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【特集】

現場の自動化

これまで機械を使った自動化と言えば、工場の生産ラインが中心だった。しかし、いまや建築現場、医療現場、物流現場など、さまざまな現場・職場で自動化が進められている。人の仕事の質をさらに高めてくれる自動化技術を追う。
2020.04.30

「or」(選択と集中)ではなく「and」(追加と融合)で生まれる価値:O2グループ(オーツーグループ)

 

2000mm×1350mmの大型加工から3mm×3mmの微細加工まで対応できることがIBUKIの強みだ

 

 

IoTとAIを活用し、倒産の瀬戸際から復活を遂げた山形県の老舗金型メーカーが注目を浴びている。その背景には、「ハード」「ソフト」「サービス」が三位一体となったソリューションで、日本のものづくりの在り方を大きく変えようと奮闘する企業グループの存在があった。

 

 

グループ内の知見を生かし新しいサービスを提供する

 

山形県山形市の小さな町・河北町の金型工場が、大手顔負けのデジタル化で次々とイノベーションを実現して大きな話題を呼んでいる。

 

IoTやAIを導入して射出成形中の「樹脂の流れ」「金型挙動」を計測し、可視化したモニタリングシステムの開発に成功。またAIを活用してベテラン技能者の知見をシステム化し、顧客から寄せられる多様な見積もり依頼に対し若手技術者が見積もりを作成できるようにした。そんな従来の常識を覆す取り組みで注目されているのが、射出成形用金型メーカーの「IBUKI(イブキ)」だ。

 

同社の前身は1933年創業の安田製作所。独自の加飾技術を持つ、金型業界の老舗企業として広く知られていたが、業績不振から2012年に本社を東京から山形に移転。だが、その後も業績が回復せず、倒産寸前まで追い込まれた2014年に大きな転機を迎えた。製造業向けコンサルティングを展開するO2が買収し、他の金型メーカーとは一線を画す取り組みを次々打ち出すようになったのだ。

 

「世界の潮流は、ものづくり企業のサービス化とサービス企業のものづくり化が進んでいます。例えば、アップル社はもともとメーカーですが、iPod(アイポッド)を発売した時、音楽を自由にダウンロードできる仕組み(iTunes:アイチューンズ)を提供し、いつでもどこでも好きな音楽が聴ける価値を提供した。要は、ハードもソフトも組み込んだ新サービスを提供した。これによって従来のビジネスモデルの枠組みは大きく変化したと私は考えています。継続的な事業展開を目指すのであれば、『or(または)』という選択の発想ではなく、『and(そして)』という付加の志向が重要です。日本企業の大部分が『or』という選択と集中を選ぶ中、IBUKIは金型というハードの提供だけでなく、ソフトの開発や新しいサービスを加えることで新しい価値を創出する企業として、進むべき方向性を定めました」

 

そう説明するのは、O2代表取締役CEOでIBUKI代表も兼務する松本晋一氏。同氏は、自身がけん引するO2グループ内で「and」の考え方を実証している。独自のモニタリングシステムや自動見積もり作成システムも、IBUKIが持つ長年にわたるものづくりのノウハウと、同じグループ会社の「LIGHTz(ライツ)」(茨城県つくば市)が持つAIによるソリューション技術、そしてO2による製造業特化型コンサルティングが融合して生まれたものだ。

 

※金型表面に微細な模様を施して成形品に独特の風合いを与える加工技術。成形後の二次加工を省略できる

 

 

AIによる作業の自動化が現場の常識を変える

 

IBUKIが実用化した射出成形中のモニタリングシステムと金型の自動見積もり作成システムは、まったく異なる役割を担うシステムだが、ある共通点がある。それは匠の技の「見える化」と「自動化」である。

 

いずれも従来はベテランの経験と勘に頼っていた領域で、経験の浅い社員がその役割を果たすことは難しかった。また少子化に伴う若手人材難に加え、ものづくり現場の海外移転が進み、国内金型業界はどんどん衰退するばかり。そんな課題を解決するため、ハード(IBUKI)・ソフト(LIGHTz)・サービス(O2)と複数のファンクション(機能)を有機的に結び付け、実現させたものだ。

 

モニタリングシステムは、金型にセンサーを埋め込み、成形中の樹脂や金型の状態を計測し、そのデータを顧客に提供することで生産性向上に役立てることができる。さらに出荷前の金型からセンシングデータを取得し、金型と一緒にチューニング(調整)に必要な情報として提供することで、顧客は予防保全や故障時の早期対処に役立てることもできる。一方の金型の自動見積もり作成は、自社内の課題から生まれたソリューションだ。

 

「金型の見積もりは、工場長などごく一部の熟練社員にしかできないため、非常に効率が悪かった。例えば、忌引休暇などで工事長が休むと他に誰も対応できない。すぐに対応できなければ、せっかくのビジネスチャンスを失うことになるわけです。しかし、多くの社員が見積もれる体制にしようとして、若手などに工場長のノウハウを教えていくと相当な手間とコストがかかります。そこでAIを活用し、過去の類似実績の検索・抽出システムを構築。さらにベテラン技能者からヒアリングし、その調査結果から職人的思考回路のネットワークを視覚化することで、若手社員でも見積書を作成できるようになりました」(松本氏)

 

 

 

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