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【特集】

「戦略人事」へのアプローチ

多様な働き方を実現しつつ成果を出せるか。コロナ禍をきっかけに、この命題が企業の存続を左右する経営課題となった。未来を創る人材を確保・育成する「戦略人事」とは。
2021.10.29

自社の成長段階に応じて仕組みを変える人事戦略:サイバーエージェント

 

【図表】サイバーエージェントの主な人材育成制度や仕組み

出所:サイバーエージェント提供資料よりタナベ経営が作成

 

 

環境の変化が激しいインターネット産業において、革新的なサービスを生み出し続けているサイバーエージェント。「挑戦と安心はセット」という方針を掲げて社員の能力を発掘し、権限を与えて育成しながら経営課題の解決を進めている。

 

 

優れた人材を発掘・抜てき・育成する環境づくり

 

 

自社の成長を支える独自の人材活用制度

 

1998年の設立以来、インターネット広告事業からはじまり、メディア事業・ゲーム事業などへ領域を広げながら日本のインターネット関連ビジネスをけん引し、着実に成長を遂げてきたサイバーエージェント。同社には新規事業開発と人材育成へ積極的に取り組む企業文化があり、常に新たなサービスを生み出している。

 

数多くの子会社や事業が生まれてきた背景には、創業者である藤田晋氏の強力なリーダーシップに加え、若手社員の斬新な発想や情熱がある。おう盛なベンチャー精神を育み、成長を支えてきたのが、同社の多彩な人材活用制度だ。

 

「IT・ウェブサービスの事業は大きな設備投資を必要としませんが、その分、優秀な人材が最大の経営資源になります。当社は、『人材育成と企業の成長は切っても切り離せない』と考え、適材適所で活躍できる人材育成の風土を醸成してきました」

 

人材活用に対する考え方をそう説明するのは、専務執行役員で採用戦略本部長の石田裕子氏である。

 

同社は「挑戦と安心はセット」を方針に掲げ、社員がモチベーションを高く保ちながら新しいことに挑戦。多くの決断を経験できる人材活用制度を構築してきた。

 

自己啓発研修や公開講座、eラーニングなどを導入して社員のスキル向上を支援する企業は少なくない。しかし、サイバーエージェントが他社と一線を画すのは、その仕組みの柔軟性にある。同社を取り巻く市場環境の変化のスピードは速く、それに伴って常に変化する経営課題に合わせて仕組みを変えていく必要がある。そのため、新しい制度を取り入れる一方で、成果が出ない制度は廃止するなど、常にアップデートを続けてきた。

 

現在、同社が導入している施策は、大きく分けると「ポジション」「抜てき」「課題解決」「人材発掘」「選抜育成」の5つである(【図表】)。同社オリジナルの人材活用制度は、男女問わず優秀な人材がワーク・ライフ・バランスを充実させながら、長く継続して働ける会社づくりを支えている。

 

「設立から23年が経過して従業員数は5000名を超え、有期雇用契約の社員を含めると1万人以上の大所帯になりました。組織がこれだけ大きくなると、良い人材がいても埋もれがちなので、優れた人材を発掘・抜てきし、経験を積んでもらえるような仕組みをつくっています。5つの分類は私が整理のために設けたもので、それに沿って制度や仕組みをつくっているわけではありません」(石田氏)

 

 

 

 

あした会議
年に1回開催される「あした会議」。役員が社員を約4、5名ずつ選出し、チームを編成。中長期的なサイバーエージェントの経営課題や、大型の人事、新事業・子会社の設立提案などを企画し、代表取締役の藤田氏にプレゼンテーションを行う。2020年にはコロナ禍の影響を受け、「オンラインあした会議」を開催

 

 

子会社や新事業、制度を生み出す「あした会議」

 

優秀な社員の発掘・抜てきに当たって、中心的な役割を担っているのが「あした会議」である。2006年から続く同会議は、その名が示すように「サイバーエージェントのあした(未来)をつくる」ための会議だ。

 

同社の役員が経営課題を解決するための社員を4、5名選び、役員をリーダーにチーム結成。各チーム内で課題解決案をまとめ、藤田氏にプレゼンテーションを行う。得点形式で評価され、一定以上の得点が付いた案は実行に移される。

 

子会社の設立、新事業の開始など、経営を左右する重要事項もあした会議で決議される。これまでに同会議で生まれた子会社は32社(2020年9月時点)、クラウドファンディングサービスの「Makuake(マクアケ)」、スマートフォンゲームの企画・運営・配信事業を手掛けるグループ会社・サムザップなども、同会議で生まれた。

 

「提案内容に制約はなく、経営課題を解決できる提案であれば何でも構いません。M&Aや子会社の設立などの未来の事業創出に関わることから、人材を育成するための制度や仕組みづくりまで、提案内容はバラエティーに富んでいます。

 

役員はチーム編成の際、課題分野に精通した人材や解決に欠かせない技術を持つエンジニアなど、目的に応じて人を選出します。選ばれた社員は、当事者として経営課題を解決していく貴重な機会になっています」(石田氏)

 

同会議で決議されなかった提案も、自分の所属部署でプロジェクトを立ち上げて小さく始めていくなど、主体的に職場改革や業務改善などに取り組む社員が増えたという。

 

 

経営課題の解決だけでなく
企業成長に向けた未来投資でもある人材育成

 

 

人材活用制度は事業成長に向けた未来投資

 

子会社の設立や新事業の創出以外にも、あした会議から生まれた施策は数多くある。その代表的なものが、「YMCA」という若手人材育成のための全社横断プロジェクトだ。「ヤング・マン・サイバー・エージェント」の頭文字を取ったもので、若手リーダークラスの社員で構成されるプロジェクトチームが中心となり、あした会議の若手リーダー版とも言える「YMCAあした会議」の企画など、20歳代社員のスキルの引き上げを推進している。また、同会議以外でも新しい取り組みが生まれていると石田氏は続ける。

 

「当社の企業文化の1つである積極的な人材抜てきを、さらに活性化させるために生まれたのが『ポスト(役職)・チョイス(抜てき)・Do』、略してポスチョイです。この施策は、部門を超えて新しいポストをつくり、そこに人材を抜てきするというもの。当社では、これまでにも同様の施策を行ってきましたが、組織や事業規模が拡大する中、年次や経験に関係なく優秀な社員の能力をさらに引き出すべくポスチョイを導入しています」(石田氏)

 

2020年10月には、同社が発表した新執行役員体制より「次世代抜てき枠」として若手社員を役員に登用している。また、2003年以降、入社して数年以内の若手社員を子会社の社長に登用する「新卒社長」の抜てき事例も増えてきた。これまで60名に及ぶ新卒社長を輩出し、現在の子会社数は100社を超えている。

 

だが、新しい子会社や新事業が全てうまくいくとは限らない。そこで、事業撤退の明確な基準を設け、収益が出ない、あるいは時流に合わなくなった事業に関しては素早く撤退する。そんな臨機応変さも同社の特長と言える。

 

「子会社を託され、残念ながら失敗するケースもあります。ただ、当社では失敗を責めることはありません。失敗で得た教訓や体験を次の機会に生かす。それも成長の在り方の1つです」(石田氏)

 

サイバーエージェントの考える人材育成は、経営課題の解決を果たす施策であり、企業成長に向けた未来投資でもある。

 

 

 

サイバーエージェント 専務執行役員 採用戦略本部長 石田 裕子氏

 

 

Column

組織の一体感を生む、経営陣と社員の「会話」

「人材こそ最大の経営資源」と明言するサイバーエージェント。同社が掲げる人材採用方針も、シンプルかつ明快だ。

 

「採用基準は、素直で良い人かどうかです。素直な人は、他人の意見に耳が傾けられるので成長しやすい。また、一緒に働きたくなる人という点も大切です。人間性に優れた人は、周りにも良い影響を与えて、組織を活性化してくれるからです」(石田氏)

 

そのような採用基準で仲間に迎えた社員に対し、経営理念や行動指針を丁寧に伝えることも欠かさない。例えば、社内報を通じた代表取締役および役員からのメッセージの発信や、組織スローガンが書かれた社内ポスターの掲示など、社員の目に留まる工夫を施している。

 

こうした取り組みが、経営陣と社員の目線を合わせ、一体感あふれる経営の実現につながっている。経営陣と社員がさまざまな仕組みを通して「会話」することで、「会社が何を目指しているのか」という目的や目標を共有しているのだ。

 

 

 

PROFILE

  • (株)サイバーエージェント
  • 所在地:東京都渋谷区宇田川町40-1 Abema Towers
  • 設立:1998年
  • 代表者:代表取締役 藤田 晋
  • 売上高:4785億6600万円(連結、2020年9月期)
  • 従業員数:5344名(連結、2020年9月現在)

 

 

 

 

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