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【対談】

100年経営対談

注目企業のトップや有識者と、タナベコンサルティンググループの社長・若松孝彦が「100年経営」をテーマに対談。未来へ向けた企業の在るべき姿を描きます。
対談2015.09.30

「無印」という名の「良品」ブランドモデル:良品計画 松井 忠三氏 × タナベ経営 若松 孝彦

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生活雑貨の製造小売業(SPA)-「無印良品」という新しいビジネスモデルで、世界的なオンリーワンポジションを築いた良品計画。「変化と成長」の立役者である松井忠三氏が手掛けた「仕組みの導入による組織風土の革新」に迫る。

 

日本文化の原点から生まれた商品コンセプト

 

若松 良品計画は、製造小売業(SPA)という新しいビジネスモデルで成功されている企業です。しかし、現在の成功までの道のりで、大きな危機も迎えました。そんな大変な時期に社長に就任された松井さんは、危機を乗り越えて見事に同社を復活させた。
その松井さんに「無印良品」という新しいビジネスモデルがどのように生まれ、事業を展開し、低速したのちにV字復活を遂げたのか、「変化と成長」のいきさつをお伺いしたいと思います。

 

松井 無印良品の成功要因は5つに集約されます。1つ目は「コンセプト形成」です。
まず無印良品が生まれた背景から説明しましょう。私が西友に入社した1973年は、流通業界の盟主が百貨店からGMSという総合スーパーマーケットに代わった年でした。しかし、GMSはその後、下り坂の時代を迎えます。私も経験しましたが、予算を達成できないのに人件費は増えるばかり、利益は目減りするばかりで、そこから脱却を図ろうとトライ&エラーを繰り返していました。そんな状況の中、1980年に生まれたのがプライベートブランド(PB)の無印良品でした。

 

若松 当時は、無印良品だけでなく各流通グループで複数のPBが誕生していましたね。

 

松井 そうなんです。しかし、生き残ったのは無印良品だけでした。

 

若松 その要因の本質はどこにあるとお考えですか?

 

松井 最大の理由は、キャッチコピーとしても掲げた「わけあって、安い。」ということです。もちろん、無印良品だけが安いわけでなく、各社のPBはナショナルブランド(NB)よろも3割ほど安かった。でも「安かろう、悪かろう」の商品が多かったんですね。当時は、お客様が自分の価値観で商品を選ぶ時代に入りつつありました。そんなニーズを先取りしたのが無印良品だったのです。ブランドを立ち上げる際、たどりついたのが「日本の文化の原点」でした。豪華絢爛な室町時代の文化から、装飾を全て削って生まれたのが茶道や能です。
非常にシンプルな造形や所作の中に、さまざまなものを包容する文化が生まれ、それは今も脈々と受け継がれています。この原点を見据え、「不必要なものを削りながら、品質は絶対に落とさない。100%の品質で他社の商品より3割安い」というコンセプトを貫いたわけです。

 

若松 「日本文化の原点」。先見力によるコンセプトで開発された「商品がブランド」が、物語として「ミッション(使命)」にまで昇華していますね。

 

松井 消費者の価値観も十人十色になっていたので、各社は細分化されたニーズに合わせて商品開発をしました。しかし、無印良品はその反対をいったのです。

 

株式会社良品計画 前代表取締役会長/株式会社松井オフィス 代表取締役 松井 忠三(まつい ただみつ)氏

株式会社良品計画 前代表取締役会長/株式会社松井オフィス 代表取締役 松井 忠三(まつい ただみつ)氏
1949年静岡県生まれ。73年東京教育大学(現筑波大学)卒業後、西友ストアー(現西友)入社。91年良品計画に出向、92年入社。総務人事部長、無印良品事業部長を経て2001年社長に就任。赤字状態の組織を風土から改革し業績のV 字回復を遂げる。08年会長就任、15年より名誉顧問。著書に『無印良品は、仕組みが9割』『無印良品の、人の育て方』(共に角川書店)ほか多数。

無印良品の商品コンセプトは優れていた。私がトップとして挑んだのは、
それらを磨き続けられる組織経営への大転換でした。 松井 忠三氏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陶磁器の皿を例にとりましょう。無印良品ですから、至ってシンプルなデザインです。これを、食事の皿として使う人もいれば、小物入れとして使う人もいる、灰皿として使う人もいる。それぞれの価値観で使う。それが無印良品の商品価値であり、消費者に受け入れられた理由の1つです。

 

若松 なるほど。消費者が商品用途を考えたわけですね。顕在化した消費者ニーズや用途だけではなく、それらを包み込む「シーズ(ニーズの種)としてホワイトスペース(未開拓マーケット)」を創造できたことが革新的だったのですね。

 

 

競争しない商品を絶え間なく開発する組織

 

若松 成功要因の2つ目に挙げられるのが「脱セゾン化」です。当時、良品計画はセゾングループの一員でした。グループから離れることは、思い切った方針転換だったと思います。

 

松井 セゾングループは百貨店と量販店を中心とした流通集団です。戦後、流通の中心にいたのは百貨店ですが、その後GMSの時代になり、大量仕入れ・大量販売を行うスタイルになります。そこからチェーン・オペレーションやセルフサービスというビジネスモデルが登場するわけです。一方、良品計画の無印良品は、SPAという新しいビジネスモデル。百貨店やGMSで育った人たちは、このモデルを理解できなかったのです。

 

若松 私はコンサルタントとして、チェーンストアと呼ばれる流通企業とSPA企業の両方をコンサルティングした経験があります。流通業は店舗から経営を発想しますが、一方、SPAは商品政策やマーチャンダイジングから発想します。両者は戦略や組織スタイルが全く異なるのです。

 

松井 故に、われわれは西武百貨店(現そごう・西武)や西友のビジネスの考え方から脱却せざるを得なかった。しかし、それが成功要因の2つ目になったのです。

 

3つ目が、「出店による商品開発のプルアップ」です。どういうことをするかというと、30坪でスタートした店舗を60坪、120坪、300坪と広げ、40品目でスタートした商品アイテム数も増やしていく。それによって拡大した収益で、さらなる新商品開発を行うわけです。

 

若松 商品開発力と店舗開発力が正比例する成長モデルの実現を狙ったわけですね。仕入れ商品がないから、商品開発力がなければ店舗はつくれない。「無印コンセプト」の商品アイテムそのものを、絶え間なく増やし続ける仕組みや組織が必要になります。

 

松井 その通りです。加えて4つ目の成功要因が、「生活雑貨拡大政策による差別化推進と成長」です。他のSPA 企業と競合しない生活雑貨の分野を選んだのです。

 

若松 SPAはアパレル(衣料分野)であることがほとんどです。SPAのパイオニアといえる米国のGAPもアパレルですし、日本のユニクロもしかり。その点、無印良品は「生活雑貨」というアパレル以外の分野で展開していった。そこも独創性ですね。5つ目の成功要因としては、「SPAによる高差益率」を挙げていらっしゃいます。

 

松井 実はSPAはハイリスク・ハイリターンのビジネスモデルです。通常、小売業は1000円の商品を売る場合、原価500円に卸売りのマージン150円を乗せた650円で仕入れます。利益は350円。一方、SPAは卸売りが介在しないため、利益に150円がプラスされて500円になる。売れると利幅は大きいのですが、売れないと在庫を抱えることになります。

 

若松 良品計画の2014年度の連結業績を拝見すると、売上高が約2600億円、経常利益は約266億円(2015年2月期)。粗利益率(営業総利益率)は50%近くあり、経常利益率が約10%。いわゆる流通企業モデルの常識では考えられないほど高い生産性です。

 

松井 百貨店やGMSは、それぞれが類似の仕入れ商品を売るので価格競争にならざるを得ない。結果、利益率も低くなりやすい。ところが、無印良品は全てがオリジナル商品ですから、そういった価格競争には陥らないわけです。

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