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【特集】

経営をつなぐM&A

買収によって新規事業を始める際に必要となる時間を短縮できることから、「時間を買う戦略」とも言われるM&A(企業の合併・買収)。アフターコロナを見据えた経営戦略・事業戦略に基づいた、「買って終わり」「売って終わり」にしないM&A 戦略の設計メソッドを提言する。
2021.12.01

グローバル展開とトータルヘアソリューションをM&Aで実現:アデランス

 

 

 

創業時の志を実現するには、自社単独の事業展開では難しい。そう思い知らされた挫折を乗り超えて、たどり着いた選択。それは、思いを共有できるパートナー企業を友好的に買収し、高い専門性を発揮しながら、共に「世界のブランド」を創造する未来だった。

 

 

現地企業のM&Aが世界市場進出の推進力

 

1968年の創業以来、トータルヘアソリューション(総合毛髪関連)事業のリーディングカンパニーとして、多くの人々の毛髪関連の悩みを解決してきたアデランス。始まりは、東京都新宿区にある小さな雑居ビルだった。3階の一角で創業した当時から、創業者(現代表取締役会長)の根本信男氏は胸に抱き続ける思いがあったという。

 

「アデランスを、世界のブランドに」

 

半世紀あまりの歳月を経て、その志は現実になった。同社の海外売上高比率は52%を超え、世界20の国と地域に67社を展開(2021年10月現在)。その推進力となっているのが、独自のM&A戦略だ。

 

男性の薄毛対策という、創業当時の国内では未踏の事業領域でオーダーメイド・ウィッグを手掛けた同社は、テレビCM「パパ、アデランスにしてよかったね。」で認知度を高め、男性ウィッグの代名詞となる「アデランス」ブランドを確立。念願の海外進出は1979年、米国で第一歩を踏み出した。現地法人を設立してゼロからスタートを切ったが、すでにウィッグ文化が根付いた米国市場には競合他社がひしめき、独自販路の構築に苦心。店舗スタッフとの意思疎通の難しさにも直面し、撤退を余儀なくされた。

 

だが、現地のウィッグ販売大手企業・インターナショナル・ヘアグッズ(現ヘアクラブの一事業部門)を買収し、1987年に海外進出を再始動。以降も現地企業をM&Aし、米国から欧州、アジアへと市場を開拓し続けてきた。

 

「薄毛だけでなく、傷跡や円形脱毛症、乳がんなどの病気による脱毛、また生活シーンでも医療用でも、性別も世代も超えて、毛髪関連に悩む世界中の方々を笑顔にしたいという思いがありました。創業当初から世界進出を目指してきましたが、日本から自社単独で行うのは難しい。それなら、M&Aで現地の優秀企業と協力しようと考えました」

 

そう語るのは2017年3月、根本氏から経営のバトンを承継した代表取締役社長の津村佳宏氏だ。特に大きく成長している米国市場は、創業時のもう1つの志である「トータルヘアソリューション」を実現する舞台にもなっていった。その基盤を築いた転機が、2001年の毛髪移植事業で北米トップシェアを誇るボズレーと、2013年の毛髪関連サービス事業大手・ヘアクラブのM&Aだった。

 

「『トータルヘアソリューションの実現』は、創業50周年の2018年まで掲げ続けたテーマです。発毛、育毛を目的とした『スカルプシャンプー』も当社が業界でいち早く開発した商品です。ウィッグだけでなく、毛髪の全てに関わる困り事を解決していく。その姿をいま、米国でも実現しています」(津村氏)

 

 

【図表】国内外のグループ会社数

出所:アデランス提供資料よりタナベ経営作成(2021年10月現在)
※主なグループ会社を記載

 

 

 

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