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【特集】

現場の自動化

これまで機械を使った自動化と言えば、工場の生産ラインが中心だった。しかし、いまや建築現場、医療現場、物流現場など、さまざまな現場・職場で自動化が進められている。人の仕事の質をさらに高めてくれる自動化技術を追う。
2020.04.30

警備や清掃を行うハイブリッド型ロボット:ミラロボティクス

 

 

ロボットは現場で警備し、人間はセンターで管理する

 

では、具体的に警備ロボットのugoはどのような“業務”を担うことができるのだろうか。

 

巡回警備では、人に代わって巡回するために施設内の地図を覚える。暗い環境を備え付けのライトで照らし、エレベーターのボタンも認識。エレベーターとはシステムで連携するのではなく、人間と同様にボタンを押してエレベーターを呼んで、移動(昇降)や乗り降りもボタン操作で対応して違う階へ移動する。装備されたカメラで周辺360度を見渡せるため死角がない。物が落ちていればアームで拾い上げることもできるし、ドアの施錠は直接触れて確認できる。

 

「監視カメラだと施設内に数多くのカメラを設置し、それらをネットワークしなければならないのでコストがかかります。加えて、不審者がいても追尾することはできません。一方、ロボットなら1台で施設内を巡回でき、不審者の追尾も可能なので、コストと安全面ともに優れています」(松井氏)

 

立哨警備では、施設の出入り口にugoを配置する。備え付けられたカメラの映像は、施設全体の警備を管理する防災センターに送信され、モニターで一斉管理される。立哨警備をしていると目的地への行き方を尋ねられることも多いが、そんな時はugoに搭載されたマイクとスピーカーを通して防災センターに常駐する警備員が対応に当たる。

 

「施設の重要な出入り口全てに警備員を配置するには、それだけ多くの警備員を雇用しなければなりませんが、代わりにugoを配置すれば、防災センターの警備員だけで遠隔操作や対応が可能です。少ない警備員で施設のセキュリティーを守れるので、コスト面でも大きな成果が期待できます」(松井氏)

 

ugoにはAIが搭載されているため、遠隔作業を学習し自律的に作業できることが増えていくという。人とロボットが役割を分担し、必要に応じて連携するハイブリッド型ロボットとして活用する予定である。

 

ugoはまず警備ロボットとして社会に登場する予定だが、そこで一定の成果を上げた後は清掃用ロボットとしての活躍が期待されている。自動清掃機器で思い浮かべるのは「ルンバ」(iRobot)などのロボット掃除機だ。床など障害物がないフラットな場所ならば実用化されているが、課題はトイレなど複雑な形状をした設備の清掃である。

 

「ugoは家事代行や警備の作業をする実験で、場所を認識し、対象物に適度な力で触れることに成功しています。これらの技術を活用すればトイレ清掃も可能です。まず、トイレ内の地図、つまり便器の配置を覚えてさせて、順番に便器を清掃します。男性用トイレの場合、大と小で便器の形状が異なるので、その形状も認識させて清掃できるようにしたいと考えています」(松井氏)

 

ugoには昇降機能があり、30cmから160㎝まで高さを調節できるため、トイレットペーパーの交換や、床の拭き掃除など、低い位置の作業にも対応。また、MR(ミクスト・リアリティー=複合現実)の技術を取り入れているため、人の腕の動きを学習して、アームで便器を清掃できる。汚れはアームの先に取り付けられるブラシをモーターで回すことで落とすが、便器の外側と内側など、清掃する場所が変われば適切なブラシに交換するといったように、状況に応じた対応を考えている。

 

こうしてロボットが一通り清掃したら、ロボットの内蔵カメラが映し出した映像は離れた場所にある管理センターに送られ、人がモニターで清掃状態をチェックする。警備と同じように、清掃も人とロボットがそれぞれの役割を担うハイブリッド型として運用していく考えだ。

 

 

実証実験で課題を改善
実用化に向けて安全面の強化を図る

 

Mira Roboticsは、将来的にはロボットが施設の点検業務にも当たれるよう開発を進めている。電気やガスなどの使用量をチェックするメーター確認などが主な業務だ。

 

これらの作業は、検針員が施設内のテナントごとに設置されたメーターを巡回し、数値を確認してからエクセルなどの管理ソフトに入力するのが現状。巡回する労力もさることながら、確認ミスや入力ミスが起こることも課題の一つに挙げられている。

 

「点検ロボットだと、カメラでメーターを映して、その画像を自動的にクラウドに上げることで入力ミスは一切なくなります。各メーターの位置と巡回コースを学習させれば無理のない点検業務が可能だと考えています」(松井氏)

 

このように警備・清掃・点検といったビル管理でのロボットの実用化はもう目前まで来ている。ただし、課題がないわけではない。現在、改善に取り組んでいるのが走行性能の向上で、特に安全面を重要視している。

 

例えば、廊下を巡回する際に曲がり角などで出合い頭に人とぶつかることが想定されるため、暗いところではLEDライトで床を照らすなど、相手にロボットが走行中であることを知らせたり、人が近づいたら停止する衝突防止センサーを装備したりすることで安全面の強化を図っている。

 

実用化に向けて着々と前進するugoが広く普及するには、機能性の向上とともにコストを抑えることも重要。「警備員を1名雇用するには月に30万~40万円ぐらいの人件費がかかる。1カ月のロボットレンタルとプラットフォーム利用料を、その3分の1ぐらいに設定したいと考えています」(松井氏)

 

サービスの提供先はビルメンテナンス会社やデベロッパー、ビルオーナーなど。まずは現在進行中の実証実験で課題を改善し、トライアルサービスへと進む予定だ。サービスロボットの未来を切り開く上でも、今後、ugoが果たす役割は大きい。

 

 

警備員を1名雇用する3分の1ぐらいの利用料で提供したいと考えています

Mira Robotics 代表取締役CEO 松井 健 氏

 

 

PROFILE

  • Mira Robotics ㈱
  • 所在地:神奈川県川崎市高津区坂戸3-2-1 KSP東棟207
  • 設立:2018年
  • 代表者:代表取締役CEO 松井 健
  • 従業員数:7名(2020年1月現在)
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