますが、もともと起業を志しておられたのでしょうか?

 

山本 大学を決める頃には、「いずれは起業したい」と考えていました。ですから大学は商学部を選び、卒業後は短期間で経営を学ぶために東京・板橋のスーパーマーケットに就職しました。ダイエーや西友といった規模の大きいところでは一通り仕事を覚えるのに時間がかかってしまうだろうと考え、中堅のスーパーマーケットを選んだのです。思った通り、店舗に配属されてしばらくすると責任者を任され、1年後には本部で菓子の仕入れを担当させてもらうなど、退職までの2年半の間に本当に多くの経験をさせていただきました。中でも勉強になったのは、毎週土曜日の夜に行われた自主的な勉強会です。米国のチェーンストアの経営理論や粗利益といった基礎的な数値管理について習得できました。

 

若松 経営する上でマネジメント理論を学ぶことは非常に重要です。製造業に導入され始めていましたが、流通業にもマネジメントの必要性が叫ばれた時期の先駆け的な学びですね。どんぶり勘定の経営か、効率を追求した経営かの選択は、個人商店で終わるか企業へ成長していくかの分かれ目にもなります。

 

 

起業して事業を拡大するも
バブル崩壊で倒産危機に直面

 

若松 スーパーマーケットで経営を学ばれた後、すぐに起業されたのですか。

 

山本 はい。ちょうど新潟県新発田市にアーケード街ができたところで、そこに15坪(約50m2)の店を借りてオーディオやテレビなどを販売する「サウンド北越」を1972年に創業しました。私はまだ24歳でしたが、その頃から決めていたのは「公私混同をしない」ということ。私の父は電器店を営んでいましたが、実は小さい頃は家が商店であることが嫌でした。店番をさせられるし、家族団らんの時間はほとんどありません。そんな公私混同の悪い面を見てきましたから。

 

若松 創業当時から「公私混同をしない」と、自らを律した経営を心掛けていらっしゃったのは素晴らしいですね。オーディオを商材に選んだのは、家が電器店だった影響からでしょうか。

 

山本 少しは関係ありますが、それよりもオーディオは格好良いじゃないですか(笑)。それに小さな店で営業できることも理由でした。その後、サウンド北越は新潟県内にパソコンを扱う3店舗を含めて7店舗まで広がりました。ところが、1990年にバブル経済が崩壊。その影響で1992年の売り上げが前年比5割程度まで落ち込んだことで、資金繰りに走り回る日々が始まりました。

 

若松 売り上げが半減すると、銀行から新たに融資を受けることも難しくなります。

 

山本 例に漏れず、銀行には断られましたよ。そこで、私はお付き合いがあった菊水酒造の高澤英介社長(当時)の元に、相談という名の融資のお願いに行きました。高澤さんは最初からお見通しで、私の話を一通り聞いた後に「まず、真っ白になりなさい」とアドバイスをくださいました。要は「リセットしなさい」ということ。私の人生を変えた大事な言葉です。思い返せば、それまでは「バブルらしいことには手を出さずに真面目に働いてきたのに、なぜこんな目に遭うのか?」という気持ちがありました。しかし、真っ白になって冷静に考えると、理念なき戦いだったことに気付いたのです。もちろん、会社に理念らしきものはありましたが、取って付けたような経営理念で本物ではなかった。高澤さんの言葉によって、「会社の理念がお客さまから否定されたという現実」を直視することができたのです。

 

若松 「真っ白になりなさい」とは、素晴らしいアドバイスです。短い言葉ですが、非常に深い意味があって感動します。自らリセットボタンを押すことで、「あなたは本当に何がやりたいのか」「何をやるために生きているのか」という事業家、経営者にとって一番大事なことに気付かされた問いだったわけですね。

 

山本 その通りです。私は、真っさらな気持ちになって、「残りの人生をどのような事業に使うべきか?」「社員も含めて1日の大半を仕事に費やすならば、どのような店が良いか?」「どのような理念が良いか?」について、とことん考えました。そして、ハードオフの経営理念でもある「社会のためになるか」という結論にたどり着いた時、21世紀はエコの時代という大義と、サウンド北越でお客さまから下取りした中古品を年1回、ガレージセールとして販売すると大変好評だった光景が自然と重なりました。ハードオフのルーツとなるアイデアがひらめいた瞬間であり、資金繰りは苦しいままでしたが、不思議なことに精神的な苦しさはそこから半減していきました。

 

若松 資金繰りが苦しいと、自ら泥沼に入って抜け出せなくなる経営者は少なくありません。私も経営コンサルタントとして、「一度、ゼロから考えてみましょう」とアドバイスすることもあります。しかし、全ての方に響くわけではありません。謙虚に学び公私混同をしない、自分を律することができる山本社長だからこそ、リセットして考えられたのだと思います。

 

山本 「リセット」という言葉は、今でも社内でよく使っています。リセットボタンは自ら押さないとダメです。これも私が経験から学んだことであり、社員研修の冒頭でいつも社員に伝えています。

 

 

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