クオリティーに対する社内の意識をアップデート
サイバーエージェント
2020年9月号
「クリエイティブで勝負する」をミッションステートメントに掲げ、デザインの力を商品ブランディングから組織づくりにまで生かしているサイバーエージェント。同社の経営をデザインの視点や思考で支える「クリエイティブ統括室」の機能と実践を聞いた。

24時間放送のニュースのほか、ドラマやアニメ、スポーツなど多彩なコンテンツを配信するテレビ&ビデオエンターテインメント「ABEMA(アベマ)」のキービジュアル

リブランディング後のコーポレートグッズ。キャラクターの「アベマくん」は「Abema」の「A」がモチーフで、見れば見るほどハマっていく、つかめないニュートラルなキャラクターを目指した
インターネットを軸にさまざまな事業を展開し、2018年には設立20周年を迎えたサイバーエージェント。メディア事業(BtoC)、インターネット広告事業(BtoB)、ゲーム事業(BtoC)という三つの領域の事業シナジー(【図表】)で成長を続けている。
同社がデザイン経営へとかじを切った背景には、2010年ごろからのスマートフォンの台頭がある。PC(パソコン)向けサービスを主力としていた同社は、2011年に「スマホシフト宣言」を打ち出し、スマホアプリの制作に力を入れ始めた。そして、サービスごとにデザイナーが縦割りになっている状況を変えるため、2013年に「デザイン戦略室」を設立。クオリティーの底上げへ向け、組織的な取り組みをスタートした。
大きな転換点となったのは、同社のスマホ向けソーシャルゲーム「ガールフレンド(仮)」の大ヒットだ。ヒットの要因がデザインや技術のクオリティーにあるとの分析から、代表取締役社長の藤田晋氏は「クリエイティブ」の重要性を強く認識。2015年、デザイナーとして活躍していた佐藤洋介氏がデザイン戦略室を「クリエイティブ統括室」へ改めて室長となり、2016年には執行役員に抜てきされた。
さらに、同社は「クリエイティブで勝負する」という企業姿勢を社内外に示すため、2015年にリブランディングを実施。行動規範である「ミッションステートメント」にもその一文を加え、コーポレートロゴとコーポレートキャラクターを一新した。オリジナルコンテンツにこだわったテレビ&ビデオエンターテインメント「ABEMA(アベマ)」(2020年4月にAbemaTVから名称変更)を本開局したのもこの年だ。
「リブランディングは、もともと封筒や名刺、トートバッグなどのコーポレートグッズのクオリティーを上げたいというのが始まりでした。それには従来のロゴでは限界がある。社長の藤田も『クリエイティブ』の重要性を社内に浸透させるためにCI(コーポレートアイデンティティー)のアップデートを考えていたため、リブランディングが実現しました」
ロゴやCIの変更にも関わった佐藤氏は、当時をそう振り返る。社内で自由に使われていたロゴの使用も制限した。
「好き勝手に使うと価値が下がってしまいます。そこで細かいガイドラインを作り、使用する際はクリエイティブ統括室のチェックを通すようにした結果、クオリティーに対する意識が全社的にアップデートされました」(佐藤氏)
クリエイティブマネージャーとしてメディア事業のクリエイターをマネジメントする井上辰徳氏も、「リブランディングによって、デザイナーだけではなく他の職種も、クオリティーに対する目線が上がりました」と語る。
このリブランディングプロジェクトと「ABEMA」、定額音楽配信サービス「AWA(アワ)」の三つは、2016年度の「グッドデザイン賞」(日本デザイン振興会)を受賞。2017年には、その年に人気を集めた Google Play (グーグルプレイ)のコンテンツを紹介する「Best of 2017(日本版)」でAWAが「2017年 ベストアプリ」を受賞するなど高い評価を得た。
【図表】サイバーエージェントのビジネスモデル

出所:サイバーエージェント統合報告書「CyberAgent Way 2019」(2019年12月)よりタナベ経営が作成