vol.27
人材の多様性が会社を強くする
首都大学東京 大学院 経営学研究科 教授 松田 千恵子氏
× タナベ経営 若松 孝彦
企業規模が拡大するにつれて進んでいく組織の官僚化。社内を活性化させて企業価値を向上させる組織デザインはどのようなものか?金融業界での実務経験をはじめ、アナリスト、外資コンサルティングファームのパートナー、社外取締役の経歴を持ち、企業戦略に精通する首都大学東京大学院の松田千恵子教授に、日本企業の課題と改革のポイントを伺った。
経営を規律付けする社外取締役の存在
若松 松田先生は首都大学東京大学院で教鞭を執られるほか、いくつかの企業で社外取締役を務めてこられました。グループ経営やコーポレートガバナンスに精通していらっしゃる先生にぜひお聞きしたいのは、企業価値を向上させるにはどのような組織デザインを行うべきかについてです。日本では2015年6月からコーポレートガバナンスコードが適用され、上場企業を中心に社外取締役を選任する動きが広がっています。こうした現状についてどのような考えをお持ちでしょうか?
松田 コーポレートガバナンスコードでは、上場企業に対して2名以上の独立社外取締役の選任を求めています。もともと日本企業は自前主義ですから、ほんの数年前まで日本を代表する企業であっても外部人材の活用に対して否定的な見解でしたが、今は当然のように社外取締役を置くようになりました。客観的な立場から意見を言う社外取締役の存在は、非常に重要だと思いますね。
若松 ほとんどの経営者は正しい意思決定に努めていますが、内部人材だけでは業界の常識や経験の範囲内で決断しがちです。また、ワンマン経営者の場合は反対意見が出にくいことも事実です。
松田 有能な経営者であるほど、セルフガバナンスを働かせて自分を律しています。ですが、それはとてもつらいことですよ。私はよくダイエットに例えますが、1人でダイエットするのはつらいものですよね。ですが、一緒に取り組んでくれ、自己流に陥らないよう見守ってくれる伴走者がいるとダイエットは長続きします。そのような存在が社長には必要だと思います。上場企業に限らず、社長が規律付けしていく上で外部人材の存在は大きいと思いますね。
社長職に限らず、人間は弱いものです。私は「性悪説」ではなく「性弱説」と言っていますが、人間はそんなに強くない。ですから誰かが見ていてくれていると、出来心の抑止力になりますし、何かを決めようとする意思決定の助けになり得ます。また、株主をはじめとするステークホルダーの目線を社内にもたらしてくれる存在でもあります。社外取締役は、意思決定のアドバイザーとしても、経営に対するモニタリング機能を果たす上でも、重要な存在と言えます。