成功のキーワードは「喜んでもらえる出口」
いろどり
2021年5月号
もともと、料理人が自ら山などで採取していたつまもの。市場すらなかった葉っぱを、見事にビジネスとして軌道に乗せた理由は、徹底した現場主義が生み出す高い商品力、ITを活用した協力農家との情報共有、町の資源の有効活用など、いくつも挙げられる。加えてコロナ禍の今、参考にしたいのが、「喜んでもらえる」を起点にビジネスをデザインした点だ。
消費者のニーズと町の資源(豊富な樹木や働き手など)をマッチングして、実際に商品を使う顧客の声を聞きながら、喜んでもらえる商品をつくっていく。顧客が喜ぶから商品がブランド化され、さらに顧客が集まってくる。働く人も誇りを持って仕事をするから、良い商品が生まれる。この循環が渦のように広がることで、事業が成長していく。「儲ける」「売れる」よりも先に「喜んでもらう」を考える。当たり前のことだが、この順番が大事なのだ。
もう1つ、成功要因として特記したいのが行動量だ。同社のWebサイトにある「今日の横石」では、横石氏の1日のスケジュールや考えていることが日々発信されている。これを見れば、横石氏が誰と会い、何を考えているかが一目瞭然である。
中でも目を引くのが、1日に2、3時間を費やすというSNS更新。情報発信はもちろんだが、料理人や飲食店、経営者などとの交流を通した「今、何に困っているのか」「お客さまが喜ぶことは何か」など現場の情報収集を怠らない。「コロナ禍でも、自分の頭で考えること、動きを止めないことが大事」と横石氏は強調する。
「残念なのは、コロナ禍が長引く中、社会の不平不満が募り、他者に対して批判的な風潮や非寛容な空気が広がっていることです。コロナ禍で不自由な生活、環境だからこそ、『喜んでもらえる出口』がこれまで以上に求められています。経営者がそうした舞台や景色をつくれるかどうかが非常に重要になっています」(横石氏)
一度は売上高7割減という厳しい状況に陥りながら、新たな道を見つけ出したいろどり。今後の展開について、横石氏は「実は、先のことはあまり考えていません」と言う。
「当社のような小さな会社にとっては、5年先、10年先の計画を立てることよりも、目の前の変化に対応する力を養うことの方が大事だと私は思います。まずは、折々の季節や変化する景色に合わせて喜んでもらえる出口を見つけること。そして具現化すること。今はそれしか考えていません。ただ、今回のコロナ禍を乗り越えた経験や培った信頼、コミュニティーは、次の危機を乗り越える力に必ずなると思います」(横石氏)
インバウンド需要がほぼなくなった今、内需を狙う企業は多いが、従来のやり方では限られたパイを奪い合うことになりかねない。だが、消費者の行動、思いに目を向けると、新たな市場を創造できると同社は証明している。「何が売れるか」から「喜んでもらえるものは何か」へ。視点を変えると、新たな景色が見えてくるに違いない。

いろどり 代表取締役社長 横石 知二氏
(同社ホームページ掲載のブログ「今日の横石」より)
PROFILE
- (株)いろどり
- 所在地:徳島県勝浦郡上勝町大字福原字平間71-5
- 設立:1999年
- 代表者:代表取締役社長 横石 知二