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【特集】

インナーブランディング

自社の経営理念や商品価値を社内に浸透させ、従業員満足度を高めるインナーブランディングの重要性が高まっている。社員が自社のミッションを「自分事化」し、企業の「ありたい姿」に向かって力を発揮している事例から、社員の本気を引き出す仕組みをひもとく。
2020.08.18

社員が自らの手で紡ぎ出す「未来の仕事」:石坂産業

持続可能な「エネルギー供給産業」へ

 

「リサイクル事業の価値を可視化し、地域に貢献する不可欠な事業」として共感してもらう挑戦は、ロールモデルとして業界全体に影響を与えてきた。

 

「当社が前例のないことを始めて、結果として同業他社もスタイルを変え、業界の価値を高めようとする経営者の方も増えました。われわれとしても、見学に来られる姿を見て、ここが学びの場になっていると気付きました」(石坂氏)

 

その気付きがいま、産廃ごみの山を「くぬぎの森」に再生し、体験型環境教育のフィールドとして一般開放する取り組みに結び付いている。環境保全には数千万円のコストがかかるため、非営利事業から持続可能な独立採算化への挑戦も始動した。

 

初年度は年間200人だった見学者はいま、4万7000人に達する。例年は3~5月にピークを迎えるが、新型コロナ禍で10分の1に激減。それでも、アフターコロナ時代の「新しい生活様式」やパラダイムシフトが叫ばれるほどに、石坂産業が掲げてきた使命にようやく時代が追いついてきたとも言える。働き方改革も、「働きがい改革」の名で推進。削減できた時間外労働分をインセンティブとして支給し、給与も6年連続アップが続いている。また、最上階で“最高の眺めの空間”だった社長室を社員の休憩室にするなど、社員がイキイキと長く働ける「健康経営」も重視している。

 

日本の住宅寿命は世界的に短く、リフォームや解体で排出される住宅建材の廃棄物も多くなる。しかも、耐火性や耐震性に優れた複合材には多様な化学製品や薬剤が使われ、再資源化する難易度は高まる一方だ。新技術で高機能の素材が開発される数だけ、リサイクルにも高度な処理技術が求められることになる。

 

「SDGsのゴール12『つくる責任、つかう責任』の達成に向け、積極的に発信しています。われわれの声がメーカーに届き、リサイクルが容易な建材をつくっていただき、使い手にもその製品を選んでもらえるように。『産廃屋』ではなく『エネルギー供給産業』と呼ばれる日が来る未来へとつながっています」(石坂氏)

 

 

石坂産業 専務取締役 石坂 知子氏

 

 

Column

人を生かす、石坂技塾とKIZUNA塾

「一人一人をどう生かすか、パフォーマンスを発揮するステージを創り出せるか。人を生かせず、育てられないなら、われわれ経営陣の責任です」

 

石坂氏の言葉は、人を生かすことがブランディングだと教えてくれる。その一つが「石坂技塾」だ。ベテラン社員を講師に指名し、「その人が持つ技能やノウハウの強み」の継承を目的にスタートした。自ら立候補する社員も登場し、社内の埋もれた資産に光を当て、講師は伝える力、受講生は学ぶ力を育成。将来は一般にも公開してさらに磨きをかけ、会社を代表する誇りも高めていく計画である。

 

また、同氏と代表取締役の石坂典子氏が社員とディスカッションする「KIZUNA塾」も定期的に開催。経営トップが日々思うことを可視化し、社員をきちんと見守っていることも伝え、同じ景色と未来像を分かち合うのが狙いだ。

 

「石坂産業は母性経営だねって、経営者仲間に言われます。認めてあげて、できるまで待って、子どものように社員を育てているでしょと。

 

その通りで、われわれが目指すのは自分の子どもを入れたいと思える会社づくり。親子3世代が勤めるファミリー企業の姿です」(石坂氏)

 

「180名規模の会社だからできることかも」と謙遜する石坂氏だが、むしろ「その人を生かす」を徹底できることが、中堅・中小企業の強みだ。

 

「社員さん」――。愛情を込めてそう呼ぶ石坂氏の姿に、「ISHIZAKAブランド」がにじみ出ている。

 

 

PROFILE

  • 石坂産業(株)
  • 所在地:埼玉県入間郡三芳町上富1589-2
  • 設立:1971年(創業1967年)
  • 代表者:代表取締役 石坂 典子
  • 売上高:57億9000万円(2019年8月期)
  • 従業員数:182名(2020年6月現在)
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