企業やボランティアと連携し融資と互助制度で貧困からの脱却を支援する
グラミン日本
2020年7月号
「貧困のない、誰もが活き活きと生きられる社会へ」を理念に設立したグラミン銀行の日本版、グラミン日本。互助制度など独自の取り組みで、シングルマザーや若年層のワーキングプアを中心にお金と仲間、知恵を提供し、貧困からの脱却を支援している。
マイクロファイナンス機関
2006年、バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス氏とグラミン銀行がノーベル平和賞を受賞した。グラミン銀行は、1983年に貧困救済と事業収益の双方を追求するマイクロファイナンス機関として誕生。貧困層に経済的な支援、つまり「融資」で自立を支援している。融資の借り手は97%が女性で、ほとんど貸し倒れのない実績を上げており、バングラデシュでは大きな成功を収めている。
ノーベル平和賞受賞から12年たった2018年、グラミン銀行の日本版である一般社団法人グラミン日本が設立した。経済格差があり貧困層の多い国ではなく、GDP(国内総生産)世界3位の日本で設立されたことに違和感を覚える人もいるだろう。しかし、日本の貧困の実態は先進国のイメージとはかけ離れていると、グラミン日本の理事長兼CEOである百野公裕氏は指摘する。
「厚生労働省の『国民生活基礎調査』(2017年)によると、日本の相対的貧困率は15.7%と、約6人に1人が貧困層に属している計算になります。これは、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中でも上位に入る高さで、日本の格差社会が進行していることが分かります。非正規雇用のシングルマザーやワーキングプア※の多くが貧困にあえぎ、支援する制度や環境は不十分。こうした経済的弱者を支援するためにグラミン日本を設立したのです」
さらに百野氏は、経済格差によって生まれた貧困層を救済する仕組みをつくらなければ、日本経済に与える影響は深刻になると指摘する。
経済的に苦しいシングルマザーの子どもは、教育に費やす資金や時間に乏しく、貧困から脱却することが難しい。また、ブラック企業に就職し、過酷な労働環境で退職を余儀なくされ、その後、非正規雇用で働く若者は社会人としての滑り出しがうまくいかず、引きこもりになるケースは多いという。労働力不足となる一方の今後、日本経済にとってもマイナスでしかない。
こうした事態を避けるためにも、貧困からの脱却支援が急務である。日本よりも格差社会が進む米国では、グラミンアメリカが2007年に設立され、すでに多くのシングルマザーの起業を支援するなど順調に成果を上げている。
※正社員やフルタイムで働いているにもかかわらず、生活保護の水準以下しか収入が得られない就労者の社会層

左からグラミン銀行事務局長・ダーヴィッド氏、創設者・ユヌス氏、グラミン日本会長・菅氏、理事長兼CEO・百野氏