TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

見える化×DX

コロナ禍による社会環境と価値観の変容で、デジタルツール活用は全企業の最重要課題となった。対面接触を減らしつつ業務効率を上げるために、また多様な人材が活躍できるように、デジタルの力で課題を「見える化」し、生産性向上へつなげた取り組みにフォーカスする。
2021.12.01

「連邦型経営」で持続的成長へ:アイティエルホールディングス

 

 

ITソリューション事業を手掛けるアイティエルホールディングスは、後継者不在という課題を持つソフトウエア開発会社のENCOMをM&Aによって譲り受けた。コロナ禍においても3カ月という短期間で合意に至った契約の経緯に迫る。

 

 

交渉開始から3カ月でM&A成立

 

IT企業との資本業務提携を積極的に行い、グループ拡大を続けているアイティエルホールディングス(以降、ITLHD)。「世界に未だないITプラットフォームを構築し、日本から世界に向けて新たなマーケットを開拓する」というビジョンと、独自の「プラットフォーム構想」実現のため、ソフトウエア開発やシステムエンジニアリングサービス事業、ウェブマーケティング事業などを手掛ける13社をグループに迎えている(2021年10月現在)。

 

その1社であるENCOMは従業員数20名ほどの中小企業ながら、受託開発による業務システムやスマートフォンアプリなどの開発で豊富な実績を持ち、ウェブシステムの開発に強みがある。同社の社長(現会長)だった濵﨑誠治氏は高齢化と後継者不在という経営課題により、M&Aによる第三者承継を決断し、ITLHDにグループインした。

 

親族や従業員への事業承継が難しく、外部からの招聘を検討したものの、期待した通りには事が進まなかった際、濵﨑氏は国が運営する事業承継の支援窓口である広島県事業承継・引継ぎ支援センターに相談を持ちかけた。しかし、地元ではM&A案件数が少なく、譲り先を見つけられなかったという。そのため、同センターを通じてタナベ経営にM&Aアドバイザリーを依頼することになった。

 

60年以上にわたって経営コンサルティングを手掛けてきたタナベ経営は、M&A案件の紹介だけでなく、M&A戦略の策定からM&A後の譲渡・譲受両社の持続的成長まで、ワンストップで支援できる特長がある。タナベ経営はENCOMの経営現状や濵﨑氏の意向を踏まえ、日本最大級のM&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」への登録が最適と判断。その登録情報を見たITLHDが即日連絡した結果、2020年7月中旬から10月という短期間でM&Aが成立した。

 

ITLHDがENCOMの情報を得てすぐに動いた理由を、代表取締役社長の佐々井文吉氏は「ENCOMの事業内容の明快さと将来性を感じ取ったことが大きい」と語る。

 

「同社の事業の主体は、受託開発事業およびシステムエンジニアリングサービス(SES)事業。当グループ内にはSES事業を手掛ける企業がすでに存在したことから、シナジーを発揮して共に成長しやすいと考えたのです。また、ウェブシステムやスマホアプリ開発の分野で成長する期待があったことも、すぐに手を挙げた理由の1つです」(佐々井氏)

 

ITLHDには、M&Aの情報収集やデューデリジェンス(M&Aの対象となる会社や事業の価値やリスクなどを調査すること。以降、DD)、交渉などを手掛ける専門スタッフがおり、社内で迅速に契約締結まで行える。また、佐々井氏は大手信用調査会社で多数の企業の調査・分析業務を行った後、経営コンサルティング会社で企業の経営戦略の策定に携わっていた。その経験がM&Aによるグループ拡大戦略を展開する上で強力な武器となっている。

 

「提出された決算書を踏まえて譲渡側の経営者と話を進めていくと、簿外債務の有無を含め、その会社の実態がかなり正確に見えてきます」と佐々井氏は話す。

 

ENCOMを譲り受けるに当たっては、決算書の精査を含めたDDを素早く行ったほか、純資産に基づく株価の提示も行った。また、コロナ禍の影響により対面での協議が難しい中、ウェブ会議を多用して定期的なコミュニケーションに努めたことが、3カ月というスピード成約を可能にした。ITLHDがこれまで手掛けた中でも、特に迅速に締結できた案件だという。

 

 

 

 

 

【図表1】アイティエルホールディングス経営方針

出所:アイティエルホールディングスホームページよりタナベ経営作成

 

 

買収される側の従業員に配慮したPMIが重要

 

ENCOMがITLHDの傘下に入ったタイミングで、濵﨑氏は指名した社内人材を社長に据え、自身は会長となった。6カ月の移行期間中、ITLHDとの相談を欠かさなかったこともあり、権限移譲を円滑に行うことができた。

 

佐々井氏は、買収した企業のPMI(Post Merger Integration:M&A後の経営統合プロセス)を進めるに当たって、次のポイントを重視しているという。

 

「当社は買収した企業の価値を形成する顧客資産・組織資産・人的資産を重視しています。この3つの資産を正しく評価するとともに、それぞれの課題を洗い出し、優先順位を付けて解決に取り組んでいきます。

 

まずはグループインした企業の従業員に見えている課題の解決に取り組むことが大切です。しかし、当社から解決策を押し付けるのではなく、社内の自助努力で解決していただくようにしています。その後、経営革新に向けて社内の気運が高まってきた段階で、グループシナジーの追求といった大きな変革に挑むのがITLHDのやり方です」(佐々井氏)

 

同グループの経営ポリシーは「連邦型経営」。グループ各社の文化を尊重し、経営の独立性を継続しつつ、共存共栄を図れる関係を構築していく方針だ。(【図表1】)

 

「この経営方針の下、グループ各社の自治を持って競争優位を築く一方、各社のシナジーを発揮することでグループ全体の持続的成長を目指しています。また、グループインした企業の従業員に、自主的に当グループのビジョン実現へ取り組んでもらうための環境整備も欠かせないため、独自性を尊重した経営を心掛けています。

 

M&Aが成立するとすぐにPMIを推進する企業もありますが、ケース・バイ・ケースにすべきだと思います。当社では、譲り受けた企業の経営体制をいきなり劇的に変えることはありません。従業員の方々に、引き続き安心して業務に取り組んでいただくためです」(佐々井氏)

 

 

 

1 2
見える化×DX一覧へ特集一覧へ特集一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo