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【特集】

地域創生ウェルネス

超高齢社会の進行による医療費の高騰、医療・介護リソースのひっ迫、医療制度改革、デジタル技術の進化、コロナ禍に伴う行動変容などを背景に、ヘルスケアやウェルネス分野の現場の課題が複雑化している。新規事業や既存顧客の深掘りで多角化を図る企業の成長戦略に学ぶ。
2021.06.01

健康経営®で労働生産性44%向上:勤次郎

 

 

※健康経営®…NPO法人健康経営研究会の登録商標

 

 

勤次郎の社内における健康経営の取り組み

1年目は健康診断や制度を見直し、2~4年目はさらに踏み込んだ取り組みを実施

 

 

 

取り組みの成果

4年連続で「ホワイト500」に認定、2021年には「健康経営銘柄」に選定

 

 

生産性や利益・企業価値の向上へ導く「HRM(人的資源管理)」と、健康データを生かす独自の「ヘルス×ライフ」サービスの基盤となるシステムを自社で使用し、成功ノウハウをサービスに応用。「健康と経営の未来予測」の実現を目指す取り組みに迫る。

 

 

自社開発アプリを活用した健康経営

 

投資家にとって収益性の指標になる「健康経営銘柄※」。2021年は日本で48社しか選定されなかったが、そのうちの1社として勤次郎は選ばれた。2020年10月に東証マザーズへ上場した後すぐの出来事だった。

 

「疲れ切った体で仕事をしても価値ある製品は生まれません。社員が健康で明るく元気に仕事ができる環境づくりを進めることで、単なるシステム会社から、お客さまに使いたいと思っていただけるようなクラウドソリューションを提供するサービス企業へと成長を遂げました」

 

そう笑顔で語るのは勤次郎の代表取締役執行役員社長である加村稔氏だ。就業・人事・給与など、労務管理の統合ソリューションを提供する主力製品の総合ERPパッケージ「勤次郎Enterprise」は、人的資源を最大化し、企業価値を向上するHRMの実現をサポート。導入企業が5100社を超える高いブランド力があるため、2021年3月、社名を日通システムから勤次郎へ改称した。

 

「名古屋大学医学部の先生から、『健康診断やストレスチェックのデータが有効活用されていない。企業には宝の山が眠っている』と教わって、『これだ!』と思いました」(加村氏)

 

2015年にストレスチェックが義務化されてから、社員のチェックの結果が悪く高ストレスの状態だと生産性が落ちると、身をもって経験している企業は少なくない。労務管理の「働き方」、体と心の健康を管理する「健康診断」「ストレスチェック」。3つのデータをマッシュアップする「働き方改革&健康経営」の取り組みが、企業価値と生産性の向上につながる――。

 

そうヒントを得た加村氏は、自社の強みである「システムの力」を駆使し、健康管理ソリューション「ヘルス×ライフ」を開発。勤次郎Enterpriseと両輪で健康経営の先進事例をつくるファーストターゲットに自社を選び、2016年「健康宣言」を果たした。

 

推進活動のキックオフ後、次年度から4年連続で「健康経営優良法人ホワイト500」(経済産業省)に認定され、新たな証しとして先述した健康経営銘柄に選定された。その間、労働生産性は2年目に16%、3年目は44%向上し、直近2年間のCAGR(年平均成長率)も42%と持続。社員一人当たりの医療費が2019年度は約17%減少(2016年度対比)と成果を上げている。

 

「結果として企業イメージが向上し、採用活動への好影響や融資を受けやすいというメリットが生まれました。社内の活動を、労務と健康管理の統合データサービスの基盤となる『HRM&HLプラットフォーム』構築に生かし、社外への健康投資の提案が着実に進展しています。何より、社員一人一人が前向きに健康を考え、健康増進へ取り組むようになって、上場を果たす大きな力につながったと実感しています」(加村氏)

 

 

※経済産業省と東京証券取引所が「従業員等の健康管理を経営的な視点から戦略的に実践することが、組織の活性化をもたらし、業績や企業価値、株価の向上につながる」として、「健康経営」の優秀企業から選定

 

 

 

トップが率先垂範して取り組みを推進

 

健康アプリを活用した健康投資が実を結んでいる勤次郎。データとツールを宝の持ち腐れにせず、社員の前向きな「健康アクション」が生まれる理由はトップダウンによる推進だ。

 

「率先して健康宣言をした私が、健康増進の最高責任者を務めています。登山やテニスなど、社内のクラブ活動を活性化する旗を先頭に立って振り、健康増進の取り組みを推進しています」(加村氏)

 

運営体制として加村氏と役員、産業医と保健師、社員代表2名で構成する「衛生委員会」を組織。管理部が事務局となって、少人数で工数をかけずに施策立案・運営し、コロナ禍による経営環境の変化へも柔軟に対応してきた。根底にあるのは「特別な何か」をするのではなく、「今ある日常」をより良く変えていく視点だ。

 

社員は毎年、健康診断やメンタルヘルスチェックなどの自己データを基に「BMIの数値をランニングで下げる」「家飲みの頻度を減らす」など、一人一人が自分に合う健康目標を決める。押し付けでは実効性のあるアクションが続かないからである。希望者にはウエアラブル端末を貸与したり、改善成果を数値化して表彰する「健康ポイント」制度を導入したりして、健康増進に取り組むきっかけづくりに注力してきた。

 

「健康や生活習慣の改善は、自律の努力なくしては難しいもの。その努力を見える化し、サポートすることが重要です」。そう語る加村氏はウエアラブル端末で日々、「1日1万歩」の達成を目標に掲げる。

 

また、創業時から続くクラブ活動費の補助に加えて、新たに半年間で5000円(1人当たり)のコミュニケーション活動費を支給。職場の活性化が目的で、できれば健康増進につながる内容が好ましいが、自由度は高い。例えば、食事会なら「4駅分歩いて目的地へ向かう」とし、社員は健康へのひと工夫を凝らす。

 

プライベートはクラブ活動、仕事は職場内のコミュニケーション活動が両輪となって、社員が互いを健康増進へ誘導し、「みんなでつくる健康」につながっている。コロナ禍で両輪とも活動は停滞を余儀なくされたが、社員の提案で免疫力を高めるドリンクが配布されるなど、ヘルスリテラシーの向上に停滞はない。

 

衛生委員会のメンバーで健康指導を担う産業医や保健師も、変化を感じている。例えば、健康データが良好で再検査の必要がない若い世代から、気になる数値の相談があるといった変化だ。数値が悪くなる前に生活を改善しようと、社員の健康に対する意識が高まっていると言えよう。

 

また、自社開発のシステム「ケリーオンラインサービス」によって、社員は臨床医・産業医・保健師と遠隔で面談ができる。社員の誰もが気軽に、しかも就業時間内に利用でき、最近では不健康予備軍へ利用が拡大している。

 

システム化によってデータ集計などの業務負荷が増えず、施策の立案や結果分析に専念できるメリットは大きい。管理本部では社員発の業務改善プロジェクトにより、残業を減らす活動が始まっている。

 

 

健康状態の「未来予測」機能を開発中

 

2021年春から、禁煙外来の補助に加え、外部クリニックと提携して遠隔診療を開始し、治療を受けやすい環境を整えた。

 

同社の取り組みは、データの分析・活用により、さらに進化を遂げようとしている。AIによる未来予測機能を開発し、直近2年間の健康データに基づいて利用者の未来の健康状態を予測するデータの提供を始めるのだ。「もっと歩きましょう」といったアドバイスが自動化され、健康指導に当たる自社の産業医や保健師の負担を軽減することが目的である。

 

また、社員一人一人の健康の未来予測によって、理論上の「企業経営の未来像」の見える化が可能となる。再検査を放置する社員が多いまま、生産性を下げ続けるのか。適切な対策で反転させ、成長の推進力とするのか。体調不良によるアブセンティーイズム(休んだ日数)やプレゼンティーイズム(能力を100%発揮できないロス)など、損失コストのデータは、経営者の心に刺さる指標だ。

 

健康経営の推進を体現する同社は、今後、どのような企業を目指すのだろうか。

 

「5カ年計画で売上高と経常利益の高い目標を社員に宣言しています。それは『働き方改革&健康経営』の推進で生産性を高め、社員一人一人がもっといきいきと働ける職場や会社になることで実現できます。さらに、培った健康経営を推進するスキル、ノウハウ、アイデアを磨いてサービスメニュー化し、企業のハイバリューマネジメントを支援する。そんな、『日本を健康にするナンバーワン企業』になっていきたいです」(加村氏)

 

 

勤次郎 代表取締役執行役員社長 加村 稔氏

 

 

Column

全てのライフステージに笑顔を

「一人一人の顔を見て、しっかりと目標を設定するように働き掛けています。企業理念も健康経営の取り組みも、折に触れて社員へ伝え続けることが大事です」

 

そう語る加村氏は、全ての社内研修に顔を出し、社員と対話の機会を持つようにしているという。そこではリアルな経営状況とともに健康宣言の真意を伝え、全員から質問を受ける。

 

「真面目な話だけでなく、時にはプライベートな質問にも答え、リラックスしながらコミュニケーションを取るようにしています」(加村氏)

 

健康経営に関係する研修としては、部課長以上の役職者へは「部下との接し方」などのラインケア、若手社員には「自分のメンタルをコントロールするセルフケア」などをテーマにしたプログラムを実施。講師は自社の保健師が務める。

 

トップをより身近な存在に感じつつヘルスリテラシーを育み、高めることで着実に成果へつなげてきた同社は、「みんなの健康な笑顔が見える企業」へ確かな一歩を踏み出した。

 

 

PROFILE

  • 勤次郎(株)
  • 所在地:東京都千代田区外神田4-14-1 秋葉原UDXビル北8F
  • 設立:1981年
  • 代表者:代表取締役執行役員社長 加村 稔
  • 売上高:34億3200万円(2020年12月期)
  • 従業員数:268名(2020年12月現在)
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