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【特集】

見える化×DX

コロナ禍による社会環境と価値観の変容で、デジタルツール活用は全企業の最重要課題となった。対面接触を減らしつつ業務効率を上げるために、また多様な人材が活躍できるように、デジタルの力で課題を「見える化」し、生産性向上へつなげた取り組みにフォーカスする。
2020.12.28

変革を起こす「3本の矢」を放ち、「働いてよかった」を実現:熊本市医師会熊本地域医療センター

残業時間と離職率が大幅に減少

 

3本の矢による業務変革は、大きな成果をもたらした。ユニフォーム2色制導入前の2013年度、日勤の1人当たり年間平均残業時間は112.8時間、離職率20%超だった。それが19年度はそれぞれ13.5時間、9.9%と大幅に減少。離職率が全国平均以下、日勤・夜勤の始業前残業はゼロ化を実現した。

 

着実に成果が生まれた底流として「かかってよかった。紹介してよかった。働いてよかった。そんな病院をめざします。」という病院の理念の存在が大きかったと大平氏は振り返る。

 

「みんなのベクトルを合わせやすかったので、『理念を具現化しよう』と言い続けました」(大平氏)

 

ユニフォーム2色制がアメリカンフットボール、ポリバレントナースはサッカー、ウオーキングカンファレンスは陸上リレーと、チームスポーツからヒントを得た変革。次はラグビーワールドカップの「ワンチーム」へと続くところだが、さらにスケールを大きくした「ひとつ屋根の下」戦略を、2019年度から看護部目標に掲げている。

 

「時間管理と先読みの看護で、ひとつ屋根の下にいる患者さんをみんなで看る”。担当病棟だけでなく熊本地域医療センターの看護師として、みんなで『かかってよかった』と言ってもらえるように。コロナ禍の2020年度はその延長線上で、3本の矢をより強靭にする実践に取り組んでいます」と大平氏。新たに、患者や家族の立場で寄り添う看護サービスを追求する勉強会「看護の語り場」が、中村氏など看護師長を中心に始動。また、看護師主任の杉本理恵氏は主任会議のメンバーとしてウオーキングカンファレンスの標準化に挑んでいる。

 

「本当に患者さんが気掛かりで引き継いでほしいことを、コンパクトな時間でキャッチする。そんなカンファレンスを目指しています」(杉本氏)

 

3本の矢が定着するひとつ屋根の下の看護現場には「かかってよかった」「働いてよかった」と互いの心が通じ合う証しがある。勤務交代時のスタッフステーションの雰囲気が変わったのだ。

 

「声を掛けてくれる患者さんやご家族に、『勤務時間外なので』とは言えませんが、対応は受け身でした。電話はワンコールで出ないと、『冷たい病院』のように映ってしまう。そんなシーンがなくなったことが、何よりうれしいのです」(大平氏)

 

天使とは、美しい花をまき散らす者ではなく、苦悩する者のために戦う者である——。ナイチンゲールの言葉を体現するかのように、熊本地域医療センターの挑戦は今日も続く。

 

 

左から、熊本地域医療センター 看護師主任 杉本理恵氏、看護部長 大平久美氏、看護師長 中村絵美氏。2019年末に撮影(左)センター内に掲示されたユニフォーム2色制の告知ポスター。掲示することで制度に関する利用者からの理解を得られたという(右)

 

 

Column

「○○したくなる」が、変革を後押し

ユニフォーム2色制は、行動経済学の「ナッジ理論」の事例としても注目に値する。ナッジ理論とは「小さなアプローチで人に望ましい行動を取らせる仕掛け」。経済的インセンティブや罰則ではなく、自発的な行動変容を促す意思決定環境をつくり出すことだ。

 

レジ前の床に足跡のシールが貼ってあると、自然と買い物客がそこで立ち止まるように、ユニフォーム2色制も「ひと目見たら分かる」ことが行動につながり、成果へと導いている。

 

実は残業が多い理由の一つに、看護師の責任感があった。「例えば『氷枕を作って』と患者さんにお願いされたら、自分の手で届けたい。そんな風土が看護の現場にあって、引き継ぎが可能な業務でも残業をしていました」(大平氏)

 

誇り高きマインドを傷つけない。ユニフォームをみんなで選び、スキルに合わせて業務を任せ、主体性を失わせない。そんな「○○したくなる」環境は、変革が持続するナッジになったと言えるだろう。

 

 

PROFILE

  • (一社)熊本市医師会 熊本地域医療センター
  • 所在地:熊本県熊本市中央区本荘5-16-10
  • 創立:1981年
  • 代表者:院長 杉田 裕樹
  • 従業員数:410名(連結、2020年10月現在)

 

 

 

 

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