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【特集】

インナーブランディング

自社の経営理念や商品価値を社内に浸透させ、従業員満足度を高めるインナーブランディングの重要性が高まっている。社員が自社のミッションを「自分事化」し、企業の「ありたい姿」に向かって力を発揮している事例から、社員の本気を引き出す仕組みをひもとく。
2020.08.18

「人間力」を高めるインナーブランディングシステムを構築:アクタ

原材料の加工から商品企画・製造・販売までを手掛ける、高級弁当の容器メーカー・アクタ。組み立て式のワンタッチ折り箱の企画・製造など、独創性の高さで業界の注目を集め続けている。同社のものづくりを支えるためのインナーブランディングへの挑戦を追った。

 

 

社員の直筆コメント付き「スマイルフォト」。社内に掲げている

 

 

伝統工芸の博多曲物が最先端の食品容器に

 

毎日見かける、弁当や総菜の容器。透明のシンプルなものから木箱風の風情があるもの、模様や絵が側面に描かれたものなど、形も大きさもさまざまだ。分業制が多い業界にあって、自社一貫体制で食品容器の製造を行うアクタの歴史は、江戸時代中期までさかのぼる。

 

日本三大八幡宮であり、福岡市民に勝運の神として親しまれている筥崎宮(福岡市東区)。この地域では、江戸時代より博多の伝統工芸品の一つ、「博多曲物」の製造が盛んに行われている。博多曲物は、アクタの代表取締役社長・柴田伊智郎氏の先祖代々の家業だった。

 

柴田氏の祖父の代、すでに鉄道が開通していた大正時代には、全国的に駅弁が流行。祖父は時代の流れに合わせ、食品を入れる木の折り箱の製造に乗り出し、全盛期には広島エリアまで卸していた。

 

「弁当は日本独自の文化。主役の料理をよりおいしく見せ、際立たせるのが容器の役割です。今でも環境に優しいスギなどの素材を使い、美しい博多曲物を作っていた先祖の精神がアクタには息づいています」

 

そう語る柴田氏が社長に就任したのは1998年。父である先代の柴田伊勢雄氏のことを「アイデアマン」と呼ぶ。

 

伊勢雄氏は1955年に柴田産業(現アクタ)を設立してプラスチック事業を立ち上げ、1963年にはいち早くPSP(発泡スチレンシート)トレー加工技術を導入。1980年代には、熱融着加工で仕切りを一体成形する容器がコンビニ弁当に採用されて広く普及し、売り上げを伸ばした。また、2002年に販売を始め、容器製造業界に新風を巻き起こした「ワン折(ワンタッチ折り箱)」は、ふち・底・ふたをパーツ別にオーダーできる組み立て式で、アクタの主力商品の一つである。

 

「残念ながら、私はアイデアマンではありません。だから、独創性を持って革新的に事業を展開していくには、多くの人の知恵が必要です。そこで考えた結果、インナーブランディングに力を入れることに決めたのです」(柴田氏)

 

 

 

 

アクタのブランドブック。経営理念やブランドアイデンティティーの浸透に役立てている

 

 

今後は設備投資ではなく人材への投資の時代

 

伊勢雄氏は、自身のアイデアを形にする設備に大きく投資配分していた。しかし、「永遠には父に頼れない」と強く思った柴田氏は、インナーブランディングに取り組み始めた。テーマは「主体性」。パート・アルバイトを含め160名の従業員を対象とした。

 

まず、部署間の垣根を取り払い、今まで接点がなかった従業員同士の交流を深めるため、「バースデー会」などを始めた。ただ食事会を開催するのではなく、予算内で皆が楽しめるイベントを企画・実施することとし、幹事を持ち回り制にした。自ら考え動く主体性を養うのが狙いだった。

 

「父の間近で経験を積んできた私は、全従業員が主体性を持って働いていると思っていました。ですが、ふたを開けてみると違っていたのです」

 

こう振り返る柴田氏は、自らが従業員とコミュニケーションを取ってこなかったことに気付き、積極的に部署別ミーティングへ参加。また年1回、全社員と一対一の面談も始めた。

 

 

ふち・底・ふたをパーツ別にカスタマイズ可能なワンタッチ折り箱「ワン折」に重ね機能を付加した「ワン折重(かさね)」

 

 

 

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