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【特集】

見える化×DX

コロナ禍による社会環境と価値観の変容で、デジタルツール活用は全企業の最重要課題となった。対面接触を減らしつつ業務効率を上げるために、また多様な人材が活躍できるように、デジタルの力で課題を「見える化」し、生産性向上へつなげた取り組みにフォーカスする。
2020.12.28

専門知識が不要なIoTプラットフォーム:Momo

Momo「Palette IoT」
約50種類の組み替えセンサー、送信用無線基板、受信用無線基板、ウェブアプリのキット。センサーと送信用無線基板を組み合わせ、必要な場所に設置するだけで、さまざまなデータを取得できる。手持ちのAndroid端末をゲートウェイ(受信機)として利用することも可能で、コストメリットが大きい。

 

 

コストや開発難度が高く導入が進まないIoTシステムを、専門知識が不要なレベルまで簡易化したMomoは、数々の受賞歴を持つIoTベンチャーだ。起業から4年で手掛けたIoTシステムは100以上。急成長の裏には内製化による一気通貫のサービス体制がある。

 

 

手軽な開発と共同事業化でIoTの可能性を広げる

 

「雪が積もった地点にピンポイントで除雪車を配備する」「最適な出荷時期を見極めて農作物を生産・販売する」「建設現場で建設機械の稼働状態を把握し下請け管理をする」――。これらは神戸市に本社を置くIoTスタートアップ・Momoが実現したソリューションの事例である。2016年の創業以降、各種工場、建築現場、農業、公共分野を中心に、さまざまなシーンで同社のIoTシステムの活用が進んでいる。

 

ライバルがひしめく業界にあって多くの企業から選ばれる最大の理由は「手軽さ」にある。従来、IoTシステムの構築には高度な知識が必要とされていたが、2018年に同社が発表したIoTプラットフォーム「Palette IoT」は専門知識が不要。同社はセンサーと送信用無線基板、受信用無線基板(ゲートウェイ)、ウェブアプリを提供する。ユーザー企業はオーダーするだけでシステムを導入できるため、管理やコミュニケーションのコストが低い。これによりエンドユーザー企業だけでなく、ユーザー企業に提供するIoTシステムを共同開発する協力企業も増え続けている。

 

センサーの種類は目的や用途に合わせて変更可能。温湿度センサーや超音波距離センサー、3軸加速センサー、焦電型赤外線人感センサー、GPS(衛星利用測位システム)など約50種の中から必要なものを選んで組み合わせるため、あらゆるジャンルのニーズに対応できる。

 

「Palette IoTの発売前は、IoTシステムをワンストップで提供している商品が世の中に見当たりませんでした。当社はIoTシステムの開発に必要な回路の設計やプログラミング、筐体、通信、データの蓄積、その見える化と解析、設置まで内製化できるので、それを1つのパッケージにし、多分野に展開できる汎用的なIoTプラットフォームを開発しました」

 

代表取締役の大津真人氏はそう話す。同社には大学院時代からプログラミングに親しんだ大津氏を筆頭に、大手機械メーカーの元技術者やカーエレクトロニクスメーカー出身のソフトウエアエンジニア、電気工学を学んだハードウエアエンジニアなど多彩な人材が在籍。これがソフトウエアからハードウエアまでの開発を一気通貫できる事業体制の鍵であり、短納期や低コストを実現する源泉となっている。

 

Palette IoTの納品実績は100件超。汎用性の高さにより、すでに幅広い業種で導入が進んでおり、その中から特定の領域に特化した新製品が次々と生まれている。

 

「ご要望に応じて開発したIoTシステムの中で、他でも使っていただけるものを製品化していきます。市場を見極めながら汎用化するかどうかを決めるのは、IoT時代ならではの製品開発方法ですね」(大津氏)

 

 

土壌や空気、日射量のデータをセンサーで取得。受信機を通じてデータベースに記録し、アプリで可視化する「Agri Palette」

 

 

「見えない」を「見える」に変える

 

実際にPalette IoTがどのように活用されているのかを、農業を例に見ていこう。例えばトマト農家の場合、土壌の養分や温度、湿度、pH(水素イオン指数)によってトマトの品質や生産量に違いが出てしまうが、そうしたデータを採取しているところはほとんどなかった。

 

「農地の状態をどう見える化するか」という課題にPalette IoTで取り組み、養分を測るECセンサー(電気伝導率計)や温湿度センサー、pHセンサーなどで集めたデータを、スマホやタブレットで確認できるようにシステムを構築。これによって、データに基づき必要なタイミングで過不足なく水や肥料などを補充できるようになった。

 

他にも、日射量が品質の鍵を握るメロン栽培では日射量を測る照度センサーを加えたり、大気中のCO2(二酸化炭素)濃度が収穫量を左右するイチゴ栽培の場合はCO2センサーを組み合わせたりする。農作物の特性に合わせてセンサーを選ぶことで、さまざまな農作物の品質や生産量を高めることが可能になる。

 

「特にセンサーの力が発揮されるのは、生産に直結している分野です。その意味で農業には深みがあります。農業振興はSociety5.0や地域振興に直結するテーマであるだけでなく、CO2排出も含めてエコロジカルな側面からも社会に貢献する分野。また農業は食の供給源の意味でも、なくなることのない産業であり、重点的に取り組んでいきたいと考えています」(大津氏)

 

農業に特化した前述のシステムは、その後2019年12月に「Agri Palette」として製品化された。クラウドに蓄積したデータをPCやスマホから確認できるだけでなく、現在は相場と連動させることで最適な栽培・出荷時期の調整にも役立つなど、農家の収益向上のための機能を拡充している。「農業は収益が上がりにくい分野と考えられがちですが、センシングしてデータを取ることで、しっかりと収益を向上させていけます」と大津氏は言う。

 

このようにMomoは、パートナー企業と業界内の課題解決にPalette IoTを用いて斬り込み、Agri Paletteのようにプロダクトとして切り出し、展開することを繰り返してきた。

 

 

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