vol.24
地域経済をつなぎ、
未来を創る独創的な銀行ビジネスモデル
静岡銀行 中西 勝則氏 × タナベ経営 若松 孝彦
“金融激戦区”静岡県を地盤に200超の拠点(県外・海外を含む)を展開する静岡銀行。6大地銀の一角を占める同行が地域経済に果たす役割は極めて大きく、これまでも、これからも、その取り組みが注目される銀行だ。全国地方銀行協会会長を2度務めた同行の中西勝則・代表取締役会長(前頭取)に、地域経済の発展とマイナス金利時代の地域金融機関の在り方について伺った。
意識改革・業務改革・オープンイノベーションで他行に先駆けた取り組み
若松 いつも次世代経営塾「Shizuginship」ではお世話になり、ありがとうございます。長いご縁に感謝します。静岡銀行は1943(昭和18)年に静岡三十五銀行と遠州銀行が合併して誕生、2018年で創立75年を迎えます。中西会長は2017年6月に頭取を退任されましたが、今日の「しずぎん」を形づくる上で特に留意されてきたことは何でしょう。
中西 頭取に就任(2005年6月)してから言ってきたことは「利他の心」です。お客さまをはじめとした、相手を思う気持ちですね。(資金を提供することで)私たちはお客さまを助け、付加価値を付けてもらうことを考えなくてはいけない。なぜなら、それが必ずこちらに戻ってくるからです。行員から見ると、銀行も利他の“他”です。(お客さまと銀行の成長を思う)その両立の中で行員個人が成長し、自立していくわけです。その意識改革を行ってきました。
若松 銀行業は、プロダクトをつくって付加価値を付けて売るビジネスではない分、利他の心がより必要なのでしょうね。利他の心を起点に取り組まれたことはありますか。
中西 昨今、働き方改革や業務量の削減が注目されていますが、私たちは15年前からBPR(Business Process Re-engineering=業務改革)に取り組んできました。一般に、旧来の銀行業務には無駄な部分が多く、業務プロセスが多いほどリスクは高まるし、手間もかかります。住宅ローンなどはその最たるものです。お客さまとの取引に関する膨大な書類を厳重に支店の金庫に保管していましたが、必要なときすぐに見つけられずアタフタしてしまう。これを高度なセキュリティーの下、電子化して別会社で一元管理することで、見たいときに誰でもパソコンで確認できるようにしました。結果として、ローン関連の業務の約6割がカットでき、リスクヘッジにもつながりました。他にもIT活用、システム化などを通じて省けるところは省き、BPRを精力的に進めた結果、10年前に比べると支店の業務量は8割くらい減っていると思います。BPRも、ただ縦割りで考えて業務を削減するのでなく、全体設計を重視しました。例えば、業務量削減による業務内容・役割の変更、それに伴い人事評価制度を「職務等級制度」に変えました。また、中期経営計画とリンクした業務目標設定や、個々人の目標設定と振り返りの仕組みづくりに至るまできめ細かく全体設計をしています。
若松 一部だけを変えると、全体の整合性が取れなくなります。働き方改革や生産性改革に取り組む場合でも全体コンセプトや全体最適が大切です。業務改革全体を通じて静岡銀行のビジネスモデルが変化し成長してきた、ということですね。
中西 その通りです。静岡市清水区草薙に2016年3月にオープンした「しずぎん本部タワー」も、「ワークスタイルを改革する」というコンセプトをもとに設計しました。建物を新しくすることが第一義ではなく、行内のコミュニケーションとチームワーク、仕事の見える化を実現できる機能を目指したのです。ほとんどの会議室の壁を透明なガラス張りにし、パーテーションを置かず、個人の座席を固定しないフリーアドレス制にしました。外部の視察も積極的に受け入れています。縦の階層も意識し、中央に階段を設置。また、各営業店とテレビ会議システムでつながることもできます。社員が自在に働ける環境をつくり、顧客満足を高め、生産性の向上に取り組んでいます。
若松 静岡銀行の取り組みには、全体にストーリーがあります。しずぎん本部タワーも一部を見学させていただきましたが、部分改善ではなく全体からの設計アプローチを選ばれたことは、特に労働環境への戦略投資であると感じました。容易にまねのできないところに強いコンセプトや意志を感じた次第です。