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【特集】

経営をつなぐM&A

買収によって新規事業を始める際に必要となる時間を短縮できることから、「時間を買う戦略」とも言われるM&A(企業の合併・買収)。アフターコロナを見据えた経営戦略・事業戦略に基づいた、「買って終わり」「売って終わり」にしないM&A 戦略の設計メソッドを提言する。
2021.12.01

M&Aで差別化を図る:富士運輸

 

 

独自の輸送ノウハウと全国にあるネットワークを強みとして、中長距離の幹線輸送の事業を展開する富士運輸。運送事業に対する確固たる信念と圧倒的な競争力を背景に、M&Aを成長戦略の一環と位置付けている。

 

 

単独受注を貫きニーズへ的確に対応

 

奈良市内に本社を置く富士運輸は、大型トラックによる都市間の幹線輸送を専門に手掛ける運送会社である。2021年6月期の売上高は316億円に達し、グループ社数は17社を数える。日本全国に108拠点を設け、トラックの整備工場や自社用の給油所を有しているのが特長だ。また、経営戦略も同社ならではの単独受注を徹底することで、持続的な成長を可能にしている。

 

この点について代表取締役の松岡弘晃氏は、「一口に『荷物』と言っても、形の大小をはじめ、取り扱いに注意を要する精密機械、厳格な温度管理が求められる冷凍食品など種類はさまざまです。こうした荷物について責任を持って運ぶには、当社が最初から最後まで一貫して対応することが必須と考えています。他社と分担して運ぶとなると、車両や作業内容の調整が必要となり、荷主に対する責任を果たすという点で問題が多いのです。そのため、当社では仕事を複数の会社で分け合うことはせず、100%自社で対応する単独受注を貫いています」と語る。

 

こうした単独受注を可能にしているのが、全国に張り巡らせた拠点ネットワーク(【図表】)をはじめ、ドライバー数とトラック台数の充実だ。グループ総勢2700名のドライバーと2350台の車両をもって、顧客のニーズに的確に対応できるように体制を整えている。

 

顧客には大手荷主を多数含んでおり、郵便や航空貨物をはじめ、精密機械や医薬品、家具、飲料、冷凍食品など多岐にわたる荷物について、全国の幹線輸送で重要な役割を果たしている。

 

 

【図表】富士運輸の全国に張り巡らせた拠点ネットワーク

出所:富士運輸ホームページよりタナベ経営作成(2021年10月現在)
※全拠点のうち一部を抜粋

 

 

 

 

 

「健康経営優良法人2020」に認定されるなど、従業員が働きやすい環境づくりに注力している

 

 

経験に裏打ちされた独自のM&A戦略

 

富士運輸が全国にネットワークを構築できた背景には、独自のM&A戦略がある。2021年だけでも関東や北陸、近畿、九州の企業をグループに迎えた。中にはトラックの整備工場も含まれており、自社で車両の整備を手掛けることで業務の効率化と迅速化、コスト削減を促進している。これは松岡氏自身がトラックのドライバーや整備士としてのキャリアを持っていることから、運送事業における重要性を理解してのことだ。

 

「近年、当グループはM&Aに熱心な企業だと業界の関心を集めています。しかし、決してどんな企業でも傘下に収めているわけではなく、グループのビジネスモデルに即しているかどうかを厳密に査定しています。運送会社には港湾荷受けやコンビニエンスストアの配送専門といったようにさまざまな形態があり、取り扱う荷物が違えば異業種と言っても過言ではないくらいに業務のオペレーションが異なります。

 

富士運輸は幹線輸送を専門としているため、確実な都市間輸送を実現したい当社の目的に沿っていて、しかも将来に向けてシナジーを発揮することで互いに成長を目指せる企業との提携を重視しています」(松岡氏)

 

同社は、M&Aプラットフォームなどを通じて有望な企業を常に探す一方で、グループインによってシナジーが高まると判断した企業に対しては、直接アプローチをかけることも少なくない。また、「傘下に加えてほしい」と依頼してくる運送会社も増えてきたという。

 

「当社は、全国ネットワークの強みを生かして、グループ企業に仕事を安定して依頼することが可能です。また、整備や給油の拠点を利用できる点も大きなメリットと捉えられているようです。このほか、当社は商用車を製造する三菱ふそうトラック・バスのサブディーラーとしてトラックの販売も手掛けており、トラックの調達においてもグループ各社に固有の価値を提供することができます」(松岡氏)

 

安定した受注を見込めること、経営管理の面でさまざまな利点があること以外にも、富士運輸グループへの参画を希望する企業が増えている理由はある。同社は早くから基幹システムの構築を社内で進めてきた。そのため、全拠点の請求や売り上げの管理、支店や路線ごとの採算管理などを行うことができる。

 

さらには、DX(デジタルトランスフォーメーション)においても業界をリードしている。NTTドコモが提供する「かんたん位置情報サービス」を基盤技術として、富士運輸が中心となって開発したGPS(全地球測位システム)による車両位置情報管理システムを、NTTドコモが高く評価したことが、新会社ドコマップジャパンの設立につながった。同システムは「DoCoMAP」として、2017年から運送業者に向けて低価格で販売されており、普及が進んでいる。

 

こうした取り組みを地域の運送会社が1社で行うのはコストやスキルの面からも容易なことではない。時代をリードする企業姿勢が脚光を浴びる要因となっている。

 

 

 

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