クリエーティブを生み出すデザインリテラシー
温泉道場
2021年7月号

事業再生を成し遂げる原動力の1つが、全社組織にデザインリテラシーを育むデザイン経営だ。デザインを大事にするカルチャーや組織的なデザイン経営の推進が他社との明確な差別化につながっている(左)。温泉道場 代表取締役社長執行役員兼グループCEO 山﨑 寿樹氏(右)
創業時から事業再生に取り組んで10年、想定外の価値や魅力に気付かされることも多かったと山﨑氏は振り返る。
「仮説をすぐに修正し、こだわり過ぎないことも重要です。コンセプトは育てていくものですし、正解は時代の変化とともに変わるもの。ブランディングにおいても、ゴールはありません。常に新たな目標を明確に定めていく必要があります」(山﨑氏)
評価のものさしが絶えず変化するからこそ、価値の伝え方にも工夫を凝らしている。SNSやメディアでの公式な店舗情報の発信に加え、社員が個々で発信することも奨励する。統一感を重視するブランディング戦略とは対極に位置する取り組みに見えるが、決してそうではない。
「公式に発信するきれいな情報は、商業色が強くなってユーザーに伝わりにくいのです。最低限の決まりごとだけ守れば、それ以上は統制せず、適度な素人感で発信してもらうことで、店の支配人やスタッフの顔が見えるようになります。そこから複合的なつながりが生まれ、ニーズもしっかりと拾い上げることもできます。支配人のファンクラブのようなコミュニティーが生まれた店も登場しています」(山﨑氏)
自らの言葉で発信することがブランディングを深く考える体験になり、画一化したサービスにならず、社員の成長にもつながる。
地元・埼玉県内ではブランドの認知度も年々高まっている。如実に表れているのが採用活動だ。ローカルベンチャーであっても採用に困ることはなく、温泉道場のミッションと価値観に共感する人が続々と入社している。山﨑氏の講演会でも、「おふろcafé に行ったことがある」という聴衆が大多数を占めるようになった。
同社は今後も取り組みを広げていく。2020年には飯能信用金庫と地域活性化の包括連携協定を締結。2021年3月にはサバの陸上養殖事業への参入を決め、「おふろcafé 白寿の湯」に生け簀を設けて稚魚を育成し、海のない埼玉県で新鮮なサバが味わえる文化の醸成を目指す。
「目標店舗数100店舗や売上高100億円といった数値的な目標よりも、『当社にしかできないこと』を大事にしています。面白い仕事がないなら、創り出して雇用を生む。後継ぎがいないなら、事業を承継しリーダーを育てる。いまあるリソースを最大化しながら人材を輩出することが最上位のミッションです。今後も、温浴事業にとどまらず、地域ならではの課題を解決する仕事や事業を幅広く手掛けていきます」(山﨑氏)
PROFILE
- (株)温泉道場
- 所在所在地:埼玉県比企郡ときがわ町玉川3700
- 設立:2011年
- 代表者:代表取締役社長執行役員兼グループCEO 山﨑 寿樹
- 従業員数:354名(連結、2021年5月現在)