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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2018.02.28

地域経済をつなぎ未来を創る独創的な銀行ビジネスモデル:静岡銀行 中西 勝則氏 × タナベ経営 若松 孝彦

地方企業、成長の鍵
今こそ戦略投資が必要

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若松 都市と地方では、経済活動が二極化しているという社会的課題があります。それは地域銀行全体の課題であるともいえます。御行は静岡に根を張って事業をされています。タナベ経営もおかげさまで創業60年を迎え、北海道から沖縄まで全国10拠点で地域密着の経営をしています。その経験から強く感じるのは、地方には良い企業がたくさんあるということです。私どもは、地域企業がより成長することで地域経済も豊かになる、と確信しています。

 

中西 確かに地方には良い企業がたくさんありますね。特に静岡は多くの産業が集積しているので、さまざまな業種の良い企業が多くあります。

 

若松 そして、良い企業は多いですが、国内外へのブランド力や発信力がまだまだ弱いと感じています。私どもは「ファーストコールカンパニー(100年先も一番に選ばれる会社)」づくりをビジョンに掲げています。地方のファーストコールカンパニーに共通しているのは、ブランディングやビジネスモデル転換へ積極的に「戦略投資」を行っている点です。とはいえ、自社のブランド価値を上げることに投資する企業はまだ、そう多くありません。ブランディングには、既存の事業や人員、果ては本社、工場まで見直すといった幅広い投資が必要です。地方には、磨けば光る企業が非常に多いので、ぜひ戦略投資を進めてほしいものですね。

 

中西 実際、静岡県でも中堅・中小企業のブランディング意識は弱いと感じています。地域や業種により異なるのですが、優良な大企業の下請けを行っているところもたくさんあり、ヒエラルキーが出来上がっていることがその理由です。ただ、今は技術の進化が著しく、このヒエラルキーの構造が変わっていく可能性があります。自動車などはEV(電気自動車)化への動きが急速に進展して、従来の部品構造が大きく様変わりしつつあります。これは、多くの中堅・中小企業にとってピンチでもありますが、そこから飛躍するチャンスと捉えることも可能です。私が知る限りのブランディング成功事例に共通している特徴は、イノベーションのポイントを隠さず開示していることです。具体例を1つ挙げると、熱海市が地元土産の市長賞付与や品評会を行って、優勝した商品のレシピを公開しました。熱海に行けばその品が買えると評判が広がり、商品の良さが消費者に広く深く伝わっていったのです。よいノウハウを表に出せば、ブランド価値が自然に認知されていくということですね。当行も同じ姿勢で、自ら開拓した業務イノベーションを他行へ積極的に開示しています。

 

若松 オープンイノベーションが確かなブランディングにつながっていくのですね。これは都心・地方を問わずに、まさに企業にとって成長に不可欠な取り組みといえそうです。

 

 

ミッションは地域発展との共存

 

松 中西会長は全国地方銀行協会の会長を2度務められました。地域の金融機関の在り方について、メッセージをお願いできますでしょうか。

 

中西 先ほどお話ししたように、銀行業に対する顧客の価値観が変わってきています。われわれのような経営陣が、変化に合わせた対応を取ることはもちろんですが、現場の行員一人一人が価値観を変えていかなければならないでしょう。いつまでも上から目線や、プロダクトアウト思考では変化についていけません。

 

若松 やはり、顧客とじかに接するのは現場ですからね。変化対応の必要性を経営者と共有し、経営課題を解決できる人材や体制が求められるでしょう。そういった意味において、行員の意識改革や事業性評価の出口戦略を示せるスキルアップが最重要課題ともいえます。

 

中西 その通りですね。ただ、今の低金利で地域の要望に100%応えられるかといえば、正直に言うとなかなか難しい。だからこそ、生産性を上げたり合理化したり、新しいビジネスを試みたりと、さまざまな内部努力を行って、私たち自身がしっかりとした組織を構築し地域を守っていくことが必要です。銀行としての収益を守りながら、お客さまと地域を守ることの両立が求められます。それを乗り切って銀行経営と地域発展を成り立たせることが、地方銀行に課せられた使命だと考えています。

 

若松 地域の未来をにらんで、次世代経営者育成に向けた「Shizuginship」というサービスも行っています。

 

中西 「Shizuginship」は、当行のお客さまである企業経営者や後継者、実務担当者の皆さまに、経営に役立つ知識とノウハウ獲得、人脈形成の場をご提供する会員サービスです。リアルとWebを通じて、企業価値の向上や事業の再構築などを多角的側面からサポートしています。当行を含めた地域企業の協力・連携、さらに静岡全体の今後の発展に欠かせないと考えているので、ぜひ参加企業の輪を広げていきたいと思っています。

 

若松 静岡銀行の地元・地域を包括的に捉えた活動や地方銀行経営に対する考え方など、貴重なお話をありがとうございました。地域銀行のモデルとしてますますのご発展を願っています。

 

静岡銀行 代表取締役会長 中西 勝則(なかにし かつのり)氏
1976年3月、慶應義塾大学商学部卒業。同年静岡銀行入行。三島支店長、理事人事部長、取締役経営企画部長、取締役常務執行役員などを経て、2005年6月から17年6月まで頭取を務める。この間、ソリューション営業の高度化など、地域重視に基づく積極的な経営戦略により貸出金を約2.6兆円増加させるなど持続的な成長路線を堅持。また、マネックスグループ、マネーフォワード、ほけんの窓口グループなど、異業種との提携戦略を進め、地域金融機関の新しい方向性を示す。

 

タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ・たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院 (経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

PROFILE

  • ㈱静岡銀行
  • 所在地 :
    〒424-8677 静岡県静岡市清水区草薙北2-1(しずぎん本部タワー)
    〒420-8761 静岡県静岡市葵区呉服町1-10(本店)
  • TEL : 054-345-5411(代表)
  • 設立 : 1943年
  • 資本金 : 908億円(2017年3月31日現在)
  • 貸出金 : 7兆9552億円
  • 預金 : 9兆3040億円
  • 総資産 : 11兆303億円(2017年3月31日現在)
  • 従業員数 : 2884名(2017年3月31日現在)
  • 事業内容 : 預金、貸出、有価証券投資、信託ほか銀行業に付帯する業務

http://www.shizuokabank.co.jp/

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