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【特集】

土木イノベーター

建設後50年以上が経過する道路橋は2033年に6割以上、トンネルは4割以上。「インフラ老朽化」という課題を抱える日本において、新たな技術開発や仕組みの構築で人々の生活と産業を支える「インフラ革新企業」の取り組みと、インフラ・イノベーションの在り方に迫る。
2021.01.29

地域の「リアルな今」のデータが「最適な未来」を導く:静岡県 ふじのくに i-Construction推進支援協議会

静岡どぼくらぶ
土木の仕事の意義をロゴやオリジナル曲でPR

静岡どぼくらぶのロゴマーク。ヘルメットや建設機械などに貼る「仲間」が続出。認知度は着実に上がっている

 

 

「仮想3次元静岡県」を構築・公開

 

ICT活用工事の次なるステージとして、ふじi-Con協が2019年から力を入れるのが「スマートガーデンカントリーモデル」事業だ。静岡県PCDBの3次元点群データから仮想空間「VIRTUAL SHIZUOKA」を再現。新たに、県東部・伊豆半島の地形データを航空レーザー計測による高精度3次元データとして取得し、誰でも2次利用できるように公開するオープンデータ化も推進している。

 

災害発生前の現場データに被災前後の点群データを重ね合わせれば、土砂の崩壊・堆積土量が瞬時に分かる。完工最終データだけでなく、面的に高精度な点群データを一気に集めることで、公共工事の地元説明や震災時の津波発生シミュレーションなどに広く活用できる。「創発」を促す仕組みのデザインとして2020年「グッドデザイン賞」を受賞し、「VIRTUAL JAPAN」のロールモデルとなる期待も高まる。

 

「ゲーム開発など多様なオープンイノベーションにもつながり始めています。ゲームで遊んだ子どもたちやITエンジニアなど他領域の人材が、建設業に関心を持ってくれるよう、静岡県全体で建設業をもっと面白くしていきます」(杉本氏)

 

「3K(危険・汚い・きつい)のイメージが定着し、わが子を建設業界で働かせることに難色を示す親が多く、静岡県における建設業の将来的な担い手の確保は厳しく難しい。その現実を共に解決しようと、県内の建設業界に呼び掛けて誕生したのが『静岡どぼくらぶ』。一体感を醸成してイメージアップを図り、土木が地域の未来をつくることを情報発信するプラットフォームです。土木を愛する仲間なら官民問わず参加できます」

 

そう笑顔で語る事務局の山田紘子氏は、県の建設土木行政を担う土木技術者でもある。掲げる目標は2つ。「県民の命を守り未来を創る、社会インフラの意義の周知」と「やりがいがあり誇りが持てる土木の仕事のイメージ改善」だ。

 

使用フリー素材のロゴマークで認知度アップを図りながら多彩なPR活動を展開する静岡どぼくらぶは、YouTubeに公式チャンネルを開設し、県や業界団体・企業の動画コンテンツを集約。また、キャリア教育の一環として小中高校・大学生へ土木の重要性や仕事の魅力を伝える「静岡どぼくらぶ」講座は、ドローンのデモンストレーションで地元紙・テレビでも話題になった。2019年度から新たに始めた県民参加型の「土木・建築フォトコンテスト」には、2020年度に237件の応募作品が集まった。

 

「エネルギッシュで、前のめり」と自負する山田氏に触発され、業界団体も動き出す。静岡県建設コンサルタンツ協会は、「測る仕事」の魅力を発信するため、富士山の体積を「はかる」アイデアを募集。同協会発行の「静岡県防災的公園ガイドCONPA」にロゴマークを掲載し、学校教材にも採用された。県と建設業界の二人三脚でなければ、実現しなかったことだ。

 

「県だけ、業界団体・企業だけでは難しいことも、静岡どぼくらぶならできる。県政記者クラブへの情報提供も引き受けて一元化し、発信しています」と山田氏は話す。行政の立場として心掛けているのは、公平・中立であること。PR情報が特定企業に偏らないよう、業界団体に推薦先を紹介してもらう工夫も凝らす。

 

「県民の皆さんとの接点をつくり、深め、広めるために『まずはやってみる』『今やれることは全てやる』というスタンスです。担い手づくりは長期スパンの取り組みですし、始まりが遅いほど成果が先延ばしになってしまいますから」(山田氏)

 

もちろん、「やってみる」は場当たり的ではない。年度初めに、交通基盤部で戦略広報委員会を開催。年間を通して「新規・継続・拡充」策の明確な方針を打ち出し、12の出先機関にも広報担当を配置して戦略周知を徹底する。職員が皆でアイデアを出し、相乗効果を生む環境がある。

 

「県や各市町、国の出先機関、NEXCO中日本や業界団体に、どぼくらぶの講座への協力を依頼する際、『将来の建設業の担い手のためになることを、一緒にやってくれませんか?』と呼び掛けると、喜んで協力してくださいます。『担い手確保対策は皆でやろう』という意味の合言葉なんですよ。立ち上げは静岡ですが、大きな目標として日本の建設業の担い手を増やすことにもつながれば、本当にうれしいです」(山田氏)

 

 

現場で働く人をクローズアップする動画「どぼくらぶソング篇」。再生回数は1万4000回超

 

 

PROFILE

  • 静岡県
    ふじのくにi-Construction推進支援協議会
    静岡どぼくらぶ
  • 所在地:静岡県静岡市葵区追手町9-6
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