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【特集】

ポストコロナ時代の働き方

テレワークやジョブ型雇用など、働き方や雇用が変化し始めている。ポストコロナの「真の働き方改革」とは何か。企業の持続可能性や人が働くことの意味をあらためて探る。
2020.09.30

出社率40%以下を実現、社員の働き方がハイパフォーマンス型に:デジタルホールディングス

2020年内に賃貸オフィスの3分の1を解約するというデジタルホールディングス。同社の取り組みと実践から、場所にとらわれない働き方の優れた点や課題が見えてくる。

 

 

デジタルホールディングスは企業のデジタルシフトを推進するエンジンとなるべく、四つの領域でサービスを強化・開発

 

 

2020年7月から週2日以内の出社体制

 

新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、日本でも広く普及し始めたテレワーク(リモートワーク)。コロナ禍以前からこの働き方を導入していた企業の一つが、デジタルホールディングス(旧オプトホールディング)だ。同社は2013年、ワーキングマザーなどを対象に、「リモートワーク」や「時差通勤」をいち早く制度化した。その後、2017年には対象を全社員へ広げ、多様な働き方ができる環境を整えてきた。

 

「2019年までは幅広い活用に至らず、子育てをしている女性社員が週に1、2回利用する程度でした。また、当社のリモートワークは在宅勤務に限らず、シェアオフィスの利用も可能なので、外回りをする営業担当者も状況に応じて活用していました。そうした運用レベルでしたが、コロナ禍の影響で一気に広まりました」

 

グループ執行役員グループCHROの石綿純氏は、自社のリモートワークの変遷についてそう説明する。同社では、緊急事態宣言解除後の2020年6月1日から1カ月間をトライアル期間とし、全社員を対象に、出社は週2日以内、その他はリモートワークと決定した。出社率を40%程度に抑えても業務に支障がないかを確かめるためだ。そして1カ月後、リモートワークを中心に働いた社員の声を吸い上げ、その後の働き方を検討した。

 

トライアル期間を経て社員たちが出した答えは「リモートワーク」だった。社員の約8割が週1回、もしくは全日をリモートワークにしたいと希望した。営業部門、管理部門とも業務に差し支えないとの回答だった。

 

「リモートワークで顧客対応が可能かどうか最も心配していた営業担当者も、必ずしもクライアントと直接会う必要がないと分かりました。新規のご提案は先方への訪問が必要ですが、既存のお客さまとの打ち合わせはオンラインで問題なく業務ができるという声が圧倒的でした」(石綿氏)

 

そこで、デジタルホールディングスは7月1日から「週2日以内の出社体制」を本格的にスタートし、出社率を40%程度に抑えた。この間のリモートワークへの移行は大きな混乱なく行われた。

 

「当社はデジタルシフト事業を主としているため、日頃からオンラインで仕事をする機会が多く、ITツールに慣れ親しんでいたこと。また、以前から全社員にパソコンとスマートフォンを1台ずつ貸与しており、機器を新たに購入・配布する必要がなかったことなどが、速やかにリモートワークへ移行できた要因でしょう」と石綿氏は指摘する。

 

※CHRO:最高人事責任者

 

 

 

 

社員が時間にシビアになり生産性向上

 

本格的にリモートワークを始め、生産性は下がらなかったのか。石綿氏は「リモートワークを始めた4月、5月は残業時間が増えました」と振り返る。

 

「在宅での仕事に慣れないうちは時間をどう使えばよいのか分からず、パフォーマンスが落ちたと考えられます。しかし、1、2カ月で働き方のコツがつかめたのか、6月から残業は減少しました。部署ごとに創意工夫しながらリモートワークに合った働き方をした結果、業務効率が上がったと捉えています」(石綿氏)

 

リモートワークにおいても、必要なことを当たり前に行うことが大切だという。例えば、オンラインで就業前に1日の業務内容の確認や共有、就業後には振り返りを行うことで、進捗管理とともに意見交換や上司から部下へのアドバイスを行う。こうした「ひと手間」を入れることで、対面のオフィスワークと変わらないマネジメントが可能になると石綿氏は指摘する。

 

社員が時間にシビアになったことも、生産性向上の要因の一つである。オフィスワーク時は、就業時間内に仕事が終わらなければ残業をすればよいという風潮だった。しかし、それが定時までに仕事を終わらせようという意識に変わった。

 

「スポーツに例えると、時間がかかっても9回裏まで仕事をする野球型から、90分の中で最大のパフォーマンスを発揮するサッカー型に変化させたいと考えています」(石綿氏)

 

参考になるのが、オフィスワーク時から時短で勤務しているワーキングマザーたちの働き方だ。限られた時間内で業務を的確に行うノウハウや姿勢から学ぶことで、さらに生産性を上げたいと石綿氏は話す。

 

また、思わぬ効果も上がった。リアルの会議ではあまり意見を述べなかった社員が、オンライン会議では積極的に発言するケースが多いという。同社は、カメラを切ったままオンライン会議に参加することも可能としている。自分の顔が映し出されないので、自分の意見を言いやすいのではないかと石綿氏は推測する。

 

社内への情報発信についてもリモートワークは優れている。同社では、1500名を超えるグループ全体の社員に対し、代表取締役社長グループCEOの野内敦氏が業績説明会や決算発表会をライブ配信する試みを開始した。

 

「1500名が一堂に会せるほどのオフィススペースは確保できません。ですが、リモートワークならそれぞれが自宅にいながら業績やトップの考えを聞くことが可能になります。しかも、ライブ配信で社員が経営陣に質問できる仕組みなので、経営に対する社員の意識が高くなったと感じています」(石綿氏)

 

 

健康や働く環境への配慮が必要

 

リモートワークでは社員の体調管理に不安が残る。だが、石綿氏はオフィスワークと同様、細やかな配慮を怠らなければ問題は防げると話す。

 

「すぐ隣にいないので、『顔色が良くない』『調子が悪そうだ』といった小さい変化には気付きにくいかもしれません。しかし、実は、リモートワークはオフィスワークよりも部下に声を掛けやすいのです。オフィスでは相手が忙しそうにしていると声を掛けづらいものですが、リモートワークならオンラインでの打ち合わせやチャットの際、体調について聞くことができます。かえってマネジメントをしやすいのではないでしょうか」(石綿氏)

 

リモートワークにも課題がないわけではない。まず、在宅で仕事をする場合、社員はそれぞれ働く環境が異なる。住環境や通信環境はもちろん、小さな子どもがいる家庭とそうでない家庭でも異なってくる。また、最近のマンションは、リビングを広く取り、部屋数を少なくする設計が多い。個室がないためリビングで仕事をすることになるが、そこには家族も集まるので集中しづらいというデメリットがある。

 

 

 

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