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【特集】

持続可能な経営

SDGs(持続可能な開発目標)の認知はかなり進んだ。しかし、CSR(社会的責任)やコミュニケーションとしての活動にとどまっている企業も多い。社会課題解決と企業利益の両方を追求するビジネスモデルを構築し他企業に「サステナブル経営」を学ぶ。
2020.06.30

「水とエネルギーのプロ」:テラオライテック

スモールスタートから高収益事業へ

 

NPは2020年春、15カ年の損益計画を策定しプレアビヒア州政府に提出した。2020年度の売上高は2500万円の見通しで、今後5年間で初期投資を回収。6年目から年間売上2億円台、純利益率は90%超の高収益事業を目指す。利益の全額は寄付。上下水道のインフラ投資や養殖事業、井戸の打ち込みなどに充てる試算だ(2020年4月現在)。

 

SDGsビジネスは投資資金がネックになる。寺尾氏も手持ち資金でのスモールスタートだった。しかし、現在は地方銀行やインパクト投資機関など資金提供の協力先が増え、事業拡大に光明が差している。カンボジア政府からも、ロールモデルとして国内各地域やアジア諸国へ横展開する要請を受けているという。

 

「地域ごとに水の確保の仕方が違うので、モデルは少しずつ異なりますが、最終的なゴールはただ一つ。その地で暮らす人が、自分たちの力で水を確保し続けられることです」(寺尾氏)

 

SDGsビジネスへの挑戦は思わぬチャンスも生んだ。カンボジアの首都プノンペンに建設中の超高層ビル「Japan Trade Center」の設備工事に携わることになったのだ。カンボジアの大規模複合施設を日系企業で初めて開発する大手建設会社の経営者から、白羽の矢が立った。

 

「当社がNPでやろうとしていることに共感いただき、『ぜひ仕事を任せたい』と話がありました。その方も、カンボジア企業との協同プロジェクトで日本の建築技術を伝えたいとの思いを持っていたからでしょうね」(寺尾氏)

 

事業パートナー選びの際、SDGsビジネスが目に見える物差しになるということだ。

 

寺尾氏はさらに現地法人で20歳代のカンボジア人2名を雇用し、日本で設備工事の技術・現場管理の研修を実施。将来、現地法人のリーダーとしてNPやカンボジア国内の施工管理を担う人材となるよう育成している。今後は、日本人を対象にテラオ式モデルを推進する担い手の養成講座も本社で開講する予定だ。

 

「経営のノウハウと社会課題への考え方を徹底的にたたき込み、のれん分けのようにアジア各国での起業をバックアップできれば、と。ものすごく夢のある話ですし、実現可能な夢なんですよ」(寺尾氏)

 

「未来を予測する最善の方法は、それを発明することである」(米国の科学者アラン・C・ケイ)。この至言は、SDGsビジネスに最もふさわしい、未来志向のメルクマール(指標)と言えるだろう。

 

 

※社会的課題の解決に取り組む企業や領域に投資し、経済的なリターンと社会的なリターンの両立を目指す投資

 

 

 

テラオライテック
代表取締役会長 寺尾 忍氏

 

 

 

Column

地域社会を未来につなぐ主役に

「一つ成功したから次も、では遅い。アジア各地に貢献できるビジネスを同時多発的に進めていくつもりです」(寺尾氏)

 

「地域社会への貢献」を経営理念に掲げる企業は多い。テラオライテックもその一つだが、寺尾氏は社長就任後、理念が具体的に目に見える事業を展開。設備工事事業に加え、介護施設の福祉事業、リフォームやアパレル販売のライフスタイル事業、学習塾など、「衣食住学」で多面的に地域貢献のビジネスフィールドを広げてきた。

 

「福井県は3世帯の同居率が日本一高く、家庭や地域の良い環境が子どもの学力を押し上げ、防災にも貢献しています。リフォームで3世帯同居を支え、核家族化の課題を解決できればとビジョンを描いています」(寺尾氏)

 

会社も社員一人一人も、地域の良い文化を未来につなぐ主役になる。2018年、「地域未来牽引企業」(経済産業省)に選定されたその姿は、SDGsビジネスそのものと言える。

 

 

 

 

PROFILE

  • テラオライテック(株)
  • 所在地:福井県越前市本保町第8-5-1
  • 創業:1966年
  • 代表者:代表取締役社長 寺尾 剛
  • 売上高:12億6000万円(2019年6月期)
  • 従業員数:35名(2019年6月現在)

 

 

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