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プラットフォーム型ホールディングス

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2021.07.01

高級酒市場への参入で新たなファン層を獲得:酔鯨酒造

 

 

高知県高知市に本社を置く酒蔵・酔鯨酒造の評価が国内外で高まっている。きっかけは、2017年に挑戦した高級酒市場への参入。商品ラインアップの拡充によって、日本酒ファンの拡大を目指す。

 

新たなファン層を獲得するハイエンドコレクション

 

料理を引き立てるすっきりとした飲み口で、地酒愛好家からの人気が高い「酔鯨」。製造元である酔鯨酒造は2017年、新たな挑戦として高級酒市場への参入を果たした。そのフラッグシップブランドとして投入されたのが、「酔鯨 純米大吟醸DAITO(ダイト)」(2万2000円、税込み)だ。

 

DAITOが目指したのは、同社が掲げる「食文化を豊かにするプレミアムな日本酒」を表現する最高級酒。そのコンセプト通り、原料米には山田錦の中でも希少とされる兵庫県加東市東条特A地区産のものを使用している。これを30%まで精米し、2種類の酵母を使って発酵させる独自製法によって、大吟醸ならではの華やかな香りとキレの良い飲み味を実現した。

 

2018年には、世界で最も影響力を持つ品評会として知られる「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)2018」の日本酒部門(純米大吟醸の部)において最高位の金賞を受賞。高い品質と高級ワインを思わせる洗練されたパッケージデザインも相まって、日本酒好きはもちろん、フレンチやイタリアンと合わせる食中酒として新たなファン層を広げている。

 

新ブランド構築に当たって陣頭指揮を執ったのが、2016年に代表取締役へ就任した大倉広邦氏だ。創業者・窪添竜温氏の孫に当たる大倉氏は、学生時代から地酒・ワイン専門店でアルバイトにいそしみ、卒業後は大手ビール会社に11年間勤務するなど、酒業界一筋でキャリアを積んできた。

 

そうした経験から、「高級すし店で白ワインを楽しむ人が増えているように、酔鯨もフレンチやイタリアンと一緒に楽しんでほしい」と大倉氏は話す。日本酒業界の常識にとらわれない発想こそ、経営を成功に導く重要な要素と言えるだろう。

 

DAITOの発売以降、同社は酔鯨ならではのすっきりとした飲み口を残しつつ、厳選した原料米と同社の技術の粋を集めて醸す5種類の純米大吟醸を「HIGH END COLLECTION(ハイエンドコレクション)」としてブランド化。料理やシーンに合った一品を選べるラインアップを取りそろえ、さらなるファン拡大を目指している。

 

酔鯨酒造 代表取締役 大倉 広邦氏(左)。ハイエンドコレクションの1つ、「酔鯨 純米大吟醸 万(Mann)」は、最高級の酒米・山田錦を酔鯨酒造の醸造技術で醸したフラッグシップ商品だ(右)

 

 

消費者との接点を増やし日本酒需要の拡大につなげる

 

ここまでの流れを見ると、地方の酒蔵が高級化にかじを切ったように映る。だが、同社のリブランディングの本質は、「もっとたくさんの人に酔鯨を飲んでもらいたい」(大倉氏)という純粋な動機にある。高級化は、その1つの手段に過ぎない。

 

「ブランディングの教科書には『ターゲットを絞る』と書いてありますが、当社は特別な日に楽しむ高級酒も、近所のスーパーマーケットなどで手に入る食卓酒も、同じように大切にしています。あえて両方を持つことで、日本酒ファンを幅広く増やしていきたいと考えているからです」(大倉氏)

 

「ブランド化=高級化」と捉えられがちだが、ブランドの起源は放牧されたウシ(家畜)の所有者を判別するために付ける焼き印「brandr(ブランドル)」と言われている。もともと酔鯨は、大量生産された普通酒が全盛だった1969年に、創業者が「差別化の時代の到来」を予見して開発した商品であり、1980年代には全国の地酒専門店に並ぶなど、ブランドとしての知名度も高まっていた。しかし、2000年代以降、値引きによる販売量重視の戦略に傾いた結果、量販店の店頭に並ぶ大量の商品に埋もれてしまい、輝きを失っていた。

 

「2013年に当社へ戻ったとき、一生懸命に酒造りをしているのに、会社として目指す方向を見失っているという印象を受けました。良いお酒を造っているのに評価が低い状況を見て、非常にもったいないと感じました」(大倉氏)

 

 

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