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【特集】

持続可能な経営

SDGs(持続可能な開発目標)の認知はかなり進んだ。しかし、CSR(社会的責任)やコミュニケーションとしての活動にとどまっている企業も多い。社会課題解決と企業利益の両方を追求するビジネスモデルを構築し他企業に「サステナブル経営」を学ぶ。
2020.06.30

「第三の金融インフラ」を目指す投資ファンド:クラウドクレジット

「第三の金融インフラ」を目指す投資ファンド:クラウドクレジット

杉山氏自ら現地に足を運び、新しいパートナー開拓、既存の取引先の定期的な視察などを行ってきた

 

資金の余る国と、足りない国をつなぐ金融ビジネスを――。高い志を持ち、グローバルに融資を求める事業者を投資ファンドで支援。経済的なリターンと社会的なリターンの両立を実現する事業に迫る。

 

 

社会的リターンを実現する投資ファンド

 

貧困や生活インフラ、教育機会などの社会的課題の解決に取り組む世界中の事業者に投資し、経済的リターンと社会的リターンの両立を実現する。そんな「社会的インパクト投資」の展開を2018年に宣言した金融ベンチャーがクラウドクレジットだ。

 

同社は日本の投資家と融資を必要とする海外の事業者をつなぐ、投資型のクラウドファンディングサービス(CF)を提供する「ソーシャルレンディング」事業を展開。2013年の設立から7年、累計販売額(貸付高)は約290億円、キャッシュフローベースで単月黒字化も達成し、出資者は2万人を超える。

 

着実な成長軌道を描く同社の宣言は注目を集めたが、それは必然の流れだったと代表取締役の杉山智行氏は振り返る。

 

創業時からやりたかったのは、利益のみの追求ではなく、金融仲介業としてお金が余る国と足りない国をつなぐビジネスです。資金の需要と供給のバランスを取り、雇用や生活が改善する社会に変えていく。そんなポジティブな流れを世界中に創り出すため、『SDGsが目指す社会課題の解決に寄与する投資ファンドづくりに本格的にコミットします』という意思表示をしました」(杉山氏)

 

思いの強さと本気度の高さが伝わる社会的インパクト投資ファンドで融資するのは、SDGsのゴール1(貧困撲滅)・5(ジェンダー平等)・7(再生可能エネルギー)・13(気候変動対策)の達成に取り組む事業者や、新興国で小口融資サービスを展開するマイクロファイナンス機関(MFI)だ。その対象エリアは中南米にアフリカ、東欧、中東、アジアと世界各地に広がり、全貸し付け案件の約14%を占めている。

 

例えば、ペルーではブドウ農家や畜産農家など小規模な農業経営を支援し、メキシコの女性起業家支援やキルギスの若年層の起業支援として現地のMFIへ融資した。また中東では、現地の建築施工・エンジニアリングサービス企業に対して、砂漠地域の通信施設・機器の電力供給をディーゼル発電から太陽光発電に転換するプロジェクトを支援。環境負荷なく安定した電気と通信利用の環境がある暮らしを実現した。

 

「数ある社会的インパクト投資ファンドの中、少しだけエコノミック寄りなのが当社の特徴ですが、正直、難しいと感じることもあります。一般的な投資ファンドよりも、融資先の返済デフォルト率が高まらないように、お客さまの貴重な資産を大切に運用しながら経済的・社会的なリターンのバランスをどう取っていくか。顧客満足度アンケート調査も参考に、進むべき方向性を探りながら決めていく余地が、まだたくさんあります」(杉山氏)

 

 

 

社会的インパクト投資

社会的インパクト投資

※社会的目標の達成度は継続的に計測する

 

 

投資先を見極め他にない商品をそろえる

 

CFやP2P(Peer to Peer)などのオンライン・プラットフォームを通じて、投資家(資金提供者)と需要者(資金調達者)を、直接マッチングするソーシャルレンディング。その新たな金融手法は「オルタナティブファイナンス」と呼ばれ、中国を筆頭に米国、英国などで市場規模が急拡大している。有力なソーシャルレンディングの融資プラットフォーマーの取引額は、1社単独で1兆円を超えるスケールである。

 

「欧米のプラットフォームは、自国に対する投資が中心で、消費者ローンと零細企業向け融資が多いですね。当社はソーシャルレンディングの仕組みを使いながら、世界中のどこでも役立つファイナンスであることを基本軸に運営しています」(杉山氏)

 

起業前に訪れたペルーの地で、事業資金の供給力が乏しい現実を目の当たりにした杉山氏は、帰国後にクラウドクレジットを立ち上げ、海外向けファンドに特化したソーシャルレンディングを開始。日本の個人投資家の資金を集めて現地の事業者に融資し、貸付金利と運用手数料を得るビジネスモデルを展開した。

 

同社の特徴は、新興国をターゲットに、ミドルステージへの飛躍を目指す中小企業を支援するところだ。約50種類の投資ファンドのクーポン(表面年利)は4~12%前後で、平均値は4.77%。数字だけ見ればハイリスク・ハイリターンに思えるが、実際はパッケージ型の分散投資で、貸し倒れになりにくいミドルリスク・ミドルリターンである。約2万人の顧客は30~40歳代が60%超を占め、1人当たり平均は70万~80万円。「高いリターンを求めるだけならエクイティー(株主資本)やネット証券の投資信託がありますし、他にない品ぞろえが、当社が選ばれている理由です」と杉山氏は話す。

 

融資先を見極め、期待するリターンの確保とデフォルトを防ぐ鍵は三つある。企業価値を精査するデューデリジェンス(商品化前の調査)、格付け会社と同レベルで確認事項を採点するスコアリング、そして融資後にも実施するモニタリングだ。その鍵を手に、杉山氏とファンド担当者は2018年、投資フォーラムなどで出会った1000件の候補のうち200件と相談。80件を審査して絞り込み、最終的に20件に融資の扉を開いた。

 

「成果を得られない案件には、共通点があります。経営者が経験のないことにトライすること。もう一つは組織的な統制がないことです。経営者の能力と企業統治、つまりマネジメント&ガバナンス(M&G)の有無と融資の成否には、とても明確な相関関係が見えます」(杉山氏)

 

表現を変えるなら、その二つを重視し見極めれば成功する可能性が高いということだ。最大の融資先である東欧のノンバンクは、経営者が代替わりしても組織的なM&Gが機能し、堅実な成長を続けている。

 

「モニタリングする当社のファンド担当とも良好な関係です。評判と評価は別物ですが、平時から私たちの依頼にきちんと対応する融資先は、経営状況の悪化など有事の際にも建設的な改善策を導き出しますね」と杉山氏は説明する。

 

 

 

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