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【特集】

持続可能な経営

SDGs(持続可能な開発目標)の認知はかなり進んだ。しかし、CSR(社会的責任)やコミュニケーションとしての活動にとどまっている企業も多い。社会課題解決と企業利益の両方を追求するビジネスモデルを構築し他企業に「サステナブル経営」を学ぶ。
2020.06.30

ブロックチェーン技術の利活用で価値共有を
電通 イノベーションイニシアティブ
プロデューサー 鈴木 淳一氏


2020年7月号

 

 

宮崎県綾町のブロックチェーン実証実験

 

 

出荷されるまでの情報をブロックチェーンで記録。有機栽培に高い関心を示す人たちが多く買い求めた

 

 

フィギュアの情報を取り込みエシカルな消費行動を実践したことを証明。SDGsについての議論を深める

 

 

価格以外の判断基準でニッチ層の心をつかむ

 

では、SDGsに配慮したビジネスシーンでブロックチェーンはどのように生かせるのか。鈴木氏は、「ヨーロッパでは、マス(大衆)市場が50%、ニッチ市場が50%といわれています。日本の割合は、マス市場が90%、ニッチ市場が10%ですが、今後ニッチマーケットは拡大していくでしょう。例えば、テレビを購入する際に多くの消費者が画像の美しさや反応速度の速さなどのスペックや価格を重視する半面、『エコに廃棄できるか』『工場で違法労働をさせてないか』など、全く異なる価値に着目する消費者も確実に増えています。そういった人々にどう共感を得るかが、マスを狙わない中堅・中小企業の戦略として重要です」と解説する。

 

SDGsのビジネスモデルには共感が求められ、それを可視化するシステムこそがブロックチェーンなのである。

 

鈴木氏はブロックチェーンを用いたSDGs解決の実証実験を手掛けており、その一つが2016年に行った宮崎県綾町の農産物の事例だ。綾町は1988年に「自然生態系農業の推進に関する条例」を日本で初めて制定するなど、有機農業発祥の地として農業関係者から広く知られている地であったが、「有機農業の取り組みが価格に反映されない」という課題を抱えていた。国の規格より厳しい基準を設けても、認証制度だけでは特色を伝えきれず差別化が難しいというものだった。

 

そこで、どのような土壌で栽培された野菜なのか、いつ作付けされたなどの履歴や、環境負荷軽減に対する取り組みを個包装パッケージそれぞれに一意のURLが割り当てられたNFC(近距離無線通信)タグおよびQRコード(2次元バーコード)で読み取れるようにした。2017年に東京都心で綾町の野菜を販売したところ、有機栽培に高い関心を示す人たちが多く買い求めたという。

 

「価格を確認されることはほとんどありませんでした。盛り込まれた情報が購入の判断基準となっていたのです」(鈴木氏)

 

2018年には都内のレストランで綾町の有機野菜を用いた「エシカル消費(環境、社会、人に優しい消費)メニュー」を提供するイベントを実施。生産方法だけでなく、輸送や調理を含む環境負荷軽減の取り組みを追跡できるようにした。さらに、消費者側には精算時に「環境負荷軽減の消費行動を行っている」との証明をブロックチェーンに記録した。鈴木氏は、「消費行動が証明できれば、例えばエシカルメニューを提供するレストランで優遇を受けられるといったメリットも付与できます」とさらなる可能性について言及する。

 

 

フランスで完全無農薬の日本産ワインを売る

 

綾町のある農家は、完全無農薬かつ植物性堆肥でのブドウ育成にこだわったワイン生産に挑戦していた。鈴木氏は、土づくりから作付け、収穫、醸造、加工、輸送までの全ての情報をブロックチェーンに記録し、ワインの本場であるフランスで販売する実証実験を2019年に実施した。

 

「フランスはワインの本場である一方で、SDGsの取り組みに対して高い意識を持つ人が多く、エシカル消費の先進地でもあります。完全無農薬にこだわった1本1万円のワインが売れるのかを試みました」(鈴木氏)

 

利用者がSDGsの概念を学び、かつ心理的障壁を下げるためにSDGsの開発目標を擬人化したアニメキャラクターのフィギュアを作成。スマートフォンをかざすとアプリにフィギュアの情報を取り込めるようにした。

 

「ワインが好評だったのは言うまでもなく、さまざまなテーブルで『SDGsの3(すべての人の健康的な生活を確保)に配慮して生活している』など、盛んな議論が生まれていた。消費行動を通してコミュニティーが形成されるとともに、ブロックチェーンに記録されることで、それぞれの消費者が持つ『哲学』の可視化につながっている」と鈴木氏は話す。

 

 

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