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ライフスタイルカンパニー

約27兆円の市場規模を持つライフスタイルビジネス(アパレル、 ビューティー、 雑貨、 ホーム、 スポーツ・アウトドア)は、いずれもマーケット縮小が予測されている。顧客との共創によって新たな「ライフスタイル価値」を生み出す企業のビジネスモデルに迫る。
2021.04.09

子育ての悩みに寄り添う知育玩具の月額制レンタルサービス:トラーナ

 

 

 

顧客に安心・安全を届けるため、玩具の清掃や修理は全て社内で行う

 

 

その年に国内で最も活躍したサブスク企業を表彰する「日本サブスクリプションビジネス大賞」(日本サブスクリプションビジネス振興会主催)。2019年のグランプリに輝いたのが、おもちゃのサブスクを運営するトラーナだ。ビジネスの着目点や強みを探った。

 

 

月額制おもちゃレンタル「トイサブ!」

 

昨日までお気に入りだったおもちゃに、わが子が突然、興味を示さなくなった。数カ月しか使っておらず捨てるのはもったいないが、置いておく収納場所がない――。こうした悩みを解決する、おもちゃのサブスクリプションサービスがある。トラーナが提供する「トイサブ!」だ。

 

料金プランは全国一律、送料込みで月額3674円(税込)。0~6歳児を対象に、子どもの月齢に合わせた知育玩具やおもちゃを隔月で届けるレンタルサービスである。2015年11月のサービス開始直後は苦戦したものの、着実にユーザーを増やし、2021年2月現在で8000ユーザーを超えた。

 

「私は4人の子どもを持つ父親なのですが、子どもが生まれたとき、どんなおもちゃを与えればいいのかが、まったく分かりませんでした。また、キャラクターライセンスのおもちゃが多いことにも違和感がありました。

 

私が選んで買ったおもちゃを子どもが気に入るとは限りません。また、月齢に応じたおもちゃを買っては捨てるという繰り返しは、経済的にもったいないし、資源という観点からは環境に負荷を掛けることになります。そこで思い付いたのが、おもちゃのレンタルというサービスでした」

 

そう語るのはトラーナのCEOで創業者でもある志田典道氏だ。サービスを開始した2015年当時、日本ではサブスクというビジネスモデルはまだあまり認知されていなかったが、志田氏は米国のサブスクモデルを参考に「月額制おもちゃレンタルサービス」を立ち上げた。

 

最初から順調だったわけではない。おもちゃを仕入れるために玩具メーカーや卸売会社を訪ねても、「レンタルでは数が売れない」と取り合ってもらえず、小売店で調達するほかなかったという。だが、2016年以降に「民泊」が知られるようになり、シェアリングエコノミーやサブスクといった概念が日本にも広まるとともに風向きが変わった。また、高品質なおもちゃ作りを続けているものの、少子化により販路に困っている地方の老舗玩具メーカーなどとの提携も増えていった。

 

 

 

各家庭にマッチした玩具をプロが厳選

 

トイサブ!で取り扱うおもちゃの種類は約1700種類。その中でよく利用されるのは約500種類という。一般的に、乳幼児のおもちゃは、1歳児までは叩いたり、触ったり、音の出るおもちゃが中心。1歳児以上になると、ぬいぐるみや人形、積み木などで遊ぶようになる。3~4歳児は数字や文字を覚え出すので、保護者と一緒に学べる知育玩具のニーズも高い。4歳児はゲームのルールを理解できるので、ボードゲームなどが楽しめる。

 

このように、乳幼児の年齢を考慮し、ユーザーの要望も聞いた上で、トラーナのプランナーが各家庭に合うおもちゃを選び、発送する。

 

「当社では、世界中のおもちゃを仕入れてレンタルしています。おもちゃを選別する基準は、安全性・耐久性・デザイン性に優れているかどうか。安全性や耐久性に加えてデザイン性を重視しているのは、子どものセンスを磨くことにも役立つという考え方からです」

 

貸し出すおもちゃを選ぶ際のポイントをそう説明するのは、チーフバイヤーの武山真紀氏だ。トイサブ!では、ユーザーから得た情報を基に6種類のおもちゃを配送する。ユーザーは2カ月に1回、新しいおもちゃと交換できる仕組みである。

 

「1日100円程度なら利用しやすいと考えて価格設定しました。また、おもちゃと一緒に評価シートというアンケート用紙を送り、お子さんがどのおもちゃで遊び、どのおもちゃを使わなかったなどをチェックしていただくとともに、次回のおもちゃへの要望ができる仕組みにしています」(志田氏)

 

これにより、子どもの年齢や好みと保護者の価値観にマッチしたおもちゃを提供できる。細やかな配慮も忘れない。例えば、ユーザーの住まいの環境を考慮し、マンションやアパートの場合は大きな音が出ないおもちゃを選んだり、郊外に住む5~6歳児向けには外で遊べる集音機や望遠鏡を組み込んだりなど、利用するシーンを想定して提供している。

 

ユーザーからは「子どもにどんなおもちゃを与えようか悩んでいた。適切なものを選んでくれて助かった」「高価な知育玩具を与えても遊ばなかったり、すぐに飽きてしまったりするので、買い続けるのは難しいと感じていた。トイサブ!に出会ってラッキーだった」「使わなくなったおもちゃの収納場所に困っていたが、レンタルなのでその心配もなく、おもちゃを捨てる必要もなく環境にやさしいのが良い」などの声が寄せられ、好評という。

 

 

社内メンテナンスで安全・安心を届ける

 

レンタルから戻ってきたおもちゃは、トラーナの社内でメンテナンスを行い、安全・安心に繰り返し使える体制を整えている。清掃には、子どもが口に運んでも危険性が低い、食品の衛生管理に使われる洗浄剤を使用。塗料やコーティング剤がはがれない材質のおもちゃは、汚れの素となる脂質を殺菌できるアルコール77%以上の消毒剤を使うなど、洗浄剤を使い分けて清潔を保つ。

 

また、修理・修繕としては、部品の取り換えや塗料・コーティング剤の塗り直し、シールの貼り替えなどを行うほか、電子玩具の場合は基板洗浄や断線の修理なども必要になる。こうした作業も全て社内で対応している。

 

「トイサブ!は、ユーザーの利便性を向上させるとともに、シェアリングエコノミーで廃棄するおもちゃを少なくしたいという考え方が根底にあるので、おもちゃを仕入れる際、耐久性だけでなく、メンテナンスや部品の取り寄せは可能かといった点も考慮します。また、現場で工夫を凝らしながら洗浄や修理のノウハウを蓄積しており、現在はサービス開始時よりも幅広いおもちゃのメンテナンスができるようになりました。

 

加えて、さまざまな人が使用するレンタル商品は、清潔さも大切です。新型コロナウイルス感染拡大以降は特に気を配り、殺菌にも万全の対応をしています」(武山氏)

 

トラーナでメンテナンスや発送作業を担っているメンバーの多くは、子育ての経験を持つ人たちである。「もし自分の子どもが使うなら」という視点から、安全面に配慮するとともに、箱を開けたら楽しそうなおもちゃが目に飛び込んでくるように梱包するなど、届いたときに子どもたちを喜ばせる工夫を施している。こうしたきめ細かいサービス提供も相まって、トイサブ!は子どもにとって「2カ月に1回の待ち遠しいプレゼント」になっているのだ。

 

 

安心して長く使えるおもちゃを独自に開発

 

トイサブ!のユーザーが多いエリアは東京・大阪・名古屋などの大都市圏である。共働きで日頃からAmazonなどのECサイトを利用している世帯が多い。

 

「2024年までに10万ユーザーを目指したいと考えています。0~6歳児の子どもがいる世帯数を約440万世帯と推計しています。そのうちの3%の方に利用していただけるようになりたい」(志田氏)

 

最近はさまざまなサブスクが登場し、サブスク自体の認知度が向上した影響で、トイサブ!のユーザーが急増しているという。国内シェアを伸ばしたら、次は日本と同じく子どもの知育教育に熱心な台湾や韓国、中国などの東アジアへの進出も視野に入れている。

 

もう1つ、同社が力を入れているのは、PB(プライベートブランド)の開発である。ユーザーの生の声から、乳幼児がより安全で楽しく遊べ、メンテナンスもしやすい玩具の開発に乗り出したのだ。

 

「当社オリジナルの『トイサブ!の木琴 小さな太陽』を開発し、2020年12月に提供を始めました。正確な音階が出る乳児用の木琴は少ないのですが、この木琴は本格的な調律を施しています。『子どもに本格的な楽器を与えたい』『子どもとともに本物の音楽を楽しみたい』という声を基に、ユーザー限定の試打会で頂いた意見も取り入れて完成させました。また、部品を交換できるように設計し、レンタルのおもちゃとしてメンテナンスをしやすく作っています」(武山氏)

 

木琴に続いて、積み木や乳児用のラトルも開発中という。木材などの再生可能な素材を使用してPBを開発している点からも、環境保全や持続可能な経済発展に資するという同社の考え方が見えてくる。

 

また、2020年12月には、既存株主からの追加投資(フォローオン投資)による総額約1億円の資金調達を発表。高機能な社内管理システム開発の加速とユーザーのサービス体験を向上するプロダクトの提供を目指し、提供価値の最大化のためにテクノロジーとデザインによるサービス価値増強を図るとしている。

 

「幸せな親子時間を増やそうぜ」を合言葉に、「親子時間の減少」「多すぎる玩具の選択肢」「廃棄おもちゃの環境負荷」という社会課題の解決を目指すトラーナは、未来を過ごす子どもたちへ、より良い社会を手渡すために歩み続ける。

 

 

トラーナ CEO 志田 典道氏

 

 

トラーナ チーフバイヤー 武山 真紀氏

 

 

Column

専門知識を持つプランナーがおもちゃを選定

トイサブ!で各世帯に提供するおもちゃを選んでいるのは、トラーナのプランナーである。全員が母親で、日本知育玩具協会の「ベビートイ・インストラクター」という資格を取得している。子どもの発達課題を理解した上で、月齢に応じてどのような玩具が適切かという知識を持ち、玩具の安全性も判断できる「おもちゃのプロ」だ。

 

プランナーは、おもちゃ返却時のアンケートを参考にし、次回届ける玩具を個別にプランニングする。ただのレンタルサービスと異なるのはそこだ。保護者が自分では選ばないような玩具とともに、「うちの子にぴったりのおもちゃはこれだったんだ!」という感動を届けることが、トラーナと顧客の継続的な関係を支えている。プランナーの「目利き」が量販店との差別化の大きな武器であり、同社のビジネスモデルの肝でもある。

 

 

PROFILE

  • (株)トラーナ
  • 所在地:東京都中野区丸山1-12-8 EFGビル7F
  • 設立:2015年
  • 代表者:CEO 志田 典道
  • 売上高:1億2000万円(2020年9月期)
  • 従業員数:95名(パート含む、2020年2月現在)
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