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【特集】

ミッション経営

「道徳経済合一」。近代日本資本主義の父・渋沢栄一の経営哲学は、今なお多くの企業家のポラリス(北極星)として輝き続けている。ミッションを掲げ、より良い社会の実現に取り組む事例から、持続的経営を可能にする組織・風土づくりを学ぶ。
2020.11.30

教育研修、講師の内製化で人材力を高める:ノバレーゼ

少子高齢化や晩婚化が加速し、厳しい経営環境が続く ブライダル業界において躍進を続けるノバレーゼ。その背景には、経営理念「Rock your life」の精神が浸透した人材力がある。感動的なサービスを生み出す人材をいかに育てるのか、その秘密を探る。

 

 

 

 

感動を生み出す人材力を強みに業界をリード

 

全国60カ所にある直営店を中心に、ウエディング事業をはじめレンタルドレス事業やレストラン運営を手掛けるノバレーゼ。文化的価値の高い歴史建造物をブライダル用にリニューアルするなど、他社とは一線を画す出店戦略と革新的なサービスで業界をリードし続け、2020年には創業20周年を迎えた。

 

競争が激しいブライダル業界において、同社が支持を集める理由はいくつも挙げられる。「グッドデザイン賞」(日本デザイン振興会)や「BEST STORE OF THE YEAR」(店舗システム協会)をはじめ、多くの建築アワードを獲得する洗練されたゲストハウス、花嫁の美しさを引き出す厳選されたドレス、三ツ星シェフが監修した五感に訴える料理 ――。

 

ハイクオリティーなハード・ソフトから生み出される「記憶に残る優美なウエディング」が、多くの新郎新婦から選ばれる理由であることは間違いない。だが、同社の本当の強みは「人」にある。マニュアルを超える感動的なウエディングを生み出す人材力。これが急成長の原動力と言っても過言ではない。

 

そうした人材を輩出し続ける秘密はどこにあるのか。その鍵となるのが、「Rock your life~世の中に元気を与え続ける会社でありたい~」という経営理念の存在だ。創業時から「世の中に元気を与え続ける会社でありたい」という理念が掲げられてきたが、2008年に「Rock your life」というフレーズが加えられた。

 

この時期に経営理念を刷新した背景を、ノバレーゼ教育研修部長の渡瀬舞子氏は次のように説明する。

 

「急成長に伴って社員が増加する中、『この先も、社員が心を1つにして向き合える言葉をつくろう』と、各部門の先鋭人材を集めたプロジェクトが立ち上がりました。Rock your lifeには、『新郎新婦はもちろん、ご親族やゲストの方々、さらに出会う全ての人を感動させる、心を揺さぶる、元気を与えられる一人一人でありましょう』という思いが込められています。また、その際に『人のために生きよ。世のため人のためを本気で考えて生きよ。その先に幸福はある。』という社訓や、『本気道7カ条』(【図表1】)も策定されました」(渡瀬氏)

 

 

【図表1】本気道7カ条

 

 

 

80年以上前に建てられた迎賓館「ジェームス邸」(兵庫県神戸市)のチャペル。瀬戸内海の景色を一望できる

 

 

社員研修の内製化でマインドを醸成

 

経営理念と社訓、そして本気道7カ条。この3つがそろったことで、ノバレーゼが目指す方向性や価値観が明確になった。

 

次の課題は、経営理念をいかに浸透させるかである。同社の場合、経営理念に合う人材を採用し、研修を重ねてより深い理解・浸透を促す。さらに、経営理念を体現する環境(制度や仕組み)によって文化に落とし込んでいくという、「採用」→「教育」→「環境」のサイクルによって理念浸透を図っている。

 

採用はこのサイクルの入り口だ。「会社のメッセージをきちんと受け取れる人材を採用することが、ミッション経営においては非常に重要」と渡瀬氏は言う。入り口を間違えると、ゴールにたどり着くのは難しくなる。それを避けるために、会社説明会では経営理念の発信に多くの時間を充てるほか、応募者と接する受付には各現場で活躍するスタッフを配置するなど、企業文化を感じてもらえるような演出を心掛ける。その上で、十分な時間をかけて共通の理念・価値観を持っているかを面談で見極めていく。


次に、研修。同社では、研修プログラム、講師ともに全て社内で内製化している。その理由を渡瀬氏は次のように語る。

 

「当社の社員研修の特徴は、ビジネススキルの習得とマインドの醸成がセットになっていること。当社で活躍・定着できるマインドを醸成することが良い仕事につながると考えています。そうしたマインドは、社内講師でなければ教えられません」

 

一般的な企業研修では、経営理念や自社の歴史などに関しては社内講師が担当し、ビジネススキルについては社外講師に依頼するケースも多い。だが、同社の場合、ビジネススキルや知識の習得といった講義の中にマインドの醸成につながる仕掛けを盛り込むことで、自然と経営理念に向き合えるプログラムを構築しているのだ。

 

例えば、新入社員研修にある自社の歴史を学ぶプログラムであれば、講師は沿革について一方的に話すだけでなく、「なぜ映像演出制作会社を子会社化したのか」「なぜ会社の歴史を学ぶ必要があるのか」といったように、講義にいくつもの「なぜ」を盛り込みながら、参加者同士がディスカッションする機会をつくる。

 

そうしたプロセスは、講義型の研修と比べて時間や手間がかかる。だが、渡瀬氏は「自ら考え、仲間と話し合う中で、『お客さまにどのようなメリットがあるか』『自社がどう変化するか』といった理念に通じる気付きが生まれます」と効果を説明する。

 

同社の社員は、入社5年目までは年に数回、6年目以降も年に1回、等級別にこうした研修へ参加する。

 

 

 

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