経理の足腰を鍛え、企業の行く先を示す財務トップの責任と醍醐味
元花王 執行役員 会計財務部門統括
アンリツ 取締役
青木 和義 氏
2020年6月号
【図表1】花王の会計財務部門の取り組み年表

出所:青木和義氏作成資料を基にタナベ経営が加工・作成
※1…ビジネスプロセスアウトソーシング
※2…花王独自の全社業務革新活動
財務こそ革新的であるべき――。
29期連続増配という株主還元優等生、花王の経理責任者を務め、数々の革新を起こしてきた青木氏に財務トップの果たすべき役割を聞いた。
「花王は伝統的に『絶えざる革新』という言葉を掲げてきました。商品の開発や生産技術はもちろんのこと、財務においても同様です。常に新しい手法を取り入れ、作業の合理化・効率化を目指し、自分たちで消化した上で、さらに次の取り組みに挑戦する。そうやって会社の羅針盤となるデータをブラッシュアップさせつつ、提供してきたのです」
そう語るのは、花王で長く経理責任者を務め、2019年よりアンリツの社外取締役を務めている青木和義氏である。花王の企業理念の一つである絶えざる革新とは、「消費者の暮らしや事業環境の変化を感じ取りながら、現状に甘んじず、困難さえも自己革新のチャンスと捉え、常に商品と仕事の改善を推進する」というもの。この企業姿勢で、上場企業の中でも指折りの「株主還元優等生」といわれる花王の会計財務部門を率い、革新を続けてきた一人が青木氏だ。
花王の財務部門は1983年に「ノン伝票化」をスタートさせ、85年には手形・小切手を廃止。その間、青木氏は、工場などをはじめとする「現場」で数々の改革に携わった。
その後、2007年に会計財務部門管理部長になると、09年には経理業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)化をサポートした。11年には、海外も含めたグループ会社全体の効率的な資金管理を図るGCM(グローバル・キャッシュ・マネジメント)を導入。当初のネッティング※1やプーリング※2機能から、ペイメント・ファクトリー※3、サプライヤー・ファイナンス※4機能を加えた体制へと進化させた。2012年に執行役員会計財務部門統括に就任した後、2016年にはIFRS(国際会計基準)も導入している(【図表1】)。
常に一歩先を行く業務プロセスの革新に取り組む中で、1999年、花王が経営の主要指標として据えたのが、EVA(Economic Value Added:経済的付加価値)だ(【図表2】)。
EVAは税引後営業利益から資本コストを差し引いて算出される。資本コストとは、有利子負債や資本(純資産)に対するコストで、それを差し引いたEVAは真の利益を表す。企業の使命が企業価値の向上であるならば、EVAは、その企業価値を数値化したものである。言い換えるならば、企業がどれだけ付加価値を創出しているかを表す。そのEVAと投資家の期待値(株価)とを結び付けるのもEVA理論である。
※1…企業間などで取引のたびに決済を行わず、一定の期日に債券と債務をまとめて相殺し、差額分だけを決済すること
※2…グループ会社の余剰資金を集約する仕組み
※3…グループ内の支払業務を集中管理する仕組み
※4…サプライヤーの請求書を金融機関が買い取り、企業が期日前に現金を受け取れる仕組み
【図表2】EVAの仕組み

※1…Economic Value Added(経済的付加価値)。Stern Stewart & Co.の登録商標
※2…Net Operating Profit After Tax